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第五章『開戦』
168話 竜飛兵
しおりを挟む僕が飛行船への攻撃に気づいたのは、気嚢に何かが直撃する音を聞いたからだ。戦場で聞いた水素爆発の幻聴が聞こえた気がして、心臓が跳ねあがる。
「敵襲!」
上部デッキに繋がる通路の先から、若い観測兵が大声で報告してくる。僕は地上に気を取られていて、敵の姿を見ていなかった。あたりを見回すが、左舷デッキから見える範囲に敵影はない。
「気嚢は無事か!」
スターク殿下が叫び返す。スライムの皮を張り合わせて作った気嚢の中には、水素が入っている。もしも燃えたら、空気中の酸素と反応してたちまちドカンだ。
「はい! 炎系ブレスで少し焦げてますが、耐えきりました!」
ブレス、ということは飛行系の竜か。ここは安全地帯だと思っていたのだけど、さすがは異世界。
それにしても、水ガラスによる耐火・耐神術塗装がなければ、さっき僕は死んでいただろう。あのタイミングで、炭酸ナトリウムの分量を間違えた職人さんを連れてきたショーン兄さんには、全力で感謝を捧げたい。
「人間の騎乗を確認! おそらく竜飛兵です! 現在別の味方船を攻撃中! 数は3、いえ5です!」
続く報告に頭を抱える。また知らない兵種が出てきた。このままでは対策ができないので、おいおい勉強した方が良いかもしれない。
僕は狙撃用の台から『断罪の光』を取り外し、デッキの前方に駆け出す。
「僕が撃ち落とすから、射線を確保して!」
隣の飛行船に、飛竜が取りついているのが見えた。しかしこの位置から撃つと、確実に気嚢に当たって誘爆させてしまう。しかも、乗組員が応戦に回ってしまっているので、操船できなくなっている。
仕方がないので、船長に指示を出し、こちらから回り込んでいく。
やがて、飛竜の背に騎乗している兵士の動きが見えてきた。
「しまった。手遅れだ! あの船の乗員を脱出させろ!」
軽装の兵士たちは、長い槍で飛行船の気嚢を何度も突いている。あの様子だと、すでに水素は漏れているだろう。
村で使っていた笛と同じものが吹かれる。飛行船破棄の命令を伝えるものだ。
一瞬の間を開けて、攻撃されていた船の乗員たちが一人、二人とデッキから飛び降りていく。
しかし、飛び降りようとした三人目に敵の飛竜がブレスを吐いた瞬間、飛行船は閃光とともに大爆発を起こした。
「うわっ」
夢中でデッキの手すりを掴んだところで、衝撃波が船を襲う。かなり距離があるのに、飛行船はシェイクされ、産毛が焼ける。
「―――!?」
隣で王太子殿下が吹き飛ばされていくのが、スローモーションのように見えた。
王太子殿下はそのまま、傾いたデッキの床を転がり、手すりに腹から衝突して止まる。
続いて、上部デッキにいた観測兵がその後ろを落ちていく。悲鳴をあげているようだが、音が聞こえない。爆音に耳がやられてしまったのだろうか。
視線を泳がせると、爆風から運良く逃れた飛竜が2匹、こちらに向かってフラフラと飛んでくる。『断罪の光』を構え、強めの光を放つ。
この距離なら、スコープは不要だ。弱い光で狙いをつけて、強い光で撃ち抜けばいい。
僕は練習通りに狙いをつけ、一撃で飛竜の目を貫いた。
もう一匹の背にのっていた男は、墜落していく同僚を気にする様子もなく、杖を振り上げ、火球を形成していく。
―――あ、これはダメなやつだ。
先ほどと同じ手順で『断罪の光』を放ち、残った竜飛兵を撃ち落とすが、火球は放たれた後だ。直感的な判断に従い、踵を返す。
全力で加速しながら、僕の二倍はありそうな王太子殿下の襟首をつかんで、デッキから飛び降りる。
デッキの向こう側は何もない。背筋を駆けあがる寒気をこらえながら、殿下の襟首をつかんだまま、自由落下に身を任せる
間一髪、僕らが飛び降りたデッキを、巨大な火球が直撃した。
飛行船に乗っている間は、全員パラシュートを背負っている。だから、デッキから落ちても途中でパラシュートを開けば助かるだろう。
回転する視界の中で、火球により破壊された飛行船の破片が飛び散るのが見えた。
あの爆風、こっちまで届くな。そう言えば、僕は王太子殿下の護衛を兼ねているんだっけ。
全身を仙術で強化して、破片から王太子をかばおうとしたところで、背中や後頭部に何かが直撃しーーー
僕の意識は途切れた。
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