最初に好きになったのは…声

高宮碧稀

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第4章*せめて瞳をそらさないで

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マルの顔を思い出しかけたとき、鋭い痛みと鈍い音が響いた。
「いっ…つぅ~」
母さんが拳を握っていた。
「うわ~グーかよ」
軽口を叩く圭を、ギロリとにらんだ後、小柄な体が俺に向き直る。
「当たり前です!!犯罪じゃないのっ!!」
興奮したようすで『情けない!!あぁ、バカな子に育てちゃった』とグチっている。
「去年は同意の上だったし、向こうも多少…結構、いや、かなり悪いと思うけど…」
確かに、誘ったのはあっちからだったし。
「だからって、軽率過ぎるでしょう!?」
そう、去年27歳の保健のセンセとそういう関係になったから。
「図書室の先生だって、去年に引き続きそんなことになったら…処分されるでしょ!!」

それは…一番こたえる。
マルが、前のように厳しい目で見られるのはがまんできない。
だから、人の少ない時間を選んで通ってるんだから。
保健医は、俺だけじゃなくて、色んな男子生徒をつまみ食いしてた。
もちろん俺は知ってた。
気の毒なことに、自分だけだと信じ、付き合ってるつもりだった生徒もいるってハナシ。
そんなんだから、生徒のプライバシーは守られ、少なくとも秘密裏にしか特定されなかった。
それに対し…彼女への風当たりはつらく、それからすぐに辞めてしまった。
思い出すと、ますますマルへの想いは表に出せない気がした
マルから笑顔を奪う気はない。
まぁ、すでに泣かせたけど。

「もうなにもしないって伝えてからは、約束守ってる」
自分でもびっくりするくらいの、弱々しい声。
「…………信じていいのね?」
母さんの声がちょっと優しくなった。
「本気だから…卒業まで待つ」
今度は、自分でもびっくりするくらい、しっかりとした声が響いた。
緊張を解くように、我が家の猫ルナがにゃぁと鳴いて、そのしっぽを揺らした。
長くため息をもらした母さんの肩を、圭がポンとたたいてこちらをみる。
「真剣っぽいし、様子みるってことで」
「…信じてるから」
母さんがいった。

「…ん。もう困らせたりしない。マルも、母さんも」
いや、マルは俺の気持ち自体に困るだろうけど。
ちょっと気が滅入る。
今、マルは玉木さんに笑顔を向けているんだろう。
「じゃ、俺はバイト行くかね~」
出かける前だった圭が、今度は俺の頭をグシャグシャになで回しながらいった。
「夕飯はたくみ待つよね?俺もコンビニ行ってくる」
そう言って自分も財布を探す。
父さんは6時には帰るが、上の兄である匠の帰りを待って、我が家の夕食は遅めの8時過ぎだ。
マルと玉木さんを思って、家にいてもいたたまれない。
しかも、母さんとも少し気まずいし。
圭と一緒に家を出た。

「…いてくれて、助かった」
母さんと二人では、話は収まらなかっただろう。
駅までの道のり、ポツリとそういうと、圭は意地悪く笑った。
「篤弘はライバルってわけ?」
“よりにもよって手ごわいヤツを…”そう続けたので、不安になった。
「玉木さんの気持ちは、まだわかんないけど…」
怖くて続きを紡ぐのを、少しだけためらった。
「やっぱ…手強い?」
地面を見つめながらつぶやく。弱気な声が情けない。
「んー、まぁ、モテたな。本気になったら、落ちない女いないかも」
その言葉に、思わず顔をあげた。
ヤバい。やっぱそうか。
「なんだよ?それはオマエも一緒だろ?」
“俺の弟なんだから”とかなんとか言ってるみたいだけど、あんま頭に入ってこない。
「ナニナニ?自信ねーの?」
自信…ちょっと考える。
適当な女となら、本気にならなくたって 楽しんできた。
俺がそんなんだからもちろん、向こうだって盛り上がるのは一時期だ。
でも、今度は違う。
マルを、ずっと捕まえておきたいんだ。
そう考えた時…顔を上げることはできなかった。
「自信…ない」

なにせ、初めてですから。
こんなに人を好きになったの。
圭はそれを聞くと、ますます意地悪い顔になって口を開いた。
「青春だねぇ」
そう、一言。
…人の純愛を、バカにしないでいただきたい。
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