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計画を画策した翌日。
私たち四人は、王宮内に設けられた訓練場へと案内された。
そこにはすでに、鋭い声で指示を飛ばす教官と、騎士団長、そして魔法師団長の姿があった。
訓練場の空気は張り詰め、これまでの「歓迎」の雰囲気とは明らかに異なっている。
騎士団長は腕を組み、私たちを見渡すと、短く宣言した。
「当面は、体力作りに専念してもらう」
その声は、風を切るように訓練場に響く。
一方で魔法師団長は、私たちの前に並べられた道具へと視線を向けた。
「こちらは魔道具だ。まずは、これの扱いに慣れてもらう」
その言葉を聞いた瞬間、私はわずかに眉をひそめた。
――魔道具。
過去にこの世界を訪れた時には、存在しなかったものだ。
目の前に並ぶそれらは、不気味なほど均一な形状と、人工的な輝きを放っている。
私は魔法師団長へ視線を向け、率直に問いかけた。
「魔道具とは、何ですか?」
師団長は一つを手に取ると、まるで見本を示すかのように構え、魔力を込める。
次の瞬間、鋭い光が放たれた。
「魔道具とは、生物であれば誰もが持つ魔力を籠めることで、あらかじめ記録された魔法を発動させる道具です」
放たれた魔法は、一直線に標的へと飛び、鋭く、力強く炸裂した。
その様子は、元の世界で見た銃口から放たれる弾丸を思い起こさせる。
――なるほど。
過去の魔法使いたちは、才能と研鑽によって絶対的な差があった。
だが、これなら誰でも一定の威力を扱える。
私は魔道具を、元の世界における「銃」のようなものだと理解する。
使い方の説明を受け、私たちはそれぞれ魔道具を手に取った。
内部には、初級魔法――ライトボールが記録されているらしい。
私は未来視を用い、他の三人と同じくらいのタイミングで魔法が発動するよう調整する。
さらに、魔法師団長に気づかれない程度に魔力を強めに籠めてみる。
だが、魔力が一定量に達した瞬間、魔法は自動的に発動した。
威力は平均的で、細かな調整は利かない。
(……融通が利かない)
これでは、数を揃えての面制圧か、
あるいは爆弾のような大火力専用の魔道具が別に存在するのだろう。
他の三人は、初めて目にする魔法に目を輝かせている。
好奇心と驚きが混ざり合った瞳は、夜空の星のようにきらめいていた。
それに対し、私は冷静だった。
自身で放つ魔法の方が、使い勝手も威力も遥かに上だ。
魔道具は、私にとっては無用の長物に近い。
その後、騎士団長の指示で体力作りの一環として走り込みをさせられ、
私たちは疲れ切った状態でそれぞれの自室へと戻った。
私は忘れずに「疲れた演技」をしながら、内側で亮と会話を交わす。
(魔道具、どう思う?)
亮は少し間を置いて答えた。
(普通の魔族相手なら、数を揃えればやり合えるかもしれない。
だが、四天王や魔王相手では玩具同然だ)
四天王――
彼らは、かつての魔法師団長のように、個で戦況を覆す猛者たちだ。
その強さは、私たちの想像を遥かに超えている。
魔王となれば、さらにその上。
化け物、としか言いようがない。
当時の勇者、そして私の主を含めた人族の最強格が五人揃って、ようやく勝てるかどうか――そんな相手だ。
(ねえ……いっそのこと、私の力を見せた方がよくない?)
亮の返答は、迷いがなかった。
(それでは、あいつらの誰かが死ぬ運命は変えられない)
(どうして?)
(その場合、お前は決戦兵器扱いされる。
あいつらとは別行動になる)
その言葉に、私の赤い瞳がわずかに揺らめく。
部屋の静寂が、重くのしかかる。
外では雷鳴が轟き、窓ガラスに一瞬、白い光が反射した。
やがて、運命の実地訓練が決まった。
その夜、私は深夜に部屋を抜け出す。
冷たい風が肌を刺し、鉛色の空が重く垂れ込めていた。
訓練の場として使われている山へ向かう足取りは静かで、
その歩調は、自分の鼓動と不思議なほど重なっていた。
亮と、襲撃を想定する地点について打ち合わせを進める。
張り詰めた空気の中でも、彼の態度は終始落ち着いたままだった。
(ここだ)
亮がそう言い、フェンリルを呼び出す。
神狼フェンリルは、その名に恥じぬ威厳を纏って姿を現した。
今や彼は、私の使い魔というより、半ばペットのような存在だ。
私は彼に向かって告げる。
「フェン君。ここで、私を襲ってほしい」
フェンリルは一瞬、呆れたような目でこちらを見る。
だが、詳しく事情を説明すると、
「わかった」
そう一言残し、森の奥へと消えていった。
軽やかな足取り。
その巨体は、闇に溶け込むように見えなくなる。
私は亮と向き合い、これから始まる出来事に思いを馳せる。
雷光が遠くで瞬き、その光が私の赤い瞳に反射した。
静寂の中で、
遠くから聞こえてくるであろうフェンリルの咆哮を待ちながら――
私は、静かに覚悟を決めていた。
