最初に好きになったのは…声

高宮碧稀

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第1章*最初に好きになったのは

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だいぶましになってきた。軽口も出せるようになったけど…
彼女にすがっていた指は、意識がしっかりしてきた今、意志を持って彼女を捕らえたまま。
きっと、どうかしてるんだ。
だって…可愛く見えてきてる。
ふざけんな。マルのくせに。
いや、好みじゃないよ?
そりゃ、どっちかっていったら、ぽっちゃりめが好きだけど。

はっきり言って、こいつちがうじゃん!!
度を超えてるじゃん!!
ぽっちゃり系じゃなくてうっちゃり系の横綱級じゃん!!

なのに…だまれっ!!俺の口っ!!
これは合コンの、しかも気に入った子へのノリだろ!?
まして、自分はいつも聞かれる側なのに。
しかも、全然警戒せずに答えてくるし…いくらマルでも、触れたままの俺の指を、すこしは意識しろよと思う。
かといって振りほどかれるのは淋し……って、だからぁ!!

今日の俺はやっぱおかしい。
マルだよね!?マルだけど!!マルなのに…
そう、マルのくせに。

ヤバイ。
本当になんか…ドキドキ、してきた。
体はだるいけど、頭はだいぶはっきりしてきた。
自分にひたすら言い聞かせる。
暑さのせいだとか、ずっと特定の彼女がいないからだとか。

「…篠原くん?」
だまりこんだ俺に、心配そうな顔で、彼女が声をかけた。
リュウって…呼ばねーかな?
いや、そうじゃなくて。
「俺の名前わかんの?」
そういうと、彼女はクスッと笑って目を細めた。
「有名だから。それより、ぼーっとしてるけど…」
大丈夫?とのぞき込んでくる。
マルのくせに…いい匂いさせてんなよっ!!
そう思うかたわら、意外と長いまつげにみとれる。
ぷっくりとした、何もつけていない唇がやけに近い。
その唇にさわりたがる、空いた方の俺の手。
その欲を押さえたのがいけなかった。
気づいた時には…

近すぎて、彼女の見開かれた左目しか見えなかった。
自分でもびっくりした。
自分の行動と、彼女のやわらかな唇に。
あわてて離れようとしたけど…
唇同士が引き離されようとするその刹那、惜しくなった。
もっともっとと、心が悲鳴をあげた。
彼女の時間が止まっているのをいいことに、離れそうな唇を、角度を変えてもう一度押し当てる。
びっくりした彼女の目が、2回瞬きした。
近すぎて、瞬きのその音まで聞こえた。

シャンプー?フレグランス?
なんかわかんないけど、いい匂いがして…
唇に噛みつきたくなる衝動を押さえた。
あぁ、俺も…女たち同様、ただのオスだったみたい。
獰猛な欲望を抑えたかわりに、ペロリと彼女の下唇をなめた。
俺のモノだと、いわんばかりに。
その瞬間だった。
やわらかい唇の感触は、弾けるように、バッと遠ざかった。
おびえるように立ち上がったその体は、とらわれた腕に、クンッと引っ張られてとどまる。
よかった。捕まえといて。
目を見開いたまま、呆然と俺を見るその表情は、まるで赤ちゃんみたいで可笑しかった。
視線が絡んだとたん、彼女が目をふせた。

ねぇ、こっち…見て?
視線を落とした彼女の頬が、一気に染まった。
たぶん、俺の唇を見たんだ。
今時、23歳でファーストキス?
違ったとしても、ほんの何回かしかしたことのないその様子に…自分でも驚くくらい満足した。
どうしていいかわからずにいる彼女が、可愛くて、かわいそうで…
ちょっと…いじめたくなった。

「センセー?男子高校生とチュウしちゃったね」
わざと先生だってことを思い出させた。
はっとして上げた顔に、ぶっと吹き出した。
なんか、マジで笑っちゃうくらい可愛かったから。
家で飼ってる猫が、びっくりした時の顔を思い出した。
目をまんまるにして。
デブ猫にハマる人の気持ちが、初めてわかった。
びっくりした顔から、泣きそうな顔に変化する様子すら、胸を熱くする。
ニヤケるくらい…うん。可愛い。

もういいやって思った。
もう、いいや。
だって、どの表情も可愛く見えてきた。
その声で、血は騒ぎ続けた。
その瞳に俺だけを映したかった。
唇を、もっと重ねたかった。
もういいや。
認めてしまおう。

たぶん俺、暑さでどうかしてる。
この事がなければ、卒業まで話してない。
全然好みのタイプじゃない。

そんなのも、もういいや。
思うのは、ひとつだけ。
リュウって…りゅうって、いつか言わせたい。
結構モテる方の俺が好きになったのは、目も体もまんまるの、マル。
困った顔も、微笑んだ顔も、ちょっと怒った顔も、好き。
目を見開いて驚いた顔と、泣き出しそうな顔は、もっと、好き。

でも…
最初に好きになったのは、声。
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