私が月になる

琴音

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40. 二人で

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まだ小雨に雪が混じったりして、寒い日が続いているが春はそこまで来ている。
冬のあいだ、枯草にしか見えなかった花壇にムスカリの蕾が顔を出していた。
もうすぐ、辺り一面が紫に染まるだろう。
ディスカウントショップで花を落としたムスカリの鉢植えを、値下げの札に釣られて百円で買った。
アパートの通路の片隅に植えたら、次の年に綺麗な花を咲かせた。
大した手入れもしないのに、年々増え続けている。
薄暗かった通路を、紫の祭壇のように華やかに飾ってみせた。
紫色が好きな大家は自慢の花壇だと言って、毎年楽しみにしている。

換気で開けておいた窓を閉めながら、お昼に食べたいものを聞いた。
「焼きうどんでいい?」
「トッピングに目玉焼き、お願い」
要望を聞くと、意外と具体的に答えてくれるので作るほうは楽でいい。
なんでもいいと言われると、作る気が失せる。

食べ終わって、皿を片付けてる時だった。
「あのさ、婚姻届を出そうと思ってる。うちの親父も学生結婚だし、もう一緒に住んでるんだから問題ないでしょ。これから先は長いよ。大学卒業しても専門研修とかのプログラム終わるまで7年もあるんだよ。形式上の紙切れだと思うけど、中途半端にしたくない。ゆりっちのとこにも挨拶に行って、ちゃんとしよう」
「カイがそう思うなら、そうしよう」
「まだ、迷ってるとかじゃないよね」
「カイって大人なんだなっと思って。色々なことキチンと考えてる。私ね、いつも自分の気持ちをないがしろにして来た。周りに合わせて笑っても、何が可笑しいの?って俯瞰フカンしている自分がいた。親から抱きしめてもらったことがなかったから、自分をオトシめて生きてる価値もないって思ってた。自分の存在さえも認めることができなかったんだ。大袈裟かもしれないけど、生きてていいんだ、幸せになっていいんだって、カイが教えてくれたんだよ」
「ゆりっちを幸せにするのが、俺の役目」

たぶん、感の鋭いカイは私の家庭の事情を察してたと思う。
家族のことを話したがらないので、あえて強要することもなかった。
でも今回は事情が違う。
結婚となれば、顔合わせは必然である。
「日程とか聞いておくね。別に喧嘩してるとかじゃないから心配しないで」
「わかった、いよいよ具体的になってくると、ちょっと緊張するね」

時計が動き出している感覚。
しっかり時を刻む音が聞こえる。
二人で歩幅を合わせて、一緒に歩み出そう。

楽しいことは2倍にして、
悲しいこと、悔しいことは半分にして
二人で分かち合っていこうね。
私たちの描いた夢は無限で、色鮮やかに彩られていた。

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