私たち四人は、王宮内に設けられた訓練場へと案内された。
そこにはすでに、鋭い声で指示を飛ばす教官と、騎士団長、そして魔法師団長の姿があった。
訓練場の空気は張り詰め、これまでの「歓迎」の雰囲気とは明らかに異なっている。
騎士団長は腕を組み、私たちを見渡すと、短く宣言した。
「当面は、体力作りに専念してもらう」
その声は、風を切るように訓練場に響く。
一方で魔法師団長は、私たちの前に並べられた道具へと視線を向けた。
「こちらは魔道具だ。まずは、これの扱いに慣れてもらう」
その言葉を聞いた瞬間、私はわずかに眉をひそめた。
――魔道具。
過去にこの世界を訪れた時には、存在しなかったものだ。
目の前に並ぶそれらは、不気味なほど均一な形状と、人工的な輝きを放っている。
私は魔法師団長へ視線を向け、率直に問いかけた。
「魔道具とは、何ですか?」
師団長は一つを手に取ると、まるで見本を示すかのように構え、魔力を込める。
次の瞬間、鋭い光が放たれた。
「魔道具とは、生物であれば誰もが持つ魔力を籠めることで、あらかじめ記録された魔法を発動させる道具です」
放たれた魔法は、一直線に標的へと飛び、鋭く、力強く炸裂した。
その様子は、元の世界で見た銃口から放たれる弾丸を思い起こさせる。
――なるほど。
過去の魔法使いたちは、才能と研鑽によって絶対的な差があった。
だが、これなら誰でも一定の威力を扱える。
私は魔道具を、元の世界における「銃」のようなものだと理解する。
使い方の説明を受け、私たちはそれぞれ魔道具を手に取った。
内部には、初級魔法――ライトボールが記録されているらしい。
私は未来視を用い、他の三人と同じくらいのタイミングで魔法が発動するよう調整する。
さらに、魔法師団長に気づかれない程度に魔力を強めに籠めてみる。
だが、魔力が一定量に達した瞬間、魔法は自動的に発動した。
威力は平均的で、細かな調整は利かない。
(……融通が利かない)
これでは、数を揃えての面制圧か、
あるいは爆弾のような大火力専用の魔道具が別に存在するのだろう。
他の三人は、初めて目にする魔法に目を輝かせている。
好奇心と驚きが混ざり合った瞳は、夜空の星のようにきらめいていた。
それに対し、私は冷静だった。
自身で放つ魔法の方が、使い勝手も威力も遥かに上だ。
魔道具は、私にとっては無用の長物に近い。
その後、騎士団長の指示で体力作りの一環として走り込みをさせられ、
私たちは疲れ切った状態でそれぞれの自室へと戻った。
私は忘れずに「疲れた演技」をしながら、内側で亮と会話を交わす。
(魔道具、どう思う?)
亮は少し間を置いて答えた。
(普通の魔族相手なら、数を揃えればやり合えるかもしれない。
だが、四天王や魔王相手では玩具同然だ)
四天王――
彼らは、かつての魔法師団長のように、個で戦況を覆す猛者たちだ。
その強さは、私たちの想像を遥かに超えている。
魔王となれば、さらにその上。
化け物、としか言いようがない。
当時の勇者、そして私の主を含めた人族の最強格が五人揃って、ようやく勝てるかどうか――そんな相手だ。
(ねえ……いっそのこと、私の力を見せた方がよくない?)
亮の返答は、迷いがなかった。
(それでは、あいつらの誰かが死ぬ運命は変えられない)
(どうして?)
(その場合、お前は決戦兵器扱いされる。
あいつらとは別行動になる)
その言葉に、私の赤い瞳がわずかに揺らめく。
部屋の静寂が、重くのしかかる。
外では雷鳴が轟き、窓ガラスに一瞬、白い光が反射した。
やがて、運命の実地訓練が決まった。
その夜、私は深夜に部屋を抜け出す。
冷たい風が肌を刺し、鉛色の空が重く垂れ込めていた。
訓練の場として使われている山へ向かう足取りは静かで、
その歩調は、自分の鼓動と不思議なほど重なっていた。
亮と、襲撃を想定する地点について打ち合わせを進める。
張り詰めた空気の中でも、彼の態度は終始落ち着いたままだった。
(ここだ)
亮がそう言い、フェンリルを呼び出す。
神狼フェンリルは、その名に恥じぬ威厳を纏って姿を現した。
今や彼は、私の使い魔というより、半ばペットのような存在だ。
私は彼に向かって告げる。
「フェン君。ここで、私を襲ってほしい」
フェンリルは一瞬、呆れたような目でこちらを見る。
だが、詳しく事情を説明すると、
「わかった」
そう一言残し、森の奥へと消えていった。
軽やかな足取り。
その巨体は、闇に溶け込むように見えなくなる。
私は亮と向き合い、これから始まる出来事に思いを馳せる。
雷光が遠くで瞬き、その光が私の赤い瞳に反射した。
静寂の中で、
遠くから聞こえてくるであろうフェンリルの咆哮を待ちながら――
私は、静かに覚悟を決めていた。
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