転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

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第五章『開戦』

169話 何度目かの天井

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 目を開ける。こういう場面に慣れてしまった感はあるが、改めて思う。

「生きていてビックリ」
「いや、半年に何回死にかけてるんだ。いい加減、生きていることにビックリさせるな」

 真横で声がして、少し焦る。

「え、クソ親父!?」

 親父が手を手を握っていて、二度ビックリした。手から何か流れこんできている。これは霊力だろうか?

「誰がクソ親父か。寝ぼけているとしても、ちょっと傷つくぞ」

 おっと。おかしなことを口走ったかも。

「えーと、親父? 王太子殿下は?」

 徐々に意識がはっきりしてくる。

「親父? まぁそれぐらいならかまわんが……。王太子殿下はお前よりは軽症だよ。お前が守ったからな」

 軽症。その場合、護衛としての役割はまっとうできたことになるのだろうか。起きあがろうとしたところで、足がガチガチに固定されていることに気がついた。動けない。

「ああ、飛行船の破片のせいで、お前のパラシュートが傷んだみたいでな。王太子殿下が空中でパラシュートを開いてくれたらしいが、着地直前で破れたそうだ。だから足はまだ折れてる」

 目で問いかけると、親父が説明してくれた。意識してみると、脛から太ももにかけて、悶えるほどの激痛があがってくる。

「リナは、どうも人間の骨の構造に詳しいみたいでな。それで飛び出した骨の位置を元に戻して、治癒神術をかけたんだ。運が良かったな。敵地であんな骨折したら、普通は出血で死ぬ」

 痛いけど、これはまだマシだったか。骨折して骨が飛び出すとか、気を失っていて良かった。

「リナは?」

 僕が問いかけに親父は隣を指差す。首だけ動かして隣のベッドを見ると、ストリナが寝ていた。眉間に皺がよって、少し寝苦しそうだ。

「霊力枯渇だよ」

 ストリナの霊力量は僕の比ではない。自身も戦場に出て、その後負傷者を治療して、それでも尽きていないかった。それが、枯渇した。相当無理をしたのだろう。

「リナと王太子殿下には、あとでお礼言わないと」

 王太子がいなければ墜落死していたし、ストリナがいなければ失血死していたはずだ。ちょっと呆れた顔で、親父が見下ろしてきた。

「戦況は聞かないのか?」

「え? 親父がここにいるってことは、終わったんでしょ?」

 自明なことを聞いてくる。この親父が、戦場と息子を天秤にかけて、息子を取るわけがない。

「それはそうなんだが……。まぁ、なんだ。奇襲に成功した結果、我が家にかけられた汚名は晴れたみたいだ」

「どういうこと?」

 親父が言うには、スカラ侯爵邸とログラム公爵邸の奇襲により、取り逃した公国派貴族家の当主たちは、8割以上が戦死したり投獄されたりして実権を失った。
 残りの2割は自領の都市に籠城していたので、公都の支配はあっさり崩壊してしまったらしい。
 組織だった反抗もなく、ヒマになった陛下たちは、公国派の貴族たちの屋敷を家宅捜索した。

「あの日の命令書の内容は、当時軍令部に所属していたプリーク・スカラ侯爵一派が偽造したものだったそうだ」

「え? 文字が読めなかったから騙されたんじゃ?」

「そう思ってたんだけどな。命令書自体も偽造されていたらしい。もちろん文字が読めていれば、サインが上官のものではなかったことに気づけていたかもしれないがな」

 文字が読めなかったので、別の上官の名前が書いてあったのに気づかなかったとか、ちょっと情けない。

「そこは気づいて欲しかったけど」

「まぁでも、結果的には良かったらしいぞ。公国派はナログ共和国の前の元首一派と通じていたらしくてな。全滅させた部隊は、再侵攻のための部隊だったそうだ」

 10年前の戦争で、ログラム王国がナログ共和国に当初押された原因は、現在古典派と呼ばれている一派が連敗したことと、現在公国派と呼ばれている西部貴族が出兵を渋ったことだと言われている。

「そんなことをして、スカラ侯爵にどんな利点があったの?」

 王国が亡べば、西部貴族とてただではすまなかったはずだ。ナログ共和国は共和制の国で、貴族制をとっていない。戦後恭順したところで、領民の選挙を経なければ、領主の地位を維持できない。

