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異空間での訓練を終え、現実世界へ戻ったその夜。
城は、まるで嵐の前触れのような静けさに包まれていた。
兵たちは各所に配置につき、魔導士たちは結界の最終調整に追われている。
誰もが忙しく動いているはずなのに、聞こえてくる音だけが、どこか遠い。
勇者たちは、城の一室に集められていた。
机の上には地図が広げられ、アポストルの侵攻経路が赤く記されている。
その線の先にあるのは、巨大な砦――
人類側の、最終防衛ラインだった。
そこが突破されればどうなるか。
想像するまでもない。
恭介は無言のまま地図を見つめていたが、
その手が、かすかに震えているのを直哉は見逃さなかった。
「……どうした、恭介」
「怖いのか?」
その問いに、恭介は一瞬だけ言葉を詰まらせる。
「当たり前だろ」
吐き出すように言い、拳を強く握り締めた。
「明日、死ぬかもしれない」
「それに……そこが突破されたら、もう……」
それ以上は、口にしなかった。
言葉にした瞬間、それが現実になってしまいそうだったから。
重い沈黙が、部屋に落ちる。
だが、それを破ったのは俊だった。
「大丈夫だって」
軽い調子――
けれど、そこにいつもの冗談めいた軽さはなかった。
「あの地獄みたいな訓練、全部乗り越えたじゃん」
「それにさ……」
俊は二人を見回し、わずかに胸を張る。
「俺たち、勇者なんだから」
それは誰かを励ます言葉であると同時に、
自分自身に言い聞かせる言葉でもあった。
恭介はしばらく黙っていたが――
やがて、ふっと息を吐いて笑った。
「……だな」
その笑みは少しぎこちなかったが、
確かに、前を向いていた。
俊は、この世界に呼ばれた当初は、ただのクラスメイトだった。
顔見知りで、少し話す程度の存在。
だが今では――
命を預け、背中を預けられる仲間になっている。
直哉もまた、同じことを感じていた。
――時を同じくして。
私はレオンと共に、静かな丘の上にある墓地を訪れていた。
夜風が草を揺らす。
そこに並ぶ墓標はどれも古く、けれど丁寧に手入れされていた。
私は一つひとつの墓の前に花を供え、静かに目を閉じる。
(……みんな)
胸の奥で、言葉を紡ぐ。
(本当だったら、五百年前に終わらせるはずだった)
(こんなに時間がかかってしまって……ごめんなさい)
指先が、わずかに震えた。
(明日は、きっと――物凄い犠牲が出る)
(それでも、少しでも減らせるように……私は、最後まで抗うから)
(だから……見ていて)
風が、花弁を揺らす。
一つの墓標の前で、私は立ち止まった。
(……ソフィア)
胸が、きゅっと締め付けられる。
(あの時、あんなことを言わなければ)
(あなたが天寿を全うするところまで、見届けるつもりだったのよ)
しばし、沈黙。
レオンもまた、何も言わずに墓標を見つめていた。
やがて私は、ゆっくりと顔を上げ、彼に向き直る。
「……明日のことなんだけど、レオン」
静かな声で切り出す。
「あなたには、砦を守ってほしいの」
その言葉に、レオンの目が見開かれた。
「……何故だ」
低く、抑えた声。
私は、迷いなく答える。
「あそこが突破されたら」
「人類側に待っているのは、アポストルによる――虐殺よ」
夜の空気が、張り詰める。
「だから」
「帝国最強のあなたに、砦を守ってほしい」
それは命令ではなく、祈りに近い願いだった。
レオンは、しばらく黙っていた。
怒り、悔しさ、覚悟――
様々な感情を胸の奥に飲み込み、やがて短く息を吐く。
「……わかった」
それだけを、静かに告げる。
私はそんな彼の横顔を見つめ、微笑んだ。
「ごめんなさいね」
「でも、安心して」
「魔王のところへ行くまでの間に」
「アポストルは、殲滅するつもりでいるから」
レオンは、鼻で小さく笑う。
「ふっ……」
「相変わらず、無茶を言う」
そして、真っ直ぐに私を見た。
「期待している」
その一言に、私は深く頷いた。
こうして――
それぞれが、それぞれの想いを胸に抱いたまま。
決戦前夜は、静かに過ぎていく。
そして。
逃れられぬ運命の日が、
