6 / 27
6
しおりを挟む
帝国へ向かうため、私は空間に魔力を編み、転移魔法の術式を展開した。
光が足元から立ち上り、世界が歪み始める――その直前。
(待ってくれ。少し寄る所がある)
亮の声が、脳裏に割って入る。
(寄る所? それはどこ?)
私がそう問いかけると、亮は即座に答えた。
(この近くに、邪神の力のかけらが封印された神殿がある)
次の瞬間、私の意識に地図のようなイメージが流れ込んでくる。
山間の奥、人気のない場所にひっそりと存在する、異質な空間。
(……なるほど)
私は転移魔法を解除し、示された方向へと足を向けた。
ほどなくして、神殿が姿を現す。
苔むした石造りの外観は厳かで、神聖な場所であるはずなのに――
その空気には、はっきりとした“歪み”が混じっていた。
胸の奥が、嫌な感覚でざわつく。
(私たちが過去に来た時には、こんなものはなかったはずだけど)
そう告げると、亮は低く答える。
(邪神復活が近い予兆だろうな。力に引き寄せられて、後から形を成したんだ)
神殿の内部は、外観以上に異様だった。
壁に刻まれた文様は神代のものに似ていながら、どこか冒涜的で、
奥へ進むほど、空気が重く、冷たくなっていく。
そして――
最奥の祭壇に、それはあった。
すべての光を吸い込むかのような、漆黒の球体。
表面は滑らかで、触れれば世界ごと引きずり込まれそうな錯覚を覚える。
(……これが)
(ああ。邪神の力のかけらだ)
私は迷いなく、その球体を手に取った。
瞬間、掌から腕へ、そして全身へと禍々しい力が流れ込んでくる。
憎悪、執念、破壊衝動――
混ざり合った負の感情が、意識を侵そうとする。
(……趣味の悪い力ね)
私は即座に自分の力でそれを封じ、女神へ念話を繋げた。
『かけらを一つ回収したわ。どうすればいいかしら?』
少しの沈黙の後、女神の声が返ってくる。
『稟様……以前、こちらで回収したはずのかけらが、一つ消失していました』
(……ということは)
私の言葉を継ぐように、女神は静かに続ける。
『ええ。こちら側にも、内通者がいる可能性があります。
今後、私たちとの接触は控えた方がよろしいでしょう』
『かけらは、稟様が保管してください。
貴女様以上に安全な場所はありません』
それだけを告げ、念話は途切れた。
静まり返った神殿の中で、私は小さく息を吐く。
(亮、どうする?)
(向こうは問題ない。予定通り動くぞ)
(わかったわ)
私は漆黒の球体を完全に封印し、再び歩き出す。
これ以上、この場所に長居する意味はない。
帝国へ――
過去と因縁が絡み合う、あの地へ。
私たちは、何事もなかったかのように、しかし確実に運命の中心へと歩みを進めていった。
光が足元から立ち上り、世界が歪み始める――その直前。
(待ってくれ。少し寄る所がある)
亮の声が、脳裏に割って入る。
(寄る所? それはどこ?)
私がそう問いかけると、亮は即座に答えた。
(この近くに、邪神の力のかけらが封印された神殿がある)
次の瞬間、私の意識に地図のようなイメージが流れ込んでくる。
山間の奥、人気のない場所にひっそりと存在する、異質な空間。
(……なるほど)
私は転移魔法を解除し、示された方向へと足を向けた。
ほどなくして、神殿が姿を現す。
苔むした石造りの外観は厳かで、神聖な場所であるはずなのに――
その空気には、はっきりとした“歪み”が混じっていた。
胸の奥が、嫌な感覚でざわつく。
(私たちが過去に来た時には、こんなものはなかったはずだけど)
そう告げると、亮は低く答える。
(邪神復活が近い予兆だろうな。力に引き寄せられて、後から形を成したんだ)
神殿の内部は、外観以上に異様だった。
壁に刻まれた文様は神代のものに似ていながら、どこか冒涜的で、
奥へ進むほど、空気が重く、冷たくなっていく。
そして――
最奥の祭壇に、それはあった。
すべての光を吸い込むかのような、漆黒の球体。
表面は滑らかで、触れれば世界ごと引きずり込まれそうな錯覚を覚える。
(……これが)
(ああ。邪神の力のかけらだ)
私は迷いなく、その球体を手に取った。
瞬間、掌から腕へ、そして全身へと禍々しい力が流れ込んでくる。
憎悪、執念、破壊衝動――
混ざり合った負の感情が、意識を侵そうとする。
(……趣味の悪い力ね)
私は即座に自分の力でそれを封じ、女神へ念話を繋げた。
『かけらを一つ回収したわ。どうすればいいかしら?』
少しの沈黙の後、女神の声が返ってくる。
『稟様……以前、こちらで回収したはずのかけらが、一つ消失していました』
(……ということは)
私の言葉を継ぐように、女神は静かに続ける。
『ええ。こちら側にも、内通者がいる可能性があります。
今後、私たちとの接触は控えた方がよろしいでしょう』
『かけらは、稟様が保管してください。
貴女様以上に安全な場所はありません』
それだけを告げ、念話は途切れた。
静まり返った神殿の中で、私は小さく息を吐く。
(亮、どうする?)
(向こうは問題ない。予定通り動くぞ)
(わかったわ)
私は漆黒の球体を完全に封印し、再び歩き出す。
これ以上、この場所に長居する意味はない。
帝国へ――
過去と因縁が絡み合う、あの地へ。
私たちは、何事もなかったかのように、しかし確実に運命の中心へと歩みを進めていった。
0
あなたにおすすめの小説
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~
桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜
★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました!
10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。
現在コミカライズも進行中です。
「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」
コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。
しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。
愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。
だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。
どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。
もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。
※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!)
独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。
※誤字脱字報告もありがとうございます!
こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
そう言うと思ってた
mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。
※いつものように視点がバラバラします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる