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第1章*最初に好きになったのは
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正直、覚えてないし、何分かかったか、わかんねぇ。
とりあえず、涼しい場所に腰を落ち着けた。
その安堵も手伝って、普段の何倍もの重力がかかったように、指一本動かなかった。
耳鳴りの彼方で、パタパタと音がする。
時々、ガチャンと耳障りな音も。
「飲める?」
しばらくして、口にあてがわれたペットボトル。
中の液体を、夢中で飲んだ。味はわからなかった。
「良かった。飲む元気はある」
確認するような独り言。
ホッとしている様子の声音は、今まで聞いた何人もの声の中で、一番優しかった。
「ちょっと首ヒンヤリするからね」
目がチカチカして、開けてるのか閉じてるのかわからない。
その中で、耳に忍び込んだその声と、首に当てられた冷たい感触だけが気持ちいい。
「内線かけたけど、保健の先生が留守みたいなの」
内容はあんま頭に入ってこない。
ただ、気持ちいい。首と、耳が。
もっと。…もっと、しゃべって。
「職員室に行って、誰か先生を呼んでくるね」
体育の先生とか…そう続けたようだったけど、そんなことはどうでも良かった。
いなくなる。
それだけがわかった。
いかないで。
それだけを思った。
傍らにあったその腕を、ギュッと握って、かすれた声で願う。
「なん、か…しゃべって」
絶対動かないと思っていた俺の指は、あっさりと活力を取り戻して彼女の腕を捕まえた。
頭痛なんて、止まった気がした。
耳鳴りなんて、やんだ気がした。
もうろうとした意識をやっとつなぎとめて、声の主を見上げる。
初めてまともに見た、俺の血を騒がせた…その人。
正直、絶句。
つかんだ腕は、本当にこいつなのかと、自分の指がすがりついた腕に目線を落とし…もう一度、見上げた。
………マル。
マル、なんとか?
なんとか、マル?
名前は知らないけど、マルと呼ばれる図書室の…お姉、…さん。
お姉さんと呼ぶのに、かなり抵抗がある。
いや、歳はたぶん20代前半?
そう呼んでいいくらいの歳だと思うけど。
おばさんは、あんまりかわいそうだけど。
でも、いや、だけどっ!!
お姉さんって…もっとこう……ねぇ?
おまえ、マルすぎんだろっ!!
「マル」は、確かに名字か名前についてたと思うけど、体つきにぴったりだった。
視線を戻せば、指が食い込むほど肉厚な腕。
下から見るせいも手伝ってか、あごは二重。
ハイ。丸々太ったブタさんを捕まえました。
ショックを受ける心とは裏腹に、口からは知らずとさっきの言葉。
「もっと…なんか、しゃべってよ」
何いってんだ俺。
あわてて付け加える。
「気が…紛れるから」
でも…といいたげ。そんな顔をした彼女を見て、ちょっと安心した。
あ、良かった。今の顔はスキ。
何が“良かった”のか、わからないまま、唇が彼女の声をねだる。
「ねぇ…しゃべってよ」
腕を捕まれた彼女は、そのおっきい体で俺の横に腰を降ろした。
「少しでも今より気分悪くなったら、ちゃんといってね?」
返事のかわりに笑うと、彼女も安心したように笑った。
あ、この顔も…スキ。
ピンクの扇子で、俺に風を送ってくれる。
タオルやペットボトルと一緒に持ってきたんだろう。
彼女は、時々、意識を確かめるように俺に質問しながら話した。
「本、読む?」
ぶんぶん
「帰宅部なの?」
こくこく
「兄弟は?」
「…兄貴が2人」
だいぶ楽になって、返事出来るようになってきた。
物足りなくなってきて、こちらからも話し出す。
「何歳?」
「女の人に歳聞く?……23歳」
でも言うんだ?へぇ~6歳差か。
「どこ住んでるの?」
「徒歩10分なの。いいでしょ~」
一人暮らしかな?
