神は奇跡を選ばない ――英雄たちの帰還譚―

えええ

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恭介たちが、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。

「……終わったんだな」

その言葉に、私は小さく息を吐き、空を仰ぐように答えた。

「ええ……これで……やっと」

――けれど。

視線を下ろし、砕け散った玉座を真っ直ぐに見据える。

「……でも」
「まだ、終わりじゃない」

空気が、はっきりと変わった。

「出てきなさい、邪神」

沈黙。

私は唇を歪め、淡々と続ける。

「それとも――」
「魔王が倒されて、怖気づいて逃げたのかしら?」

次の瞬間。

「――属性神ごときが、何を言っている」

世界が、軋んだ。

爆発するように溢れ出す強大な邪気。
床は割れ、空間そのものが歪み、闇が凝縮していく。

玉座の奥から、“それ”が姿を現した。

――邪神。

「やはり……魔王では神には勝てぬか」

冷え切った視線が、私を射抜く。

私は肩をすくめるように言った。

「ねえ」
「あなたが生み出した、あの化け物――」
「何とかしてくれないかしら?」

一応、聞いてみる。

邪神は鼻で笑った。

「俺はこの世界を破壊し尽くすために手下を生み出した」
「それを、そう易々と消すわけがないだろう」

――その時。

(ついに、邪神が復活したのですね)

女神の声が、直接意識に響く。

(ええ……復活を許してしまって、ごめんなさいね)

私は、素直にそう答えた。

(では、稟様)
(あの邪神を、滅してください)

一拍。

(……ということは)
(全力を出していい、ということよね?)

(この世界を管理する神の名のもとに)
(許可します)

――その瞬間。

私の口角が、わずかに上がった。

それを見た邪神が、不快そうに眉をひそめる。

「……何を笑っている」
「恐怖を前にして、壊れたか?」

私は静かに言い返す。

「まさか」
「あなたを殺す許可が下りただけよ」

邪神の表情が歪んだ。

「属性神風情が……!」
「俺に勝てると思うなよ!」

邪神の手から、世界を終わらせるためだけの力――
破滅の奔流が放たれる。

だが。

私は虚空に手を伸ばした。

――瞬間。

顕現した刀を、ただ一振り。

斬る。

破滅は、あまりにも呆気なく裂かれ、霧のように消え去った。

「な……!?」

邪神が、明確に動揺する。

「何故だ……!?」
「なんだ、それは……!!」

私は手にした刀を掲げる。

「この刀は――《神滅》」
「私が、全能の神である証」

さらに、もう一本を顕現させる。

「そして、こちらは《神楽》」
「私の半身が、全知の神である証」

邪神を真っ直ぐに見据える。

二振りの刀が共鳴するように震え、ゆっくりと――融合した。

次の瞬間。

眩い光が、私の身体を包み込む。

「――そして」

声が、世界に響く。

「これが、《神滅神楽》」
「私が――全知全能の神である証」

光が晴れる。

そこに立っていたのは、もはや人の姿ではなかった。

純銀に輝く髪。
背には、同じ色の六対の翼。

存在するだけで、世界の法則が静まり返る。

――全知全能の神。

私は、邪神を見下ろし、静かに告げた。

「さあ」
「今度こそ、本当に終わりにしましょう」

邪神は、言葉を失っていた。

やがて、現実を拒絶するように、喉が裂けるほどの叫びを上げる。

「そんなはずがあるわけがない!!」

理を否定する絶叫とともに、再び破滅の奔流が解き放たれる。

だが私は、微動だにしない。

静かに左手を突き出す。

奔流は掌に触れた瞬間、悲鳴を上げるように歪み、霧散した。

「……っ!?」

邪神の顔に、初めて恐怖が浮かぶ。

私は冷たく告げた。

「もう、あなたの負けよ」
「おとなしく――死になさい」

邪神は後ずさり、闇へと逃れようとする。

「ま、まだだ……!」
「ここから逃げれば、まだ――!」

「――させない!」

腕を振り上げる。

「行きなさい、グレイプニル!」

絶対捕縛の鎖――グレイプニル。

フェンリルすら縛り上げた、逃れ得ぬ運命の鎖が、意思を持つかのようにうねり、邪神へと襲いかかる。

「くっ……来るな!!」

錯乱した邪神が幾つもの魔法を放つが、それらは鎖に触れる前に消え去った。

「そんなもの……効かないわ」

次の瞬間、グレイプニルは邪神の四肢と胴を絡め取り、完全に拘束する。

もはや、逃げ場はない。

私は歩み寄り、融合された神滅神楽を静かに振り上げた。

「これで――」
「終わりよ」

一閃。

光すら追いつけぬ速度で、刃が振るわれる。

邪神の首が、音もなく宙を舞った。

断末魔すらなく、存在そのものが世界から切り離される。

次の瞬間。

邪神の消滅に呼応するように、世界に残っていた歪みが崩壊していく。

――アポストルたちの気配が、次々と霧散した。

邪気は消え、空は静けさを取り戻す。

本当の意味で――
すべてが、終わった。

私はゆっくりと剣を下ろし、息を吐く。

背後では、恭介たちが言葉を失ったまま立ち尽くしていた。

純銀の翼が光の粒子となって消え、私は元の姿へと戻る。

「……これで」
「本当に、終わりね」

長き戦いの果てに残ったのは、
破壊でも、憎しみでもなく――

ただ、静かな世界だった。
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