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31.送還の魔術

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 いつ幕が下りたのかもわからなかった。
 気がついたらガウンをまとい、リヒトに抱きかかえられて楽屋のような部屋のソファーで休んでいた。

「終わったのか……?」

「ふふ、覚えてないの? 意識飛ぶほど良かったんだ? 俺も最高に良かったよ」

 と奴はいたずらっぽく微笑んだ。

「フン、良くなどないっ!」

 我は奴の胸を押し退けて、ソファーの端に座った。

 リヒトはガウンではなく、ここまで着てきていた剣士の衣服を身につけていた。
 我が意識を失っている間に着替えていたのだろう。

 ガチャッとドアが開いて、室内にウォズと数人の兵士が入って来た。

 ウォズは我々の舞台に満足している様子でこちらを見てニヤニヤと笑っていた。

 必要以上に痴態を晒してしまったことを思い出した我は火が出そうなほど顔が熱くなった。あんな大勢のエルフが見ている前で人間に犯され絶頂し、大量の潮を吹いてしまったなんて。魔王であるこの我が……。

 恥ずかしさに耐えきれず目を泳がせていると、ウォズの手に青い宝石の腕輪がはめられていることに気付いた。
 ……あれが青の魔石か。

「約束通りリヒトを元の世界へ帰してやろう」

「うん、お願い」

 てっきりこの世界に残りたいとごねるだろうと思っていたリヒトが、すんなりとウォズに頷いてみせた。

 本当に貴様はもうこれで他の世界へ帰ってしまうのか?
 リヒトのがっしりとした筋肉質の腕を掴んで尋ねたかったが、我にはそうすることが出来なかった。

 我はただ黙って、魔法陣を描いているウォズを眺めるリヒトの横顔を見ていた。

 我が見ていることに気が付くと、奴はこちらを向いてニコッと笑い、清々しいほどにすっきりとした顔をした。
 そして何も言わずどんどん描かれる魔法陣を見ていた。

「ほら、準備が出来たぞ」

 ウォズに手招きされ、奴は床に描かれた魔法陣の中へ進んで行った。
 こちらを向き、我に笑顔で手を振った。

「じゃあね、ルシファー。今までありがとう。元気で」

 待ってくれ。貴様は本当にそれでいいのか?
 と奴に本心を聞こうかと思った。
 今ならまだ間に合う。このままこの世界で暮らすと言ってもいいんだぞ、と喉元まで出かかった。

 しかし我にしてみれば、やはり亡き父の意志を尊重して立派な魔王にならなければという思いが強かった。
 立派な魔王として生きるにはオメガではなくアルファであることが重要だ。
 魔王は誰よりも強くなくてはならない。
 発情に苦しみ、誰かに抱かれる存在であっていいはずがない。
 だから、リヒトには元の世界に帰ってもらわないと困るのだ。

 心の中で葛藤しているうちに、ウォズが呪文を唱え始めた。
「ま、待って……」
 迷いながら絞り出した小さな我の声はきっとリヒトに届かなかっただろう。

 我と目が合いにっこりと笑った奴の体は光に包まれ、そして消えた。
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