神は奇跡を選ばない ――英雄たちの帰還譚―

えええ

文字の大きさ
26 / 27

26

しおりを挟む
恭介たちが、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。

「……終わったんだな」

その言葉に、私は小さく息を吐き、空を仰ぐように答えた。

「ええ……これで……やっと」

――けれど。

視線を下ろし、砕け散った玉座を真っ直ぐに見据える。

「……でも」
「まだ、終わりじゃない」

空気が、はっきりと変わった。

「出てきなさい、邪神」

沈黙。

私は唇を歪め、淡々と続ける。

「それとも――」
「魔王が倒されて、怖気づいて逃げたのかしら?」

次の瞬間。

「――属性神ごときが、何を言っている」

世界が、軋んだ。

爆発するように溢れ出す強大な邪気。
床は割れ、空間そのものが歪み、闇が凝縮していく。

玉座の奥から、“それ”が姿を現した。

――邪神。

「やはり……魔王では神には勝てぬか」

冷え切った視線が、私を射抜く。

私は肩をすくめるように言った。

「ねえ」
「あなたが生み出した、あの化け物――」
「何とかしてくれないかしら?」

一応、聞いてみる。

邪神は鼻で笑った。

「俺はこの世界を破壊し尽くすために手下を生み出した」
「それを、そう易々と消すわけがないだろう」

――その時。

(ついに、邪神が復活したのですね)

女神の声が、直接意識に響く。

(ええ……復活を許してしまって、ごめんなさいね)

私は、素直にそう答えた。

(では、稟様)
(あの邪神を、滅してください)

一拍。

(……ということは)
(全力を出していい、ということよね?)

(この世界を管理する神の名のもとに)
(許可します)

――その瞬間。

私の口角が、わずかに上がった。

それを見た邪神が、不快そうに眉をひそめる。

「……何を笑っている」
「恐怖を前にして、壊れたか?」

私は静かに言い返す。

「まさか」
「あなたを殺す許可が下りただけよ」

邪神の表情が歪んだ。

「属性神風情が……!」
「俺に勝てると思うなよ!」

邪神の手から、世界を終わらせるためだけの力――
破滅の奔流が放たれる。

だが。

私は虚空に手を伸ばした。

――瞬間。

顕現した刀を、ただ一振り。

斬る。

破滅は、あまりにも呆気なく裂かれ、霧のように消え去った。

「な……!?」

邪神が、明確に動揺する。

「何故だ……!?」
「なんだ、それは……!!」

私は手にした刀を掲げる。

「この刀は――《神滅》」
「私が、全能の神である証」

さらに、もう一本を顕現させる。

「そして、こちらは《神楽》」
「私の半身が、全知の神である証」

邪神を真っ直ぐに見据える。

二振りの刀が共鳴するように震え、ゆっくりと――融合した。

次の瞬間。

眩い光が、私の身体を包み込む。

「――そして」

声が、世界に響く。

「これが、《神滅神楽》」
「私が――全知全能の神である証」

光が晴れる。

そこに立っていたのは、もはや人の姿ではなかった。

純銀に輝く髪。
背には、同じ色の六対の翼。

存在するだけで、世界の法則が静まり返る。

――全知全能の神。

私は、邪神を見下ろし、静かに告げた。

「さあ」
「今度こそ、本当に終わりにしましょう」

邪神は、言葉を失っていた。

やがて、現実を拒絶するように、喉が裂けるほどの叫びを上げる。

「そんなはずがあるわけがない!!」

理を否定する絶叫とともに、再び破滅の奔流が解き放たれる。

だが私は、微動だにしない。

静かに左手を突き出す。

奔流は掌に触れた瞬間、悲鳴を上げるように歪み、霧散した。

「……っ!?」

邪神の顔に、初めて恐怖が浮かぶ。

私は冷たく告げた。

「もう、あなたの負けよ」
「おとなしく――死になさい」

邪神は後ずさり、闇へと逃れようとする。

「ま、まだだ……!」
「ここから逃げれば、まだ――!」

「――させない!」

腕を振り上げる。

「行きなさい、グレイプニル!」

絶対捕縛の鎖――グレイプニル。

フェンリルすら縛り上げた、逃れ得ぬ運命の鎖が、意思を持つかのようにうねり、邪神へと襲いかかる。

「くっ……来るな!!」

錯乱した邪神が幾つもの魔法を放つが、それらは鎖に触れる前に消え去った。

「そんなもの……効かないわ」

次の瞬間、グレイプニルは邪神の四肢と胴を絡め取り、完全に拘束する。

もはや、逃げ場はない。

私は歩み寄り、融合された神滅神楽を静かに振り上げた。

「これで――」
「終わりよ」

一閃。

光すら追いつけぬ速度で、刃が振るわれる。

邪神の首が、音もなく宙を舞った。

断末魔すらなく、存在そのものが世界から切り離される。

次の瞬間。

邪神の消滅に呼応するように、世界に残っていた歪みが崩壊していく。

――アポストルたちの気配が、次々と霧散した。

邪気は消え、空は静けさを取り戻す。

本当の意味で――
すべてが、終わった。

私はゆっくりと剣を下ろし、息を吐く。

背後では、恭介たちが言葉を失ったまま立ち尽くしていた。

純銀の翼が光の粒子となって消え、私は元の姿へと戻る。

「……これで」
「本当に、終わりね」

長き戦いの果てに残ったのは、
破壊でも、憎しみでもなく――

ただ、静かな世界だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。 途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。 鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒! 素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。 裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...