「男は…いないよね?」
「もうっ!!何で決めつけるの!?」
「っ!?いるのっ!?」
「………いません」
だよね。
焦って聞き返した意図と、ホッとして笑みがこぼれた意味。
自分でもちょっとひっかかったけど、とりあえず気づかないふりを決め込んだ。
とりあえず、涼しい場所に腰を落ち着けた。
その安堵も手伝って、普段の何倍もの重力がかかったように、指一本動かなかった。
耳鳴りの彼方で、パタパタと音がする。
時々、ガチャンと耳障りな音も。
「飲める?」
しばらくして、口にあてがわれたペットボトル。
中の液体を、夢中で飲んだ。味はわからなかった。
「良かった。飲む元気はある」
確認するような独り言。
ホッとしている様子の声音は、今まで聞いた何人もの声の中で、一番優しかった。
「ちょっと首ヒンヤリするからね」
目がチカチカして、開けてるのか閉じてるのかわからない。
その中で、耳に忍び込んだその声と、首に当てられた冷たい感触だけが気持ちいい。
「内線かけたけど、保健の先生が留守みたいなの」
内容はあんま頭に入ってこない。
ただ、気持ちいい。首と、耳が。
もっと。…もっと、しゃべって。
「職員室に行って、誰か先生を呼んでくるね」
体育の先生とか…そう続けたようだったけど、そんなことはどうでも良かった。
いなくなる。
それだけがわかった。
いかないで。
それだけを思った。
傍らにあったその腕を、ギュッと握って、かすれた声で願う。
「なん、か…しゃべって」
絶対動かないと思っていた俺の指は、あっさりと活力を取り戻して彼女の腕を捕まえた。
頭痛なんて、止まった気がした。
耳鳴りなんて、やんだ気がした。
もうろうとした意識をやっとつなぎとめて、声の主を見上げる。
初めてまともに見た、俺の血を騒がせた…その人。
正直、絶句。
つかんだ腕は、本当にこいつなのかと、自分の指がすがりついた腕に目線を落とし…もう一度、見上げた。
………マル。
マル、なんとか?
なんとか、マル?
名前は知らないけど、マルと呼ばれる図書室の…お姉、…さん。
お姉さんと呼ぶのに、かなり抵抗がある。
いや、歳はたぶん20代前半?
そう呼んでいいくらいの歳だと思うけど。
おばさんは、あんまりかわいそうだけど。
でも、いや、だけどっ!!
お姉さんって…もっとこう……ねぇ?
おまえ、マルすぎんだろっ!!
「マル」は、確かに名字か名前についてたと思うけど、体つきにぴったりだった。
視線を戻せば、指が食い込むほど肉厚な腕。
下から見るせいも手伝ってか、あごは二重。
ハイ。丸々太ったブタさんを捕まえました。
ショックを受ける心とは裏腹に、口からは知らずとさっきの言葉。
「もっと…なんか、しゃべってよ」
何いってんだ俺。
あわてて付け加える。
「気が…紛れるから」
でも…といいたげ。そんな顔をした彼女を見て、ちょっと安心した。
あ、良かった。今の顔はスキ。
何が“良かった”のか、わからないまま、唇が彼女の声をねだる。
「ねぇ…しゃべってよ」
腕を捕まれた彼女は、そのおっきい体で俺の横に腰を降ろした。
「少しでも今より気分悪くなったら、ちゃんといってね?」
返事のかわりに笑うと、彼女も安心したように笑った。
あ、この顔も…スキ。
ピンクの扇子で、俺に風を送ってくれる。
タオルやペットボトルと一緒に持ってきたんだろう。
彼女は、時々、意識を確かめるように俺に質問しながら話した。
「本、読む?」
ぶんぶん
「帰宅部なの?」
こくこく
「兄弟は?」
「…兄貴が2人」
だいぶ楽になって、返事出来るようになってきた。
物足りなくなってきて、こちらからも話し出す。
「何歳?」
「女の人に歳聞く?……23歳」
でも言うんだ?へぇ~6歳差か。
「どこ住んでるの?」
「徒歩10分なの。いいでしょ~」
一人暮らしかな?
「男は…いないよね?」
「もうっ!!何で決めつけるの!?」
「っ!?いるのっ!?」
「………いません」
だよね。
焦って聞き返した意図と、ホッとして笑みがこぼれた意味。
自分でもちょっとひっかかったけど、とりあえず気づかないふりを決め込んだ。
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