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第九章 甘い生活(麗夜side)
54.蒼が両親と暮らした家
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「警察から逃げようとして二階の窓から飛び出したせいで足を骨折したそうで……」
逮捕されたから連絡が来たということではなく、親族だから入院の手続きをしてほしいということのようだった。
「とりあえず病院へ行った方がいいね。入院先の病院はどこ? 車で送るよ」
車の中で蒼は、
「大変なことになってしまいました、麗夜さんに迷惑をおかけしてしまい、なんとお詫びすればいいか……」
と言っていたが、俺にとって別に何の迷惑も被っていない。
「ふふ、俺のことは何も心配しないで」
突然の出来事に蒼はひどく戸惑っている様子だった。
「……病院のスタッフさんか看護師さんが必要なものを教えてくれるから、買うなり借りるなり手続きすれば大丈夫だよ」
総合病院のロータリーで蒼を下ろして、俺は駐車場に車を停めて待合室へ向かった。色々な手続きをしている彼の姿を後ろから見守っていた。
病院スタッフと私服警官らしき人に連れられ病室の方へ行ったが、蒼はすぐに戻って来た。
「のん気なもので本人はいびきをかいて寝ていました。叔父さんらしいと言えばそうですが……。面会はまた今度にします」
「うん、それがいいね。……ねえ、蒼。叔父さんが住んでいる家の鍵って持ってない?」
蒼の両親が叔父さんにしていたとされている借金の真相を解明するまたとない機会だと俺は思った。
「一応あります。……あ、そうか、しばらく叔父さんが帰れないから念のため家の様子を見に行った方がいいですよね。電気とかつけっぱなしだと火事になるかもしれませんし」
俺たちは病院から直接蒼のかつての住まいへと向かった。
なかなか立派な戸建てだった。よくある建売住宅じゃなくてこだわって建てられた家のようだとすぐにわかった。広い庭もあり、ぐるりとフェンスで囲まれている。叔父さんの知り合いの不動産屋に現状では買い手がつかないと説明されたと言っていたが、その話もどうも怪しい。
蒼は玄関の鍵を開けた。
「両親と住んでいた頃を思い出してしまうから、アパートへ出てからここへは来ていなかったんです」
缶ゴミの日に出せばいいものを、玄関の外に放置されていたビールの空き缶のゴミ袋を見て嫌な予感がしていたが、家の中はひどい有様だった。
玄関の靴箱の上には郵便物やチラシ、外出時に使ったらしい不織布マスクや使い捨てカイロなどがすぐに捨てればいいものが山になっている。
廊下には平積みされた週刊誌や競馬新聞などが置かれ、蜘蛛の巣やほこりにまみれている。蒼の出してくれたスリッパを穿いて、廊下を進む。リビングのテーブルの上は飲みかけのペットボトルや酒の空き缶、コンビニ弁当やカップラーメンの容器などが食べたままごちゃごちゃと放置され妙な匂いを放っており、思わず片手で口を塞いだ。
「大事に住んでくれるって言っていたのに……こんなに散らかして……。叔父さん一人暮らしだから仕方ないですかね」
蒼はどうにか自分を納得させようと苦笑いしたが、両親と暮らした家をここまで汚されて内心はショックだったようだ。
俺も長い間男の一人暮らしだったが、自宅をこんなふうにゴミ屋敷にしたことはない。蒼のアパートだって狭くて古かったが、きれいに住んでいたじゃないか。
特殊詐欺の容疑者として逮捕されたし、あの叔父さんはやっぱりどうしようもない男のようだ。蒼のお母さんの弟だというけれど、蒼と血のつながりがあるように思えない。
「ねえ、蒼、君のご両親が亡くなった後、念のため遺書とか探してみたかい?」
「いえ、交通事故で急に亡くなったので、遺書なんてあるわけないと年宏叔父さんが言ったんです。叔父さんは僕の両親からもしものことがあったら息子を頼むって言われていたって……」
蒼自身も叔父さんへの信用がずいぶん下がったようで、苦笑いしながら呟いた。
「ご両親は急なことに備えて一人息子のために何かメッセージを残していたかもしれないよ。いい機会だ、遺書が本当にないか一緒に探してみないかい?」
