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第八章 彼の気持ち(蒼side)
46.僕の決意
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「で、その子はどうなったの?」
週末の夜、麗夜さんのアパートに帰った僕は夕食を食べながら麗夜さんに会社での出来事を話した。
「別の部署へ異動になるって話だったんですけど、ずっと休んでます。今まで優しかった社内の人たち全員に手の平を返されて、少し気の毒なぐらいです。このまま退職するんじゃないかって噂です」
気の毒だと思いながらも津田くんがしたことを僕も内心全て許したわけじゃない。僕の営業先リストを細工していたことは許せても、リイさんの居場所を追っ手たちにバラしたことは許しがたい。無関係なリイさんを巻き込むなんて……。
「気の毒だと思うなんてやっぱり優しいなぁ、蒼は……」
麗夜さんは僕が作ったアラビアータをフォークで巻いて食べ、ワインを飲んだ。
「津田くんは僕よりずっと営業の仕事に向いていると思っていたので、どうして僕にあんなことをしたのか……。僕の営業先リストに細工なんかしなくても、きっと僕より成績いいはずなのに」
「そうかな? 俺が思うに、蒼はその子よりずっと営業向きだと思うよ。一生懸命で正直な子って応援してあげたくなるからね」
「え、僕が営業向きだなんて。社長の麗夜さんに言われたらお世辞でも嬉しいです」
「お世辞じゃないよ」
こんなふうに誰かと食卓を囲んで会話しながら夕食を食べるのってやっぱり楽しい。
忙しい麗夜さんは平日の夜は帰宅しないことや、朝方帰ってきて仮眠を取ってまた出勤していくこともあった。
それでも家に僕がいることを気遣って、極力帰宅するようにしてくれているみたいだった。社長って大変だなぁって思う。
僕は借りている合鍵でこの部屋に勝手に出入りさせてもらっている。
居候させてもらっているからせめてものお礼に家事だけでもしようと思っていたのに、帰宅すると部屋の中はいつもピカピカで冷蔵庫には食材が補充されていた。昼間僕たちが仕事へ出かけている間にハウスキーパーさんが全てやっておいてくれているのだ。
「明日は休みだね。俺も仕事を片付けてきたから、蒼とのんびり過ごせそうだ」
麗夜さんはほほ笑んだけど、僕は唇を噛んだ。
明日、僕はアパートの大家さんとアパートの修繕に関して話をする予定でいた。
アパートの窓ガラスが直ったら僕は麗夜さんの部屋を出て行こうと思っている。
麗夜さんと付き合って僕がここでずっと暮らすなら、僕が叔父さんへ返さなければならない残りの借金を全て肩代わりすると麗夜さんは言ってくれている。そしたら僕はもう自由になれる。そうでなくても、ここで麗夜さんと一緒に生活するのはとても楽しくて幸せだ。
けれど、僕の心には少しだけ引っかかっているものがあった。
「どうしたの……蒼?」
ペアリングまで用意してくれていた麗夜さんに別れを告げなければと思うと胸が痛んで言葉にするのを躊躇った。
でもこれでいいはず。麗夜さんみたいなすごい人が僕みたいな凡人の底辺営業マンを本来相手にすべきじゃないし、こんなふうに親身になって優しくしてくれるのもきっと何かの間違いなのだ。
一瞬の気の迷い。僕のこと好きとか本気とか思った感情全て幻想だとすぐに気付くに違いない。
借金だってきっと自分でどうにかできる。僕は叔父さんに交渉してまた借金の返済額を月5万へ戻してもらうつもりでいた。それなら苦しいがどうにか返済していけるはずだ。あとは割れたガラスを直す費用がどのぐらいかかるのか不安だけど。
麗夜さんは黙ったままの僕をじっと見ていた。
週末の夜、麗夜さんのアパートに帰った僕は夕食を食べながら麗夜さんに会社での出来事を話した。
「別の部署へ異動になるって話だったんですけど、ずっと休んでます。今まで優しかった社内の人たち全員に手の平を返されて、少し気の毒なぐらいです。このまま退職するんじゃないかって噂です」
気の毒だと思いながらも津田くんがしたことを僕も内心全て許したわけじゃない。僕の営業先リストを細工していたことは許せても、リイさんの居場所を追っ手たちにバラしたことは許しがたい。無関係なリイさんを巻き込むなんて……。
「気の毒だと思うなんてやっぱり優しいなぁ、蒼は……」
麗夜さんは僕が作ったアラビアータをフォークで巻いて食べ、ワインを飲んだ。
「津田くんは僕よりずっと営業の仕事に向いていると思っていたので、どうして僕にあんなことをしたのか……。僕の営業先リストに細工なんかしなくても、きっと僕より成績いいはずなのに」
「そうかな? 俺が思うに、蒼はその子よりずっと営業向きだと思うよ。一生懸命で正直な子って応援してあげたくなるからね」
「え、僕が営業向きだなんて。社長の麗夜さんに言われたらお世辞でも嬉しいです」
「お世辞じゃないよ」
こんなふうに誰かと食卓を囲んで会話しながら夕食を食べるのってやっぱり楽しい。
忙しい麗夜さんは平日の夜は帰宅しないことや、朝方帰ってきて仮眠を取ってまた出勤していくこともあった。
それでも家に僕がいることを気遣って、極力帰宅するようにしてくれているみたいだった。社長って大変だなぁって思う。
僕は借りている合鍵でこの部屋に勝手に出入りさせてもらっている。
居候させてもらっているからせめてものお礼に家事だけでもしようと思っていたのに、帰宅すると部屋の中はいつもピカピカで冷蔵庫には食材が補充されていた。昼間僕たちが仕事へ出かけている間にハウスキーパーさんが全てやっておいてくれているのだ。
「明日は休みだね。俺も仕事を片付けてきたから、蒼とのんびり過ごせそうだ」
麗夜さんはほほ笑んだけど、僕は唇を噛んだ。
明日、僕はアパートの大家さんとアパートの修繕に関して話をする予定でいた。
アパートの窓ガラスが直ったら僕は麗夜さんの部屋を出て行こうと思っている。
麗夜さんと付き合って僕がここでずっと暮らすなら、僕が叔父さんへ返さなければならない残りの借金を全て肩代わりすると麗夜さんは言ってくれている。そしたら僕はもう自由になれる。そうでなくても、ここで麗夜さんと一緒に生活するのはとても楽しくて幸せだ。
けれど、僕の心には少しだけ引っかかっているものがあった。
「どうしたの……蒼?」
ペアリングまで用意してくれていた麗夜さんに別れを告げなければと思うと胸が痛んで言葉にするのを躊躇った。
でもこれでいいはず。麗夜さんみたいなすごい人が僕みたいな凡人の底辺営業マンを本来相手にすべきじゃないし、こんなふうに親身になって優しくしてくれるのもきっと何かの間違いなのだ。
一瞬の気の迷い。僕のこと好きとか本気とか思った感情全て幻想だとすぐに気付くに違いない。
借金だってきっと自分でどうにかできる。僕は叔父さんに交渉してまた借金の返済額を月5万へ戻してもらうつもりでいた。それなら苦しいがどうにか返済していけるはずだ。あとは割れたガラスを直す費用がどのぐらいかかるのか不安だけど。
麗夜さんは黙ったままの僕をじっと見ていた。
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