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後日――
魔王襲撃の際、その場に居合わせた者たちが一堂に会していた。
「光姫」と「戦鬼」。
アウグスト皇帝とアイリス王女。
そして、三人の勇者たち。
全員が席に着いたのを確認し、私は静かに魔法を展開する。
念のための措置だ。盗聴も、魔力による探知も遮断する結界。
こうして、非公式の会議が始まった。
口火を切ったのは、アウグスト皇帝だった。
「光姫よ」
「改めて問う。なぜ、あの場で魔王に“かけら”を渡した?」
私は一拍置き、落ち着いた声で答える。
「あの場での、最善の選択をしたまでです」
そして、静かに言葉を継いだ。
「あの状況であれば、魔王を倒すこと自体は可能だったでしょう」
「ですが――他の方々の身の安全までは、保証できませんでした」
室内の空気が、わずかに張り詰める。
「仮に、あの場で魔王を倒していたとしても」
「次に起きていたのは――貴方たちの殺害です」
そう告げ、私は皇帝と王女に視線を向けた。
当然のように、アイリス王女が問い返す。
「……なぜ、私たちを殺す必要があったのですか?」
私は、隠すことなく答えた。
「魔王の、本当に恐ろしいところは――」
「あの圧倒的な力ではありません」
一瞬の間。
「たとえ殺したとしても、新たな依り代に憑依し、舞い戻ることができる点です」
「それは……?」
皇帝の問いに、私は淡々と説明する。
「魔王にとって、肉体とはこの世界で活動するための“器”にすぎません」
「肉体が滅びても、魂は残る」
「そして近くにある別の身体を乗っ取り、再び活動を始めるのです」
沈黙が落ちる。
だが、私はさらに続けた。
「あの場には、二人の王族がいました」
「もし私が魔王の立場であれば――」
一拍、置く。
「どちらか一方に憑依し、王族殺しの大罪を背負わせる」
「そうして孤立無援の状況を作り出すでしょう」
それは、あまりにも冷酷で、しかし合理的な選択だった。
アウグスト皇帝が、ゆっくりとレオンへ視線を向ける。
「戦鬼よ……」
「このことを、知っておったな?」
レオンは、わずかに逡巡した。
答えるべきか、沈黙を守るべきか――その迷いが、はっきりと見て取れる。
だからこそ、私は割って入った。
「その件については」
「皇帝陛下と、王女殿下にお伺いしたいことがあります」
二人の視線が、私に集まる。
「もし、この事実を知った者が国を治めていたとしたら」
「あるいは――国民全てが、この真実を知っていたとしたら」
「どうなると思いますか?」
答えは、誰の胸にも浮かんでいた。
私は、あえて言葉を継がない。
その沈黙こそが、すべてを物語っていた。
やがて、二人は理解したかのように口を閉ざす。
――そうなれば。
誰もが、誰も信用できなくなる。
身近な者が魔王の依り代ではないかと疑い、
“魔女狩り”のような殺戮が始まる。
それだけではない。
他国の王族や要人に対し、
「魔王の依り代だ」と言いがかりをつけ、
戦争を起こす口実にする国も現れるだろう。
世界は、確実に壊れる。
――レオンは、私のために。
歴史を歪め、嘘を抱え続けてきた。
ならば今度は――
私が、彼のために嘘を貫く。
その覚悟を胸に、私は沈黙を選んだ。
やがて、アウグスト皇帝が深く息を吐く。
「……理解した」
それ以上、誰も言葉を発しなかった。
その一言を最後に、会議は解散となる。
この場で交わされた真実が、
表に出ることはない。
だが――
確実に、全員の胸の奥に深く刻み込まれていた。
会議のあった夜。
私は城の庭園で、一人、夜空を見上げていた。
澄んだ空気の中、無数の星が静かに瞬いている。
その光を眺めながら、私は心の中で亮に問いかけた。
(ねえ……どうして、桜花を持っていけって言った時)
(魔王が現れることを、教えてくれなかったの?)