俺たちは生前にお父さんが使っていたという書斎へ入った。
逮捕されたから連絡が来たということではなく、親族だから入院の手続きをしてほしいということのようだった。
「とりあえず病院へ行った方がいいね。入院先の病院はどこ? 車で送るよ」
車の中で蒼は、
「大変なことになってしまいました、麗夜さんに迷惑をおかけしてしまい、なんとお詫びすればいいか……」
と言っていたが、俺にとって別に何の迷惑も被っていない。
「ふふ、俺のことは何も心配しないで」
突然の出来事に蒼はひどく戸惑っている様子だった。
「……病院のスタッフさんか看護師さんが必要なものを教えてくれるから、買うなり借りるなり手続きすれば大丈夫だよ」
総合病院のロータリーで蒼を下ろして、俺は駐車場に車を停めて待合室へ向かった。色々な手続きをしている彼の姿を後ろから見守っていた。
病院スタッフと私服警官らしき人に連れられ病室の方へ行ったが、蒼はすぐに戻って来た。
「のん気なもので本人はいびきをかいて寝ていました。叔父さんらしいと言えばそうですが……。面会はまた今度にします」
「うん、それがいいね。……ねえ、蒼。叔父さんが住んでいる家の鍵って持ってない?」
蒼の両親が叔父さんにしていたとされている借金の真相を解明するまたとない機会だと俺は思った。
「一応あります。……あ、そうか、しばらく叔父さんが帰れないから念のため家の様子を見に行った方がいいですよね。電気とかつけっぱなしだと火事になるかもしれませんし」
俺たちは病院から直接蒼のかつての住まいへと向かった。
なかなか立派な戸建てだった。よくある建売住宅じゃなくてこだわって建てられた家のようだとすぐにわかった。広い庭もあり、ぐるりとフェンスで囲まれている。叔父さんの知り合いの不動産屋に現状では買い手がつかないと説明されたと言っていたが、その話もどうも怪しい。
蒼は玄関の鍵を開けた。
「両親と住んでいた頃を思い出してしまうから、アパートへ出てからここへは来ていなかったんです」
缶ゴミの日に出せばいいものを、玄関の外に放置されていたビールの空き缶のゴミ袋を見て嫌な予感がしていたが、家の中はひどい有様だった。
玄関の靴箱の上には郵便物やチラシ、外出時に使ったらしい不織布マスクや使い捨てカイロなどがすぐに捨てればいいものが山になっている。
廊下には平積みされた週刊誌や競馬新聞などが置かれ、蜘蛛の巣やほこりにまみれている。蒼の出してくれたスリッパを穿いて、廊下を進む。リビングのテーブルの上は飲みかけのペットボトルや酒の空き缶、コンビニ弁当やカップラーメンの容器などが食べたままごちゃごちゃと放置され妙な匂いを放っており、思わず片手で口を塞いだ。
「大事に住んでくれるって言っていたのに……こんなに散らかして……。叔父さん一人暮らしだから仕方ないですかね」
蒼はどうにか自分を納得させようと苦笑いしたが、両親と暮らした家をここまで汚されて内心はショックだったようだ。
俺も長い間男の一人暮らしだったが、自宅をこんなふうにゴミ屋敷にしたことはない。蒼のアパートだって狭くて古かったが、きれいに住んでいたじゃないか。
特殊詐欺の容疑者として逮捕されたし、あの叔父さんはやっぱりどうしようもない男のようだ。蒼のお母さんの弟だというけれど、蒼と血のつながりがあるように思えない。
「ねえ、蒼、君のご両親が亡くなった後、念のため遺書とか探してみたかい?」
「いえ、交通事故で急に亡くなったので、遺書なんてあるわけないと年宏叔父さんが言ったんです。叔父さんは僕の両親からもしものことがあったら息子を頼むって言われていたって……」
蒼自身も叔父さんへの信用がずいぶん下がったようで、苦笑いしながら呟いた。
「ご両親は急なことに備えて一人息子のために何かメッセージを残していたかもしれないよ。いい機会だ、遺書が本当にないか一緒に探してみないかい?」
俺たちは生前にお父さんが使っていたという書斎へ入った。
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