神は奇跡を選ばない ――英雄たちの帰還譚―

えええ

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勇者たちと別れ、さらに奥へと進む。
辿り着いた先には、崩れかけた玉座の間が広がっていた。

その中心――
魔王は、まるで世界そのものを掌中に収めているかのように、悠然と玉座に鎮座していた。

私を見据え、低く笑う。

「ほう……一人で来たか」

私は一歩も退かず、冷ややかに言い返す。

「まさか、邪神と手を組むなんてね」

魔王の視線が、わずかに鋭くなる。

私は言葉を重ねた。

「あんなものを許すなんて」
「まさか――屍の上に築く、虚しい玉座がご所望かしら?」

その瞬間、魔王は鼻で笑い、切り捨てるように言い放つ。

「あのようなものに勝てぬ者など、我が世に不要だ」

――ああ、もういい。

これ以上、言葉を交わす意味はない。

私は静かに告げる。

「……あの時、言ったこと覚えてる?」

魔王の目が細まった。

「今度こそ、殺すって」

その言葉に、魔王は嘲るように嗤う。

「フン」
「我を封印する時、主人を殺し、泣きわめいていた者が――何を言っておる」

胸の奥で、何かがはっきりと切れた。

「……殺す」

それだけを吐き捨てた瞬間、
魔王の魔力が爆発するように膨れ上がる。

玉座の間を揺るがす轟音。
――戦闘が、始まった。

私は即座に《ライト・レイ》を解き放つ。
白光が一直線に魔王へと走る――が、

「甘い」

魔王は即応し、《ダークネス・レイ》を放つ。
光と闇が激突し、衝撃波が玉座の間を震わせた。

舌打ちする暇もなく、私は無数の魔法陣を展開する。
幾重にも重なった魔法が魔王を包囲する中、私は一気に距離を詰めた。

「――っ!」

刃を振るう。
だが魔王はそれを剣で受け止め、同時に放たれた魔法すら次々と相殺してみせる。

火花が散り、金属音が響いた。

「ほう……」

魔王は愉しげに口角を上げる。

「少しは、強くなったようだな」

私は睨み返す。

「――あなたを、殺すためにね!」

左手を突き出す。
距離は、ほぼゼロ。

光が圧縮され、次の瞬間――

腹部に叩き込まれた《ライト・レイ》が爆ぜ、凄まじい衝撃と共に煙が立ち上る。
詠唱も予兆もない、純粋な殺意だけの一撃。

……確かに、当たった。

だが。

煙が晴れると、そこに立っていたのは、
防御障壁を薄く纏った、無傷の魔王だった。

「ちっ……」

思わず舌打ちする。

「これでも、無傷か……」

魔王は低く笑い、静かに言う。

「我も少しは驚いたぞ」
「防御を張るのが、ほんの一瞬遅れていれば――」
「さすがに、傷を負っていた」

空間が歪む。
魔王の魔力が、言葉なく溢れ出す。

魔法の撃ち合いでは埒があかない。
そう判断した私は、即座に戦い方を切り替え、近接主体へと踏み込んだ。

剣と剣が激しくぶつかり合い、重い金属音が玉座の間に響く。
その一合ごとに、確信が強まっていく。

――強い。
当時とは、比べものにならない。

胸を刺す違和感に、思わず口にする。

「……まさか」
「邪神に、魂でも売り渡した?」

魔王は嘲るように鼻を鳴らした。

「たわけが」
「我と邪神は協力関係だ」

力任せに剣を振るいながら、言葉を続ける。

「少しばかり――」
「お主らを殺すために、力を分けてもらったに過ぎん」

その瞬間、私の中で何かが弾けた。

「……それを」

魔力が桜色に染まり、身体を包み込む。
《桜花》――その能力を、完全に解放する。

「魂を売り渡したって言うのよ!」

踏み込んだ瞬間、世界が加速する。
魔王の斬撃を桜花の力でかわし、その隙間を縫うように刃を叩き込む。

一撃、また一撃。
確実に、少しずつ。

魔王の身体に、初めて“傷”が刻まれていく。

「……っ」

わずかな怯み。
私はその一瞬を逃さなかった。

間合いに踏み込み、刃を魔王の首元へと滑り込ませる。

――勝った。

そう確信した、その瞬間。

「また……私を、殺すの?」

耳元で囁かれた、その声。

「……なっ」

声にならない叫びが喉を塞ぐ。
次の瞬間、視界が反転した。

重い衝撃。
魔王の一撃が私を捉え、身体は壁へと叩きつけられる。

「ぐっ……!」

瓦礫が崩れ落ちる中、私は目を見開いた。

そこに立っていたのは――
魔王ではない。

「……なんで」
「お前が、ソフィアの姿を……!?」

震える声で問い詰める。

魔王――いや、その姿を借りた存在は、冷たく笑った。

「これが」
「邪神から分け与えられた力だ」

その言葉と同時に、
胸の奥へ、嫌な予感が重く沈み込んだ。
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