少しの間を置いて、彼の声が意識に響く。
(あの時、お前に奴が来ると告げていたら――)
(お前は迷わず、一直線に殺しに行っていた)
図星だった。
(そうなれば、俺たちがこの世界にいる間)
(邪神は身を潜め続けただろう)
……なるほどね。
(さすがは、私の半身)
(全知の神様は、全部お見通しってわけね)
苦笑混じりにそう思った、その時だった。
足音が近づいてくる。
振り返ると、そこには三人の勇者たちが立っていた。
夜の庭園に、わずかな緊張が混じる。
最初に口を開いたのは、直哉だった。
「稟さん……」
「生きていたことは、正直、嬉しいです」
一度、言葉を切り――
「でも……どうして」
「大丈夫だって、伝えてくれなかったんですか?」
私は星空から視線を外し、三人を見る。
「だって、貴方たち」
「どこかで、自分たちを“特別な存在”だと思っていたでしょう?」
三人は、はっきりと図星を突かれた顔で黙り込んだ。
「そのまま放っておいたら――」
「誰かが死んでから、ようやく気付くことになりかねないと思ったの」
私は肩をすくめる。
「だから、一度“死んだこと”にしておいたのよ」
沈黙の中、今度は恭介が口を開いた。
「……魔王が言ってた」
「“主殺し”ってのは、なんなんだ?」
私は一瞬、目を細める。
「……あら、聞かれていたのね」
小さく息を吐き、少しだけからかうように言った。
「でもね、あまり乙女の秘密を探るようなこと」
「しない方がいいわよ?」
そして、一呼吸。
「――いいでしょう」
私は三人を見渡し、静かに告げる。
「私の過去に、何があったのか」
「教えてあげる」
ただし、と付け加える。
「この世界の人たちには――内緒ね」
人差し指を口元に当て、
「シー……」と、秘密の仕草。
三人は、真剣な表情で頷いた。
私は、夜空を背に――
静かに、自分の過去を語り始めた。
魔王襲撃の際、その場に居合わせた者たちが一堂に会していた。
「光姫」と「戦鬼」。
アウグスト皇帝とアイリス王女。
そして、三人の勇者たち。
全員が席に着いたのを確認し、私は静かに魔法を展開する。
念のための措置だ。盗聴も、魔力による探知も遮断する結界。
こうして、非公式の会議が始まった。
口火を切ったのは、アウグスト皇帝だった。
「光姫よ」
「改めて問う。なぜ、あの場で魔王に“かけら”を渡した?」
私は一拍置き、落ち着いた声で答える。
「あの場での、最善の選択をしたまでです」
そして、静かに言葉を継いだ。
「あの状況であれば、魔王を倒すこと自体は可能だったでしょう」
「ですが――他の方々の身の安全までは、保証できませんでした」
室内の空気が、わずかに張り詰める。
「仮に、あの場で魔王を倒していたとしても」
「次に起きていたのは――貴方たちの殺害です」
そう告げ、私は皇帝と王女に視線を向けた。
当然のように、アイリス王女が問い返す。
「……なぜ、私たちを殺す必要があったのですか?」
私は、隠すことなく答えた。
「魔王の、本当に恐ろしいところは――」
「あの圧倒的な力ではありません」
一瞬の間。
「たとえ殺したとしても、新たな依り代に憑依し、舞い戻ることができる点です」
「それは……?」
皇帝の問いに、私は淡々と説明する。
「魔王にとって、肉体とはこの世界で活動するための“器”にすぎません」
「肉体が滅びても、魂は残る」
「そして近くにある別の身体を乗っ取り、再び活動を始めるのです」
沈黙が落ちる。
だが、私はさらに続けた。
「あの場には、二人の王族がいました」
「もし私が魔王の立場であれば――」
一拍、置く。
「どちらか一方に憑依し、王族殺しの大罪を背負わせる」
「そうして孤立無援の状況を作り出すでしょう」
