41 / 42
41. 真実
しおりを挟む
ねえねぇ知ってる、無理心中だって
睡眠薬で眠らせて青酸カリを流し込んだらしいよ
青酸カリって、そんなに簡単に手に入るの?
だって彼女、医者のタマゴだもの
死んだの見届けて、自分も睡眠薬を飲んだんだって
自分だけ生き残って、ホントは最初からの計画だって噂
怖い、怖い、でも何でそんなに詳しく知ってるの
ほら女の父親、ワイドショーとかのコメンテーターやってるでしょ
いつも偉そうにしてるから、格好の標的になってるのよ
毎日、その話題で大賑わい
でも男だって二股かけてたって言うじゃない
イケメンだったっていうし、勿体な~い
人を傷つけるものは鋭い刃とは限らない。
SNSの世界は無法地帯。
匿名のもとに、あらゆる残酷な言葉で人の心を抉る。
何も知らない他人が、あたかもこれが正義ですと楔を打ち込む。
それは、どこからともなく矢のように飛んでくる。
振り払っても、押しのけても贖えない言葉の暴力。
真実なんてどこにもないが、彼らはそれを必要としない。
言葉の欠片が浮いて沈みを繰り返しながら、やがて心の澱となって沈殿する。
重くなった心はどうですか、攻撃して動かなくなった腕は痛いですか。
音のない世界に身を置いて、孤独を自覚するのが怖いのですね。
黙っていることに耐えられないのですね。
真実は一つだけ、もうカイがいないという真実だけ。
あの日、深夜にカイのスマホが鳴った。
画面には”マリリン”の文字。
目を覚ました私に「ごめん、マナーモードにするの忘れてた」そう言って応答した。
ベットから出て、スマホを片手にテーブルにあった飲みかけのコーヒー缶を、
キッチンの流しに置きに行く。
たぶん、話を聞かれたくなかったのだ。
少しくらい離れても、話せば聞こえるのに。
でもカイは会話をしなかった。
「ちょっと、出てくる」
「えっ、どこに?いま2時半だよ」
「錯乱状態で、話ができない。心配だから様子を見てくる。大通りに出ればタクシーが捕まると思うし」
大体の察しがついた。深く詮索するのはよそう。
物分かりのいい恋人を演じてみせた。
「すぐ、戻るから寝てていいよ、起こしちゃってごめん」
春の気配がするのに、身震いするほど部屋の空気が凍っていた。
身支度をする彼に、寒いからと言ってマフラーを手渡した。
黙って受け取ると、玄関にしゃがんで靴を履いている。
引き留めることはできた。でも引き留めなかった。
大きな背中に縋りついて「行かないで」って言いたかった。
でも、それは言葉にならなかった。
パタンと閉まったドアを開けて、暗闇に消えてしまった彼を探した。
次回は最終話です
睡眠薬で眠らせて青酸カリを流し込んだらしいよ
青酸カリって、そんなに簡単に手に入るの?
だって彼女、医者のタマゴだもの
死んだの見届けて、自分も睡眠薬を飲んだんだって
自分だけ生き残って、ホントは最初からの計画だって噂
怖い、怖い、でも何でそんなに詳しく知ってるの
ほら女の父親、ワイドショーとかのコメンテーターやってるでしょ
いつも偉そうにしてるから、格好の標的になってるのよ
毎日、その話題で大賑わい
でも男だって二股かけてたって言うじゃない
イケメンだったっていうし、勿体な~い
人を傷つけるものは鋭い刃とは限らない。
SNSの世界は無法地帯。
匿名のもとに、あらゆる残酷な言葉で人の心を抉る。
何も知らない他人が、あたかもこれが正義ですと楔を打ち込む。
それは、どこからともなく矢のように飛んでくる。
振り払っても、押しのけても贖えない言葉の暴力。
真実なんてどこにもないが、彼らはそれを必要としない。
言葉の欠片が浮いて沈みを繰り返しながら、やがて心の澱となって沈殿する。
重くなった心はどうですか、攻撃して動かなくなった腕は痛いですか。
音のない世界に身を置いて、孤独を自覚するのが怖いのですね。
黙っていることに耐えられないのですね。
真実は一つだけ、もうカイがいないという真実だけ。
あの日、深夜にカイのスマホが鳴った。
画面には”マリリン”の文字。
目を覚ました私に「ごめん、マナーモードにするの忘れてた」そう言って応答した。
ベットから出て、スマホを片手にテーブルにあった飲みかけのコーヒー缶を、
キッチンの流しに置きに行く。
たぶん、話を聞かれたくなかったのだ。
少しくらい離れても、話せば聞こえるのに。
でもカイは会話をしなかった。
「ちょっと、出てくる」
「えっ、どこに?いま2時半だよ」
「錯乱状態で、話ができない。心配だから様子を見てくる。大通りに出ればタクシーが捕まると思うし」
大体の察しがついた。深く詮索するのはよそう。
物分かりのいい恋人を演じてみせた。
「すぐ、戻るから寝てていいよ、起こしちゃってごめん」
春の気配がするのに、身震いするほど部屋の空気が凍っていた。
身支度をする彼に、寒いからと言ってマフラーを手渡した。
黙って受け取ると、玄関にしゃがんで靴を履いている。
引き留めることはできた。でも引き留めなかった。
大きな背中に縋りついて「行かないで」って言いたかった。
でも、それは言葉にならなかった。
パタンと閉まったドアを開けて、暗闇に消えてしまった彼を探した。
次回は最終話です
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
魅了持ちの執事と侯爵令嬢
tii
恋愛
あらすじ
――その執事は、完璧にして美しき存在。
だが、彼が仕えるのは、”魅了の魔”に抗う血を継ぐ、高貴なる侯爵令嬢だった。
舞踏会、陰謀、政略の渦巻く宮廷で、誰もが心を奪われる彼の「美」は、決して無害なものではない。
その美貌に隠された秘密が、ひとりの少女を、ひとりの弟を、そして侯爵家、はたまた国家の運命さえも狂わせていく。
愛とは何か。忠誠とは、自由とは――
これは、決して交わることを許されぬ者たちが、禁忌に触れながらも惹かれ合う、宮廷幻想譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる