最初に好きになったのは…声

高宮碧稀

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第2章*放課後の図書室に

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時間は、ちょっと遅め。
そして、最新の注意を払う。
浮かれた様子をなるべく隠して、極力だるそうに歩く。
そんな取り繕った様子が、自分でも恥ずかしいけど。
仕方がない。人に見られたら、色々と面倒だから。
自分でも驚いてる。毎日繰り返しても飽きないこの習慣に。
扉を開ける前に、ちょっと息を整える。
3階が近づくにつれ、いつも早足になってしまうから。
極力つまんなそうな顔を作って、扉に手をかけた。
ガラガラと、わざと音を立てて扉を開ける。
きっと、誰が来たかわかってるのに、彼女は今日も準備室から顔をのぞかせた。
お目当てのデブ猫は、今日も無条件に可愛い。
わかってる。ホレた弱みだ。
穏やかに目を細めて、その唇がやわらかな声を紡いだ。

「こんにちわ」
「……コンチワ」
ガラじゃないけど、思わず返す。
不思議なことに、どんなトゲのあるやつも、彼女からの挨拶に答えてるのを目にする。
まぁ、そこまでガラの悪い連中は図書室に来ないだろうけど。
廊下で座り込んだりしてる連中にも、彼女は平気で挨拶してる。
他の女教師なんかは無視して横を通り過ぎたりしてるのに。
「…ちわッス」
なんて、返ってきてるのを最初にみた時は驚いた。
てっきり“うっせーデブ”とか、無視とかだと思ったのに。
彼女に言ってみたら、不思議そうに返ってきた。
「え?普通返事するでしょ?」
あ、ごめん。唇ばっかみてた。
首傾げてこっち見るのは反則。ちゅーしたい。

気を取り直して…
普通の人にすればね。
相手はガラの悪い男子高校生だってわかってる?
あいつら、本当にこの学校受験して通ったのかよ。
廊下にあぐらかいてバカ笑いして…通る女に「おっぱいもませてぇ~ギャハハ」とか言う奴らだよ?そう重ねて言ったら、平気な顔で答えた。
「そういえば、最初に言われた」

そいつら…コロス。

「……なんつって、やりすごしたの?」
どうしようもなく不機嫌な俺の声に、気づいてる?
「同じくらいぷよぷよだから、手でガマンしてって」
“たまに触ってくる”と続ける。
…俺も触りてぇ。
その、えくぼのできてる手にも。
やわらかそうなほっぺにも。
一度確かめた唇にも…どこもかしこにも。
触って、唇を押し当てて、俺のこと以外、なにも考えられないようにしてやりたい。
まぁ、それは、今となってはかなり難しいんだけど。

あの日…
結局本当に泣き出しそうな彼女に負けて、すぐにおどけたフリをした。
「看病のお礼~若い男にキスされて嬉しい?」
笑って言ったけど、マルは口をパクパクさせたあげく、何もいえずに黙ってしまった。
あ~もぅ。いちいち可愛いなオイ。
そう思う俺は、もはや病気だな。
あ、ちょっと涙目。
意外と長いまつげが並ぶまぶたに、吸い寄せられそうになる唇を、なんとかなだめすかした。

「内緒にしといてやるね」
わざと恩に着せる。
戸惑うように揺れた瞳が、今度こそはっきりと潤んだ。
そうさせたのが自分だっていう、ひどくゆがんだ感情が胸を占めた。

罪悪感と満足感?
背徳感と充実感?

わからないけど、涙一粒さえ取りこぼしたくなかった。
流させた涙すら、自分のものにしたかった。 
とらえた腕をまた強く引き寄せ、頬に伝う寸前の涙をなめとって…
「内緒に、しといてやるね」
固まったマルに、もう一度耳元でささやくのを忘れずに、荷物を持って図書室を出た。
腕を手放す時に初めて感じる、切なさと、名残惜しさ。
しかも、マル相手にだ。
その日、眠れなかったなんて…一生言えやしない。

うん。そうだな。
マルを口説く以外では、一生誰にも言わないことにしよう。
そして“マルだって、あの日眠れていませんよう”になんて…
まるで、祈るようにそう願っていたのは…マルにだって、内緒の話。
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