ついに――幕を開けようとしていた。
城は、まるで嵐の前触れのような静けさに包まれていた。
兵たちは各所に配置につき、魔導士たちは結界の最終調整に追われている。
誰もが忙しく動いているはずなのに、聞こえてくる音だけが、どこか遠い。
勇者たちは、城の一室に集められていた。
机の上には地図が広げられ、アポストルの侵攻経路が赤く記されている。
その線の先にあるのは、巨大な砦――
人類側の、最終防衛ラインだった。
そこが突破されればどうなるか。
想像するまでもない。
恭介は無言のまま地図を見つめていたが、
その手が、かすかに震えているのを直哉は見逃さなかった。
「……どうした、恭介」
「怖いのか?」
その問いに、恭介は一瞬だけ言葉を詰まらせる。
「当たり前だろ」
吐き出すように言い、拳を強く握り締めた。
「明日、死ぬかもしれない」
「それに……そこが突破されたら、もう……」
それ以上は、口にしなかった。
言葉にした瞬間、それが現実になってしまいそうだったから。
重い沈黙が、部屋に落ちる。
だが、それを破ったのは俊だった。
「大丈夫だって」
軽い調子――
けれど、そこにいつもの冗談めいた軽さはなかった。
「あの地獄みたいな訓練、全部乗り越えたじゃん」
「それにさ……」
俊は二人を見回し、わずかに胸を張る。
「俺たち、勇者なんだから」
それは誰かを励ます言葉であると同時に、
自分自身に言い聞かせる言葉でもあった。
恭介はしばらく黙っていたが――
やがて、ふっと息を吐いて笑った。
「……だな」
その笑みは少しぎこちなかったが、
確かに、前を向いていた。
俊は、この世界に呼ばれた当初は、ただのクラスメイトだった。
顔見知りで、少し話す程度の存在。
だが今では――
命を預け、背中を預けられる仲間になっている。
直哉もまた、同じことを感じていた。
――時を同じくして。
私はレオンと共に、静かな丘の上にある墓地を訪れていた。
夜風が草を揺らす。
そこに並ぶ墓標はどれも古く、けれど丁寧に手入れされていた。
私は一つひとつの墓の前に花を供え、静かに目を閉じる。
(……みんな)
胸の奥で、言葉を紡ぐ。
(本当だったら、五百年前に終わらせるはずだった)
(こんなに時間がかかってしまって……ごめんなさい)
指先が、わずかに震えた。
(明日は、きっと――物凄い犠牲が出る)
(それでも、少しでも減らせるように……私は、最後まで抗うから)
(だから……見ていて)
風が、花弁を揺らす。
一つの墓標の前で、私は立ち止まった。
(……ソフィア)
胸が、きゅっと締め付けられる。
(あの時、あんなことを言わなければ)
(あなたが天寿を全うするところまで、見届けるつもりだったのよ)
しばし、沈黙。
レオンもまた、何も言わずに墓標を見つめていた。
やがて私は、ゆっくりと顔を上げ、彼に向き直る。
「……明日のことなんだけど、レオン」
静かな声で切り出す。
「あなたには、砦を守ってほしいの」
その言葉に、レオンの目が見開かれた。
「……何故だ」
低く、抑えた声。
私は、迷いなく答える。
「あそこが突破されたら」
「人類側に待っているのは、アポストルによる――虐殺よ」
夜の空気が、張り詰める。
「だから」
「帝国最強のあなたに、砦を守ってほしい」
それは命令ではなく、祈りに近い願いだった。
レオンは、しばらく黙っていた。
怒り、悔しさ、覚悟――
様々な感情を胸の奥に飲み込み、やがて短く息を吐く。
「……わかった」
それだけを、静かに告げる。
私はそんな彼の横顔を見つめ、微笑んだ。
「ごめんなさいね」
「でも、安心して」
「魔王のところへ行くまでの間に」
「アポストルは、殲滅するつもりでいるから」
レオンは、鼻で小さく笑う。
「ふっ……」
「相変わらず、無茶を言う」
そして、真っ直ぐに私を見た。
「期待している」
その一言に、私は深く頷いた。
こうして――
それぞれが、それぞれの想いを胸に抱いたまま。
決戦前夜は、静かに過ぎていく。
そして。
逃れられぬ運命の日が、
ついに――幕を開けようとしていた。
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