兄ちゃんとぼく。

恋下うらら

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チームの監督

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野球の練習を見に行くことにした。

兄ちゃんは頭が痛いという理由で少年野球の練習を休んだ。

監督さんと話をするいい機会だ。

僕はすぐさまその日の朝、学校の少年野球へと急いだ。

午前中の練習がいつもの様すすみ午前十二時
頃終わった。

ついに僕の番だ!!

監督さんに兄ちゃんの事を相談しなくては…。

タイミングを見て、お昼ごはんが終わったぐらいに話を聞いてもらおう!

遠くから見えるグラウンド。

毎週のように皆と野球をしていたグラウンド…。

皆を引き連れてさっそうとしたプレーをしていた、兄ちゃん…。

まさかこんなことになるとは…。

このまさか…を打ち消さなくては…。

ぼくは重い足取りで監督さんに近づいた。

監督さんの後ろに立つと

「山下監督…、ぼくもそろそろ野球に入ろうかな~。」
と問いかけた。

それを聞いた監督さんは身を乗り出した。

食べ終わった弁当を置くと、そばにあるお茶を飲み干した。

足を交互に組んではソワソワと左右に揺らしている。

「お前もついに心に決めたか!」
と大きい目を大きく見開いた。

「はるき兄の才能もすごいからお前の才能も凄いぞ!!足も速い事だし…。」
と随分期待された。

でもぼくは兄ちゃんみたいな才能はない。

それに肩も強くない。

大変なことになりそうだ。


いずれ入るであろう野球、タイミングとしてはまだだ。

兄ちゃんのことを言わなくてわ。

「もう少し考えてみます。ところで、話があるのですけど…。」
と言葉がつまった。

「どうかしたか~?」
監督さんの深妙な面持ち。

「どうしたのかな。てるき。」
監督さんの優しい声。

思い切って話をすることにした。

「最近、はる兄の様子がおかしくて…野球の練習も家ではあまりしてないし、何かチームの中に入れずにいるような…。」

「えっ!…」

しばらく沈黙の時間が流れた。

ぼくは一体全体、どんな顔をして話をしているのか…。

やりきれない状況。

監督さんは椅子から立ち上がると、歩き出した。

そばの階段の石段を上りはじめた。

ぼくも、とぼとぼと、先頭を歩く監督さんの後ろをついていく。

「わかった…」

石段の途中で止まると僕の方を振り向いた。

「今日、夕方、少し家に寄せてもらうことにするよ。」
無表情で僕に語りかけた。

「はい、お願いします。」
ぼくの後ろをすり抜けるように風が吹いた。

ぼくの心の隙間を監督さんが埋めてくれそうだ。

切に願う気分だった。




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