最初に好きになったのは…声

高宮碧稀

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第1章*最初に好きになったのは

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あ…ヤバイ。

そう思った時は、頭痛とひどい倦怠感で、すでに動けなかった。 
…あいつらのいない世界に行きたい
情けないことに、そんなことすら思う。
あいつらっていうのは、同じクラスの品のないメスどものことだ。
ケバイ化粧で元の顔がわかんねぇし、やたら触ってくるし、髪は痛んでるし。
何よりもキンキンした声が不快だった。

チャイムとともに、やっと一日終わったと思ったら、あいつらが即近づいて来やがった。
「リュウ~カラオケ行こうよぉ」
今日は木曜。サトシはバイトの日だな。
素早く記憶をたぐり寄せ、即答。
「今日はムリ」
「なんでぇ~?」
うん。それはね…もったいないから。そろそろ学べよ。
ケバくてもなんでも、女なら誰でもいいっていうサトシがいない今日、メスどもに使う時間はない。

いつもは仕方なくつきあってる。
中学からつるんでるサトシが、メスどもといたがるから。
サトシは軽いけどいいやつで、オレは二人でつるんでも楽しいんだけど、サトシはすぐ女を混ぜたがる。
いや、軽さでは俺もまあ…同類だけど。
女はいいんだけど、俺はもうちょい品があるのが好みだ。
サトシはケバい化粧に、だらしなく着崩した制服、頭空っぽの会話しかしないこいつらといるのが楽しいらしい。

今日もくっせぇな…
何?おまえら風呂入ってねえの?
そんなに香水ふりかけなきゃ、獣臭消えないわけ?
あージャングルに帰んねぇかなーこいつら。
「なんか用事あるのぉ~?」
「………」
あ、ヤベ。
「用事ないんじゃ~ん」
「カラオケ行こぉよぉ」
ジャングルで獰猛に生き残るメスどもを、ついつい想像していて生まれた沈黙…野生のカンで嗅ぎつけられた。
「…かったりぃけど、清水に呼ばれてんだよ」
清水はウチの担任だ。呼ばれてるのは、もちろん嘘だけど。
「やだ~リュウ、何したの~?」
あーもう、マジでしゃべんな。耳障り。
「逆に何もしないし、何も提出しないからじゃね?」
「いつ終わるぅ?まっててあげるぅ」
頼んでねぇし。
いや、むしろ頼む。ジャングルに帰ってくれ。
「わかんねぇ。時間あったら合流するわ」
とたん、騒ぎだすメスども。
「じゃぁ、連絡先教えてよ~」
「連絡つかないじゃん」
しまった。そんな恐ろしいこと、許すはずがない。
いつもはサトシが嬉々として連絡をとってるから、俺の個人情報は守られている。
「いつもんとこだろ?今時間ねぇし。じゃな」

なんとか下校をずらして巻いたはずなのに…
メスどもは清水を捕獲して、聞き出したらしい。
「いた~?」
「どこいったんだろぉリュウ~」
「もぅ~清水に呼ばれてるなんてウソついてぇ」
今はまだ帰れない。
おいしくいただかれてしまう。

9月とはいえ、まだ暑い。
1段ずつ踏むたびに温度が上がる階段を、気づかれないように、そっと昇った。
この校舎は1階が事務室と特別教室、2階が職員室、3階が美術室と図書室だ。
目指すのは、もっと上。
3階を過ぎて、屋上へと続く階段を昇る。
もちろん屋上は閉まってる。
扉の前には雑然といらない道具や処分をまつだけの壊れた椅子や机が置かれている。
ここへ来る生徒は皆無だろう。
しばらくここでやり過ごすしかない。
暗い階段に、ゆっくりと腰を降ろした。

………で、この有様。
頭がガンガンして、立とうとしたら足がふらついた。
かたわらのバックが、踊り場まで不規則に転がる様子を、他人事のように見た。
あの中に、ペットボトル入ってるのに。
脱水症状?熱中症?
とにかくヤバイ。
倦怠感で、もう一生階段から離れられない気がする。
誰もこないこの場所で、倒れて発見が遅れるとか…
勘弁して欲しい。
あいつらのいない所に行きたい。
いや、今はあいつらの野生の嗅覚ですらすがりたい。
早く見つけに来い。メスども。
情けなくもそう思った時…

耳鳴りをかき消すように、その、声がした。
「だ…大丈夫?」
痛む頭ん中に、スッと届いたやわらかで透明な声。
温度をなくした、体中の…血が、騒いだ。 

「具合、悪いの?」
下の方で最初聞こえた声は、今、すぐそばで聞こえる。
反応すら出来ない俺の、肩をそっと揺する。
「…動かさない方がいいのかな?」
迷っている様子がぼんやりと伝わってきた。
「熱中症…?」
たぶん、間違いない。必死で頭を縦に振った。
動かさない。その決断は、マジで死が近づく。
早くここから移動してもらわないと。
「立てる?」
女の手助けでやっと歩くなんて、一生の不覚。
でも、熱中症で救急車とか、死んだ方がまし。
よろよろと、時間をかけてどこか涼しい場所に移動した。
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