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重厚な扉が、軋む音を立てながらゆっくりと開かれた。
その向こうに広がるのは、豪華絢爛という言葉では足りないほどの空間だった。
金色の装飾が壁や柱を覆い、燭台や魔法灯の光を反射して眩く輝いている。
視線を動かすだけで、富と権威がこの場に集約されていることが嫌というほど伝わってくる。
空気そのものが重く、息を吸うだけで緊張が胸に溜まっていく。
広間の奥――
一段高く設えられた玉座に、王が座していた。
ただそこに座っているだけで、威厳が場を支配している。
視線を向けられていなくとも、存在そのものがこちらを試しているかのようだった。
アイリスを先頭に、恭介、俊、直哉、そして私が静かに進み出る。
数歩進んだところで、アイリスが一歩前へ出た。
彼女は迷いなく膝をつき、頭を深く垂れる。
「異界の勇者様たちをお連れいたしました」
その声は静かだが、広間全体に澄んで響いた。
それを見た恭介、俊、直哉は、慌てた様子で同じように膝をつき、深く頭を下げる。
彼らの動きには、緊張と不慣れさがはっきりと表れていた。
私は――立ったまま、軽く一礼するに留めた。
この世界において、王に膝をつき、頭を深く下げるという行為は、絶対の忠誠と服従を意味する。
それは礼儀であると同時に、自身の立場を明確に示す儀式だ。
私は、その立場をここで確定させるつもりはなかった。
「頭をあげよ」
王の声が、低く広間に響く。
命じられ、私はゆっくりと顔を上げる。
空気が、さらに張り詰めた。
「余こそが、ミドガルド王国国王、ゲール・ギム・ミドガルドである」
その名乗りには、揺るぎない自信と期待が込められていた。
「よくぞ参った、異界の勇者たちよ」
続いて、王は一人ひとりに視線を向ける。
「そなたたちの名を教えよ」
促され、恭介から順に自己紹介が始まる。
緊張しながらも、それぞれが名を告げ、簡潔に言葉を述べる。
一通りの挨拶が終わると、王は満足したように頷いた。
「会食の準備をさせている。まずは休むがよい」
そう告げられ、メイドたちに案内されて部屋へと移動する。
背後でドアが閉まる音が静かに響いた瞬間、私は内側へと意識を向けた。
――中断していた、亮との会話を再開する。
(どうしたら、彼らが死なないの?)
切実な問いだった。
亮の返答は、容赦がなかった。
(あいつらは、ここが物語の中か何かだと思い込んでる。
自分たちが特別な存在で、都合よく力が覚醒するってな)
淡々とした声が、逆に痛い。
(浮ついているんだ。
誰かが死ななきゃ、ここが物語なんかじゃない、いつ死んでもおかしくない場所だって理解しない)
胸が締め付けられる。
(……だから?)
(だから、お前が死ねばいい)
あまりにも唐突で、冷酷な言葉。
(私を傷つけられるものなんて、この世界にいないと思うけど)
眉をひそめると、亮は呆れたようにため息をついた。
(実際に死ぬわけじゃない。
“死んだことにする”んだ。そのまま帝国へ向かう)
(帝国?)
問いかけると、亮は少し罰が悪そうに言った。
(ああ……お前もよく知ってる、あの帝国だよ)
その名を聞いた瞬間、胸の奥がざわついた。
帝国。
かつて、私たちがこの世界に使い魔として来ていた頃、主である彼女が住んでいた国。
幸せだった記憶も、失った記憶も、すべてが詰まった場所。
再び、あの地を踏むことになるとは。
(それで、いつ行くの?)
(ある程度、あいつらに実力がついたら実地訓練だ。
ちょうどいい深さの谷がある)
亮の声は、冷静そのものだった。
(フェンリルを呼び出して、少し小さくすればいい。
ウルフ系の魔物と勘違いされるだろう。
襲われたふりをして、一緒に谷底に落ちる)
淡々と語られる計画に、私は息を吐く。
(それまでの間は、力を隠せ。
あいつらと同じくらいだと思わせておけ)
その声は、私の心に直接触れるようで、優しくも厳しかった。
その時、ドアがノックされる。
メイドが顔を出し、会食の準備が整ったことを告げた。
広間には、豪華な料理の香りが漂い、銀器が燭台の光を柔らかく反射している。
形式ばった会話と笑顔が交わされ、会食は滞りなく進んだ。
やがて食事が終わり、私は一人、窓辺に立つ。
庭園を見下ろすと、夜の気配が静かに忍び寄っていた。
私の赤い瞳には、復讐の炎と、失われた者たちへの哀しみが宿っている。
亮は私の内側に在り、その苦しみを共有しながら、私が無茶をしないよう静かに見守っている。
彼の存在は、かすかな安らぎを与えてくれる。
だが同時に、私のトラウマは、亮の行動や判断にも影を落としている。
広間には、それぞれの想いが重なり合い、見えない緊張が張り詰めていた。
それでも、窓の外の庭園は、そんな内面など知らぬかのように、穏やかに夜を迎えようとしている。
明日から始まる訓練は、私たちにとって新たな試練の始まりだ。
その先に待つのが希望なのか、それとも絶望なのか――
まだ、誰にも分からない。
