最初に好きになったのは…声

高宮碧稀

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第3章*俺だけのはずなのに

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今日は、遠雷が鳴っている。夕立が来そうだ。
サトシはバイトだから、余計な詮索をする前に帰って行った。
クラスのメ…女どもも、雨の前にと出て行った。
湿気の多い階段を、今日も早足にのぼる。
外がいつもよりも暗いけど、俺の心は晴れている。
…マルは、雷が苦手なのだ。
先週の夕立の時、いちいちビクついていてかわいかった。
あたりに閃光がさせば、ほんのちょっとだけ俺の方にすがるように身を寄せた。
今日も、きっとそうなる。
そう思うだけで、独占欲が満たされていく。

扉の前まで来たところで、はかったように辺りが白く光った。
「きゃっ…」
小さな悲鳴が中からもれた。
引き戸のドアを開ける音にかぶせて、なかなかの音が鳴り響く。
結構近くに落ちたかもしれない。
そう思いながら窓の外を一度見やって、目当ての悲鳴の主を探して視線を戻した。
マルは準備室ではなくて、カウンターの前にいた。
雷におびえ、小さくはない体を縮こまらせて、下を向いている。
雷が聞こえないように、両耳をふさいでいたけど…その手は、マルのものではなかった。

マルは…
一人じゃなかった。

「相変わらず雷苦手だね」
マルの正面に立つ男が、マルの顔を両手で挟むようにして彼女の耳をふさいでいる。
下を向いたマルは、それでも頼るように男のシャツの端を握っていた。
雷にかき消された扉の音で、二人は俺に気づいてない。
その場から逃げ出したいような、変なイラだちが襲った。
でも、足は縫いつけられたように動かない。

マルは俺のって訳じゃないけど。…まだ。
でも、なぜか裏切られたような気持ちがわき上がる。
俺にはちょっと身を寄せるだけなのに。
それだけで、嬉しかった甘い優越感は、容赦なく踏みつぶされた。
そいつ、ダレ?
マルの、ナニ?
マルが、ゆっくり顔をあげた。視線のには優しげに微笑む見知らぬ男がいる。
楽しそうな男が、そっとマルの耳から手を離した。
まるで、何かの儀式を見ているようで…
声なんて、かけられなかった。

俺の想いスルーして、そいつの事は見つめるの?

大学生…?俺より少し歳上くらいで、細いフレーム眼鏡がインテリぶっててムカつく。
似合ってんのが、さらにムカついた。
色は白いのに、締まった体をしてんのも、俺より高いっぽい背も、何もかもが俺をイラだたせた。
何よりも、マルを見る優し気な瞳が気にくわない。
そんな目でマルを見るのは、俺だけだと思ってた。
気配を感じたのか、視線が痛かったのか…
その時、ふと男が顔をあげた。

「チョビ、お客さん」
ゴロゴロと雷がうなっている。
チョビ?マルの事だろうか。
「あ…篠原くん」
雷にビビって泣きそうなマルは、顔だけあげて俺を見た。
顔は上げたけど、男のシャツはつかんだまま。
もうちょっとあわてて欲しい。
俺を全く意識してないのか、男との関係が、見られても困らない程度のものなのか…
どうか後者でありますようにと、すがるように願った。

「こんちわ」
マルじゃなくて、男にいう。
「こんにちわ」
余裕の笑みで返された。
「篠原くん、返却?」
マルが外を気にしながら聞く。
「ん。結構面白かった」
最近は、マルのおすすめを借りていく事が多くなった。
出した本を見て、口を開いたのは男の方だった。
「結構本読む方なんだ?」
手を伸ばしてきたので、本を手渡す。
「…いえ。最近読み始めて…」
一応、敬語。
本は、マルが読みやすいのを毎日勧めてくるから、2日に1冊くらいのペースだ。
たまに徹夜して1日で読み終えるくらい面白い本もあった。
休み時間に、メ…女どもを追い払うのにも一役買っている。

「チョビのオススメ?」
やはりチョビはマルの事らしい。
「…ハイ」
「ふぅん」
長い指で、思わせぶりに表紙をなでて、それをながめていた。
しばらくして、マルをみやって…
「…「ひゃんっ」だね」
なにかいったけど、雷と、不意打ちで悲鳴になりきれてなかったマルの声に打ち消された。
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