神は奇跡を選ばない ――英雄たちの帰還譚―

えええ

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帝国に到着し、街を歩きながら露店を眺めていると、ふとある違和感を覚えた。

(……なんだか、日本風の店が多くない?)

串焼きや団子、提灯のような飾りまで並ぶ光景は、この世界の他の国ではあまり見られないものだ。

そんなことを考えていると、露店の店主が威勢のいい声をかけてくる。

「どうだい、嬢ちゃん。一つ買っていかないか?」

私は情報収集も兼ねて、軽く頷いた。

「ええ、一本もらおうかしら」

串焼きを受け取り、代金を手渡す。

「嬢ちゃんはべっぴんさんだからな。一本おまけしてやるよ」

「ありがとう」

素直に礼を言い、ついでに気になっていたことを尋ねた。

「この国、結構異国情緒あふれてるわよね」

「ああ、なんか結構前にな。勇者だった皇帝がよ、俺の国の文化を広めてやる、とか言い出してな。それでこんな感じになったらしいぜ」

(……あの勇者が広めた文化、ってところかしら)

内心でそう納得しつつ、さらに話を続ける。

「ねぇ、私この国に住もうと思っているの。こういう身一つの人間でも働けるところってない?」

「それなら娼館なんてどうだ? 嬢ちゃんなら、すぐにでも稼げそうだがな」

「私、そんな安い女じゃないの」

きっぱりと言い切ると、店主は肩をすくめた。

「じゃあ、あとはギルドくらいだな」

「ギルドって、どこにあるの?」

「この道をまっすぐ行くと、でかい建物が見えてくる。それがギルドだ」

「分かったわ、ありがとう」

私はそう言って露店を後にし、教えられた方向へと歩き出した。

ギルドに到着し、扉をくぐると、そこは驚くほど整然とした空間だった。

(私がいた頃は酒場が併設されてて、今よりずっと雑然とした雰囲気だったはずなのに)

時代の変化を感じながら、受付嬢のいるカウンターへと歩み寄る。

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

にこやかな笑顔でそう尋ねられ、私は答えた。

「ここに登録したいのだけれど、いいかしら?」

「では、身分を証明できるものはございますか?」

その一言に、私は一瞬言葉に詰まる。

(あるにはあるんだけど……500年も前のギルドカードなんて出したら、さすがに怪しまれるわよね……)

そう思案していると、奥から低く落ち着いた男の声が響いた。

「そいつの身分は、俺が保証しよう」

受付嬢が驚いたように振り返る。

「ど、どういうことですか? ギルドマスター」

「ああ。そいつは俺の古い知人だ」

そう言って奥から姿を現した男を見て、私は思わず目を見開いた。

レオンハルト・ヴァルガス。
勇者召喚以前、人類最強とまで謳われた男。

「あら、久しぶりじゃない、レオン。……なんで生きているの?」

私の率直な問いに、レオンはわずかに口角を上げる。

「積もる話もあるだろう。俺の部屋に来い」

後をついて歩きながら、私はふと考えていた。

(レオン……私がいた頃は十七歳だったけど、今は見た目だけなら二十代半ばくらいかしら)

「ここだ」

レオンはそう言って扉を開ける。
私は促されるまま部屋に入り、席へと案内された。ほどなくして紅茶が運ばれ、彼も向かいに腰を下ろす。

湯気の立つカップを見つめながら、私は口を開いた。

「さっき聞いたけど……なんで生きているの? もう、とっくに死んでいてもおかしくないくらい、時間が経っているでしょう」

「それはな」

レオンは少し視線を逸らし、淡々と語り始めた。

「お前が去った後、魔王復活を目論む邪教団の殲滅任務があった。その時、最後のあがきで呪いを受けたんだが……どうやら不完全だったらしくてな」

私は彼の身に宿る呪いの状態を視る。
本来なら急激に老い、死に至るはずの呪い――だがそれは歪み、反転し、不老不死という異常な形で定着していた。

「……不老不死になっているわね。でも、もし辛かったりしたら……終わらせてあげてもいいけど」

私の言葉に、レオンは小さく笑う。

「それには及ばんさ。案外な、時代の移り変わりを見るのも悪くない」

「……そう」

少しの沈黙の後、今度は彼が問いかけてきた。

「お前は、なぜここにいる?」

「勇者召喚に巻き込まれて……その後、死んだことにしてここに来たの」

「お前らしいな」

私は胸の奥にしまっていた名前を、静かに口にした。

「あの子……いや、ソフィアが、その身を賭して魔王を封印したことになっているの?」

ソフィア。
私の主だった少女。
心優しく、それでも誰よりも勇敢で――
私は、命を懸けてでも守ろうと誓った人。

レオンは一瞬だけ視線を伏せ、わずかに息を吐いてから、低い声で答えた。

「……あれはな、あの場で見ていることしかできなかった俺たちなりの、せめてもの贖罪だ」
「世界を救った本当の英雄に、“主殺し”の汚名を着せたくなかった」

私は、静かに息を吐いた。

「……なんだ、そういうこと」

「もっと、怒り喚き散らすかと思っていたが」

「……前を向くには、十分すぎる時間があったから」

レオンは小さく頷いた。

「……そうか」

レオンは小さく息を吐き、話題を変える。

「他に、聞きたいことは?」

「魔道具が主流になったみたいだけど……魔法は?」

「今は物好きが使っている程度だな」

そう言った後、彼は思い出したように続けた。

「最近、国内外で現れている建造物について、何か知っているか?」

私は一瞬だけ意識を内側へ向ける。

(亮、話しても大丈夫?)
(問題ない)

了承を得て、私は説明した。

「あれは、はるか昔にこの世界を管理していた神によって封印された、邪神の力のかけらが鎮座している場所よ」

レオンは黙り込み、誰かと念話しているようだった。
やがて決断したように口を開く。

「……明日、その件で皇帝に会いに行くぞ」

「まぁ、いいけど。そういえば、ギルドカードは?」

「前のを使ってくれて構わん。朝、ギルド前に集合だ」

私は頷き、その場を後にした。

――翌朝。
ギルド前でレオンと合流し、私たちは転移魔法で帝国城へと向かった。
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