その向こうに広がるのは、豪華絢爛という言葉では足りないほどの空間だった。
金色の装飾が壁や柱を覆い、燭台や魔法灯の光を反射して眩く輝いている。
視線を動かすだけで、富と権威がこの場に集約されていることが嫌というほど伝わってくる。
空気そのものが重く、息を吸うだけで緊張が胸に溜まっていく。
広間の奥――
一段高く設えられた玉座に、王が座していた。
ただそこに座っているだけで、威厳が場を支配している。
視線を向けられていなくとも、存在そのものがこちらを試しているかのようだった。
アイリスを先頭に、恭介、俊、直哉、そして私が静かに進み出る。
数歩進んだところで、アイリスが一歩前へ出た。
彼女は迷いなく膝をつき、頭を深く垂れる。
「異界の勇者様たちをお連れいたしました」
その声は静かだが、広間全体に澄んで響いた。
それを見た恭介、俊、直哉は、慌てた様子で同じように膝をつき、深く頭を下げる。
彼らの動きには、緊張と不慣れさがはっきりと表れていた。
私は――立ったまま、軽く一礼するに留めた。
この世界において、王に膝をつき、頭を深く下げるという行為は、絶対の忠誠と服従を意味する。
それは礼儀であると同時に、自身の立場を明確に示す儀式だ。
私は、その立場をここで確定させるつもりはなかった。
「頭をあげよ」
王の声が、低く広間に響く。
命じられ、私はゆっくりと顔を上げる。
空気が、さらに張り詰めた。
「余こそが、ミドガルド王国国王、ゲール・ギム・ミドガルドである」
その名乗りには、揺るぎない自信と期待が込められていた。
「よくぞ参った、異界の勇者たちよ」
続いて、王は一人ひとりに視線を向ける。
「そなたたちの名を教えよ」
促され、恭介から順に自己紹介が始まる。
緊張しながらも、それぞれが名を告げ、簡潔に言葉を述べる。
一通りの挨拶が終わると、王は満足したように頷いた。
「会食の準備をさせている。まずは休むがよい」
そう告げられ、メイドたちに案内されて部屋へと移動する。
背後でドアが閉まる音が静かに響いた瞬間、私は内側へと意識を向けた。
――中断していた、亮との会話を再開する。
(どうしたら、彼らが死なないの?)
切実な問いだった。
亮の返答は、容赦がなかった。
(あいつらは、ここが物語の中か何かだと思い込んでる。
自分たちが特別な存在で、都合よく力が覚醒するってな)
淡々とした声が、逆に痛い。
(浮ついているんだ。
誰かが死ななきゃ、ここが物語なんかじゃない、いつ死んでもおかしくない場所だって理解しない)
胸が締め付けられる。
(……だから?)
(だから、お前が死ねばいい)
あまりにも唐突で、冷酷な言葉。
(私を傷つけられるものなんて、この世界にいないと思うけど)
眉をひそめると、亮は呆れたようにため息をついた。
(実際に死ぬわけじゃない。
“死んだことにする”んだ。そのまま帝国へ向かう)
(帝国?)
問いかけると、亮は少し罰が悪そうに言った。
(ああ……お前もよく知ってる、あの帝国だよ)
その名を聞いた瞬間、胸の奥がざわついた。
帝国。
かつて、私たちがこの世界に使い魔として来ていた頃、主である彼女が住んでいた国。
幸せだった記憶も、失った記憶も、すべてが詰まった場所。
再び、あの地を踏むことになるとは。
(それで、いつ行くの?)
(ある程度、あいつらに実力がついたら実地訓練だ。
ちょうどいい深さの谷がある)
亮の声は、冷静そのものだった。
(フェンリルを呼び出して、少し小さくすればいい。
ウルフ系の魔物と勘違いされるだろう。
襲われたふりをして、一緒に谷底に落ちる)
淡々と語られる計画に、私は息を吐く。
(それまでの間は、力を隠せ。
あいつらと同じくらいだと思わせておけ)
その声は、私の心に直接触れるようで、優しくも厳しかった。
その時、ドアがノックされる。
メイドが顔を出し、会食の準備が整ったことを告げた。
広間には、豪華な料理の香りが漂い、銀器が燭台の光を柔らかく反射している。
形式ばった会話と笑顔が交わされ、会食は滞りなく進んだ。
やがて食事が終わり、私は一人、窓辺に立つ。
庭園を見下ろすと、夜の気配が静かに忍び寄っていた。
私の赤い瞳には、復讐の炎と、失われた者たちへの哀しみが宿っている。
亮は私の内側に在り、その苦しみを共有しながら、私が無茶をしないよう静かに見守っている。
彼の存在は、かすかな安らぎを与えてくれる。
だが同時に、私のトラウマは、亮の行動や判断にも影を落としている。
広間には、それぞれの想いが重なり合い、見えない緊張が張り詰めていた。
それでも、窓の外の庭園は、そんな内面など知らぬかのように、穏やかに夜を迎えようとしている。
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その先に待つのが希望なのか、それとも絶望なのか――
まだ、誰にも分からない。
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