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異空間に入って、最初に手を付けるべきは――魔法だった。
本来なら基礎理論から段階を踏んで教えるべきだが、そんな余裕はない。
「……一つずつ教えている時間は、正直ないわ」
その言葉に、俊が露骨に嫌な予感しかしない顔をする。
「その言い方、絶対ロクなことじゃないだろ」
「鋭いわね」
私は三人の前に立ち、はっきりと告げた。
「今から、魔法に関する知識をまとめて渡す」
恭介が目を瞬かせる。
「まとめてって……どうやって?」
答える代わりに、私は彼の頭に手を置いた。
「ちょ、ちょっと待――」
次の瞬間、膨大な魔法知識が一気に流れ込む。
魔法理論、属性の相性、詠唱構造、魔力循環、応用式。
それは“理解”ではなく、“記憶”として直接叩き込まれた。
「――っ!!」
恭介は言葉を失い、そのまま崩れ落ちる。
「恭介!?」
直哉が叫ぶが、私はすでに次へ移っていた。
「直哉」
「え、稟さん!? 心の準――」
同じように、直哉も床に倒れる。
最後に残った俊が、乾いた笑みを浮かべた。
「……俺、今逃げたら怒る?」
「ええ」
「ですよね」
数秒後、三人は仲良く床に転がっていた。
――しばらくして。
「……頭が、割れそうだ……」
恭介が呻きながら目を覚ます。
「当然よ」
「知識が一気に流れ込んだんだもの。脳への負荷は相当なものね」
直哉も額を押さえ、呟く。
「……魔法の理屈が、全部分かる」
「でも……整理できてない」
「それでいいわ」
「今は“知っている”状態にしただけ」
私は三つの指輪を取り出した。
「これを着けなさい」
俊が即座に警戒する。
「どうせ、また厄介なやつだろ」
「魔力の流れを乱す指輪よ」
「寝るとき以外は外さないで」
装着した瞬間、三人の顔色が変わった。
「っ……身体が……」
「重い……!」
「立てねぇ……」
魔力が安定せず、思うように力が入らない。
「まずは、その状態に慣れること」
最初は這うことすらままならなかった。
だが数日後には、ふらつきながらも立ち上がり、
やがて、歩けるようになる。
「……立つだけで、こんなにキツいのか」
「普段どれだけ魔力に頼ってたか、分かるでしょ」
そこから基礎的な体力作りが始まった。
走る。
跳ぶ。
倒れても、また立つ。
「そのまま、魔力操作を続けなさい」
「鬼かよ!!」
「褒め言葉?」
歪む魔力を必死に制御しながら、三人は少しずつ順応していった。
慣れてきた頃、次の段階へ進む。
「次は、魔法の発動練習」
「やっと魔法か……」
「最初は詠唱あり」
「最終的には、無詠唱にする」
直哉が驚いたように目を見開く。
「無詠唱まで……やるんですか?」
「戦場で、詠唱している余裕があるとは限らないでしょ」
さらに実戦訓練。
相手は――私とレオンだ。
「遠慮しないで来なさい」
「それ無理だろ!!」
何度も倒され、何度も立ち上がり、
半年――この空間での時間が過ぎた。
現実世界では、約一ヶ月。
その頃には、三人は単独のアポストルになら確実に勝てるほどに成長していた。
ある日、休憩中に恭介がふと口を開く。
「なあ」
「何?」
「こんな空間作れるのって……やっぱり神様だから?」
ここは異空間。
邪神の目は届かない。
私は、真実を告げることにした。
「普通の神には」
「ここまで長い時間の流れを変えることはできないの」
「じゃあ、なんで?」
「それはね――」
私は、はっきりと言う。
「私が、全能の神だからよ」
一瞬の静寂。
「……え?」
「全能?」
「冗談だよな?」
「本気よ」
俊が思わず口を挟む。
「じゃあさ」
「稟が戦えばいいんじゃないか?」
「確かに、私が全力を出せば」
「魔王も邪神も相手じゃないわ」
「じゃあ――」
「でも、条件があるの」
直哉が真剣な表情で問う。
「その条件って……?」
「その世界の管理者が許可すること」
「その世界に住まう者たちでは、対処できない事態であること」
「他にも色々あるけど」
「どれか一つでも満たさなければ、全力は出せない」
私は次の疑問を先回りして告げる。
「仮に条件を無視して全力を出せば」
「少しの間なら戦える」
「なら――」
「その後、世界から弾き出される」
三人の表情が凍りついた。
「もう、その世界には行けないでしょうね」
そして、私は釘を刺す。
「もし条件を無視して」
「魔王か邪神のどちらか一方だけを倒して」
「もう片方が残ったら――」
三人を見渡す。
「戦うのは、あなたたちよ」
沈黙。
やがて、恭介が静かに言った。
「……だから、ここまで鍛えたんだな」
「ええ」
その直後、現実世界へ帰還。
皇帝が重い声で告げる。
「アポストルの――大規模侵攻が始まった」
その一言で、すべてを理解した。
――最終決戦の火蓋は、
今、切って落とされた。
本来なら基礎理論から段階を踏んで教えるべきだが、そんな余裕はない。
「……一つずつ教えている時間は、正直ないわ」
その言葉に、俊が露骨に嫌な予感しかしない顔をする。
「その言い方、絶対ロクなことじゃないだろ」
「鋭いわね」
私は三人の前に立ち、はっきりと告げた。
「今から、魔法に関する知識をまとめて渡す」
恭介が目を瞬かせる。
「まとめてって……どうやって?」
答える代わりに、私は彼の頭に手を置いた。
「ちょ、ちょっと待――」
次の瞬間、膨大な魔法知識が一気に流れ込む。
魔法理論、属性の相性、詠唱構造、魔力循環、応用式。
それは“理解”ではなく、“記憶”として直接叩き込まれた。
「――っ!!」
恭介は言葉を失い、そのまま崩れ落ちる。
「恭介!?」
直哉が叫ぶが、私はすでに次へ移っていた。
「直哉」
「え、稟さん!? 心の準――」
同じように、直哉も床に倒れる。
最後に残った俊が、乾いた笑みを浮かべた。
「……俺、今逃げたら怒る?」
「ええ」
「ですよね」
数秒後、三人は仲良く床に転がっていた。
――しばらくして。
「……頭が、割れそうだ……」
恭介が呻きながら目を覚ます。
「当然よ」
「知識が一気に流れ込んだんだもの。脳への負荷は相当なものね」
直哉も額を押さえ、呟く。
「……魔法の理屈が、全部分かる」
「でも……整理できてない」
「それでいいわ」
「今は“知っている”状態にしただけ」
私は三つの指輪を取り出した。
「これを着けなさい」
俊が即座に警戒する。
「どうせ、また厄介なやつだろ」
「魔力の流れを乱す指輪よ」
「寝るとき以外は外さないで」
装着した瞬間、三人の顔色が変わった。
「っ……身体が……」
「重い……!」
「立てねぇ……」
魔力が安定せず、思うように力が入らない。
「まずは、その状態に慣れること」
最初は這うことすらままならなかった。
だが数日後には、ふらつきながらも立ち上がり、
やがて、歩けるようになる。
「……立つだけで、こんなにキツいのか」
「普段どれだけ魔力に頼ってたか、分かるでしょ」
そこから基礎的な体力作りが始まった。
走る。
跳ぶ。
倒れても、また立つ。
「そのまま、魔力操作を続けなさい」
「鬼かよ!!」
「褒め言葉?」
歪む魔力を必死に制御しながら、三人は少しずつ順応していった。
慣れてきた頃、次の段階へ進む。
「次は、魔法の発動練習」
「やっと魔法か……」
「最初は詠唱あり」
「最終的には、無詠唱にする」
直哉が驚いたように目を見開く。
「無詠唱まで……やるんですか?」
「戦場で、詠唱している余裕があるとは限らないでしょ」
さらに実戦訓練。
相手は――私とレオンだ。
「遠慮しないで来なさい」
「それ無理だろ!!」
何度も倒され、何度も立ち上がり、
半年――この空間での時間が過ぎた。
現実世界では、約一ヶ月。
その頃には、三人は単独のアポストルになら確実に勝てるほどに成長していた。
ある日、休憩中に恭介がふと口を開く。
「なあ」
「何?」
「こんな空間作れるのって……やっぱり神様だから?」
ここは異空間。
邪神の目は届かない。
私は、真実を告げることにした。
「普通の神には」
「ここまで長い時間の流れを変えることはできないの」
「じゃあ、なんで?」
「それはね――」
私は、はっきりと言う。
「私が、全能の神だからよ」
一瞬の静寂。
「……え?」
「全能?」
「冗談だよな?」
「本気よ」
俊が思わず口を挟む。
「じゃあさ」
「稟が戦えばいいんじゃないか?」
「確かに、私が全力を出せば」
「魔王も邪神も相手じゃないわ」
「じゃあ――」
「でも、条件があるの」
直哉が真剣な表情で問う。
「その条件って……?」
「その世界の管理者が許可すること」
「その世界に住まう者たちでは、対処できない事態であること」
「他にも色々あるけど」
「どれか一つでも満たさなければ、全力は出せない」
私は次の疑問を先回りして告げる。
「仮に条件を無視して全力を出せば」
「少しの間なら戦える」
「なら――」
「その後、世界から弾き出される」
三人の表情が凍りついた。
「もう、その世界には行けないでしょうね」
そして、私は釘を刺す。
「もし条件を無視して」
「魔王か邪神のどちらか一方だけを倒して」
「もう片方が残ったら――」
三人を見渡す。
「戦うのは、あなたたちよ」
沈黙。
やがて、恭介が静かに言った。
「……だから、ここまで鍛えたんだな」
「ええ」
その直後、現実世界へ帰還。
皇帝が重い声で告げる。
「アポストルの――大規模侵攻が始まった」
その一言で、すべてを理解した。
――最終決戦の火蓋は、
今、切って落とされた。
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