「見つかった計画書によれば、王都が陥落した時点で、アンタム都市連邦に助けを求めて、ナログ共和国に反撃する予定だったらしい」

 なるほど。今回の内乱は、その計画の焼き直しだったわけか。アンタム都市連邦は、共和制だったり王政だったり、様々な都市国家の共同体だ。そこにログラム王国の各都市がまとめて参加しても、違和感はないわけか。

「親父や義母さんみたいな化物がいるかもしれないのに、杜撰な計画だなぁ」

 前世の世界とこの世界の違いは、魔物の存在に集約される。神術や仙術は、人類が魔物と匹敵するために生み出された技術なのだろう。
 そのおかげで、人類の中には親父や義母さんのような人外が現れた。今こうしている瞬間も、騎士が、冒険者が、人の壁を超えているかもしれないのに。

「誰が化物か。息子にそう呼ばれるのは地味に傷つくぞ。これが噂に聞く反抗期というやつか」

 おっと。また失言だ。吹っ飛ばされかねないので、ほどほどにしないと。

「僕は9歳。反抗期はまだ先だよ」

 骨が折れているせいか、痛みのせいで集中できないからなのか、『拘魂制魄』で霊力が圧縮できない。今親父に何かされたら、実質9歳児以下なので手も足も出ない。怒らせたら一方的にやられてしまう。

「そうかぁ? イントには前世の記憶があるからな。もう来てるんじゃないか? 反抗期」

 幸い、親父は怒っていないようだった。

「だとしても問題ないと思うけど。親父、ほとんど家にいないし。まぁでも、これでしばらく領地経営に専念できそうだから良かったかな。 あ、言ってなかったけど、春には学校が開校するから、式典には来てね」

 春に開校される学校だが、開校式に王太子殿下が出席されることが決まった。思ってたより数倍の規模の開校式になる。ここに領主夫妻がいないと恰好がつかない。

「陛下から聞いてる。確かに全部任せはしたが、今度から報告や連絡はしてくれよ? いきなり陛下から聞かせられるとビックリするから」

 ようやく報告と連絡の重要性に気づいてくれたらしい。領主業に不慣れなのは理解しているけど、僕だってそうだ。

「わかった。今度郵便網を整備するから、手紙書くよ」

 飛行船がある程度の数そろえば、定期便を飛ばせるようになる。乗客と一緒に郵便業務も開始できる。手紙の輸送はもっと容易になるだろう。

「また大掛かりなこと考えてそうだな……」

 確かにちょっと大がかりではある。飛行船郵便が実現すれば、情報は馬の何倍も早くなるはずだ。

「あ、親父も情報共有してくれるんだよね? こないだだって、急に行方をくらましたし」

「それは無理だな。隠密行動は家族にも知らせないのが基本なんだ」

 なるほど。情報が漏れるかもしれないからか。

「てことは、もしかして他にも言ってないことある?」

 ベッドから親父を見上げると、目をそらされた。うん、これはまだあるな。わかりやすい。

「――実は………いや、順番が違うか」

 このクソ親父、舌の根も乾かぬうちに……。

「ジェクティに先に話す。少し待ってくれ」

 全身肝っ玉みたいな親父がここまで言うとなると、それはそれで怖い。義母さんは王都だから、その順序だと僕が知るのはだいぶ先になりそうだ。

「まぁいいんだけどさ」

 窓の外を見ると、高度をかなり落とした飛行船が何隻も浮かんでいた。飛行船の上部デッキから、ゆっくりと公都に熱気球が降りてくる。多分、ああやって本隊から兵員をピストン輸送しているのだろう。

 ということは、本隊はまだ到着しないということだ。途中の城塞都市や砦は、まだ籠城を続けているのかもしれない。

 外の景色を見るに、おそらく僕がいるのは公爵邸。つまり、本拠地と敵の総大将はもうこちらの手中にある。

 例え抵抗を続けても、ここからの反攻は不可能だろう。近々、内乱は終わるはずだ。公国が滅べば、アンタム都市連邦は介入の大義名分を失う。

 窓の外の光景を見ながら、ぼんやりと考える。
 飛行船がずいぶん活躍している気がするが、歴史の教科書で飛行船が登場したのは、第一次世界大戦のページだった。
 どう考えても早すぎる。僕は、ちょっとやりすぎたかもしれない。

「ああそうだ。起きたら痛み止めを飲ますよう御典医様に言われていたんだった」

 親父がお盆にのったポッドから、ドロドロとした異臭を放つ液体をコップに注ぐ。
 そのままイケメンかつ爽やかな笑顔で、嬉しそうにコップを渡してくる。

「さぁ息子よ。グッといけ―――」
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