それは、あまりにも冷酷で、しかし合理的な選択だった。
アウグスト皇帝が、ゆっくりとレオンへ視線を向ける。
「戦鬼よ……」
「このことを、知っておったな?」
レオンは、わずかに逡巡した。
答えるべきか、沈黙を守るべきか――その迷いが、はっきりと見て取れる。
だからこそ、私は割って入った。
「その件については」
「皇帝陛下と、王女殿下にお伺いしたいことがあります」
二人の視線が、私に集まる。
「もし、この事実を知った者が国を治めていたとしたら」
「あるいは――国民全てが、この真実を知っていたとしたら」
「どうなると思いますか?」
答えは、誰の胸にも浮かんでいた。
私は、あえて言葉を継がない。
その沈黙こそが、すべてを物語っていた。
やがて、二人は理解したかのように口を閉ざす。
――そうなれば。
誰もが、誰も信用できなくなる。
身近な者が魔王の依り代ではないかと疑い、
“魔女狩り”のような殺戮が始まる。
それだけではない。
他国の王族や要人に対し、
「魔王の依り代だ」と言いがかりをつけ、
戦争を起こす口実にする国も現れるだろう。
世界は、確実に壊れる。
――レオンは、私のために。
歴史を歪め、嘘を抱え続けてきた。
ならば今度は――
私が、彼のために嘘を貫く。
その覚悟を胸に、私は沈黙を選んだ。
やがて、アウグスト皇帝が深く息を吐く。
「……理解した」
それ以上、誰も言葉を発しなかった。
その一言を最後に、会議は解散となる。
この場で交わされた真実が、
表に出ることはない。
だが――
確実に、全員の胸の奥に深く刻み込まれていた。
会議のあった夜。
私は城の庭園で、一人、夜空を見上げていた。
澄んだ空気の中、無数の星が静かに瞬いている。
その光を眺めながら、私は心の中で亮に問いかけた。
(ねえ……どうして、桜花を持っていけって言った時)
(魔王が現れることを、教えてくれなかったの?)
少しの間を置いて、彼の声が意識に響く。
(あの時、お前に奴が来ると告げていたら――)
(お前は迷わず、一直線に殺しに行っていた)
図星だった。
(そうなれば、俺たちがこの世界にいる間)
(邪神は身を潜め続けただろう)
……なるほどね。
(さすがは、私の半身)
(全知の神様は、全部お見通しってわけね)
苦笑混じりにそう思った、その時だった。
足音が近づいてくる。
振り返ると、そこには三人の勇者たちが立っていた。
夜の庭園に、わずかな緊張が混じる。
最初に口を開いたのは、直哉だった。
「稟さん……」
「生きていたことは、正直、嬉しいです」
一度、言葉を切り――
「でも……どうして」
「大丈夫だって、伝えてくれなかったんですか?」
私は星空から視線を外し、三人を見る。
「だって、貴方たち」
「どこかで、自分たちを“特別な存在”だと思っていたでしょう?」
三人は、はっきりと図星を突かれた顔で黙り込んだ。
「そのまま放っておいたら――」
「誰かが死んでから、ようやく気付くことになりかねないと思ったの」
私は肩をすくめる。
「だから、一度“死んだこと”にしておいたのよ」
沈黙の中、今度は恭介が口を開いた。
「……魔王が言ってた」
「“主殺し”ってのは、なんなんだ?」
私は一瞬、目を細める。
「……あら、聞かれていたのね」
小さく息を吐き、少しだけからかうように言った。
「でもね、あまり乙女の秘密を探るようなこと」
「しない方がいいわよ?」
そして、一呼吸。
「――いいでしょう」
私は三人を見渡し、静かに告げる。
「私の過去に、何があったのか」
「教えてあげる」
ただし、と付け加える。
「この世界の人たちには――内緒ね」
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