兄ちゃんとぼく。

恋下うらら

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兄ちゃんと家族

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ぼくは慌てて家路についた。

家に帰り着いたぼくはすぐさま兄ちゃんの姿を探した。

「兄ちゃん!!」
兄ちゃんは以外にも楽しそうにテレビを見て笑っていた。

「兄ちゃん、聞いて聞いて!兄ちゃんに会いに、夕方、山下監督さんが家に来るよ。」

「はるき、なにか悪いことでもしたんかぁ~」
と父さんが間髪入れずにいった。

兄ちゃんはテレビのスイッチを消すと
慌てることなく

「えっ!なんで?」
とポカンとした。

「監督さん、今日、兄ちゃんが休んだから心配してるんだよ。」
とぼくは慌てた。

兄ちゃんはくるりと背中を向けた。

背を丸めてる兄ちゃん。

その背中はいつもと違って小さく見えた。


それからどのくらい経ったのだろうか…。

四時間ぐらい経過したあと、玄関のチャイムがなった。

ピンポーン~

待っていたぼくは動揺を隠せなかった。

来た!!!!!

監督さん。

慌てて玄関へと向かった。

「こんばんわ…。お兄ちゃんいるかな?」

「はい、ちょっとまってて下さい。」

ぼくは平然をよそおいながらも兄のところに行った。

だらけた感じで横になってる兄ちゃんに声をかけると慌てて玄関へ行く。

ぼくは少し覗いて、息をひそめて見ていた。

「どうかな、体調の方は…」

心配した声でつぶやく監督さん。

「まぁまぁです。」

「ちょっと外に出てみないか」

監督さんはいつも以上に落ち着いた声で話かけていた。

「はい…」
というと二人は出ていく。

そんな僕を見て、母さんは声をかけてきた。

「てるきー、先にご飯食べちゃいなさい。」

母さんの苛ついた声に何故か顔をしかめた。

ぼくは、はっきり言って夕食なんてどうでも良かった。

「ぼく、今食べたくない!」
といった。

いつもだったら喜んで食べるハンバーグ

今は、どうでも良かった。

兄ちゃんが心配なのだ。

それなのに母さんは…。

ご飯だなんて…。

母さんの態度に苛ついた。

兄ちゃんが立ち直ってくれるといいのだが…

変わってくれることに期待した。

変わってくれるなら、ぼくのこのハンバーグをあげてもいい。

僕が大切にしてるゲームを渡してもいい。

食事やゲーム、それ以上に兄ちゃんが心配だ。

ポッカリと空いた僕の心。

兄ちゃんが学校にも行けなくなったら…

と思うと、ものが喉に通らないほど重苦しい気持ちだった。


それから二十分経ってから、

「ただいま…」

とはる兄ちゃんが一人でかえってきた。

「山下監督さんは?」
父は慌てて玄関を出て行く。

「はる兄ちゃん…」
とぼくは声をかけた。

はる兄は無言で頷く。

「何の話?」
母さんは慌てて横に座った

兄ちゃんも母さんもさり気なくした。

「いや、明日の練習に来れるかってこと。」

「それでどうするん?」
と静まりかえった。

時計の音だけが響いていた。

「ぼくね…明日…野球に行くことにするよ…」
深刻の顔の母さんが、ニッコリした。

「本当?!」

三人は顔を合わせた。


良かった!

といった。

ぼくは嬉しさのあまり兄ちゃんに寄りかかった。

「そうだ!明日も早起きしなきゃ!!」
その時、父さんがリビングの中に入ってきた。

「なんて声だぁ~嬉しそうな声を出して…」
父さんがコロコロと変わる母さんの表情や態度にうれしそうに分け入ってくる。

「もう、父さんどこ行ってたのよ…」

「悪い!今、少し山下監督さんと話をしてたのだ。」
父さんはつゆほどにも意を介さないで笑った。

ぼくたちは、あまり気にしないでいる父さんを見て少し拍子抜けした。

だが母さんは少し違っていた。

首を傾けながらはる兄に話しだした。

それはいつもの母さんの癖でもあった。

何かしでかした時、前向きの話を切り出す。

僕たちの小さい時からそうであった。

「ねぇ~、はるき、今までずっーと野球してきたわね。もう、何年になるかしら、もう、早五年になるわね、長いようで早かったわ…五年ってあっと言う間ね。そうそう、遅くないと思うのだけど、例えば一ヶ月先…、いや、半年先…の自分を描いてみるのもいいと思うの…何年も先だと見えなかなっちゃうけど、少し先ならいい目標がたつと思うのよ、ねぇ、父さん。」

母さんの言葉にふんふんと頷いていた父さんが口を開いた。

「そうだなぁ~、将来の自分がイメージ出来ないとなると少し問題があるよな~漠然とでもいいんだよ。突然何かをする…ということも出てくるかもしれないが…それは少し勇気がいるぞ~心の準備をしておかないと…そうそう、体が動かなくなったら困るぞ…毎日の積み重ねが大切だ。そうだ!!今から少し体を動かしておこう…腹筋でもしとくか?」

と言い、父さんは手を合わせた。

母さんは無責任な言葉を投げかけた。

「今から減量しなきゃ、ちょっと太めになってるよ。」

「ひどいよ母さん。」

と言って皆で笑った。

ぼくは今日一日、これて良かったと思えた。

明日からの練習に出て、きっとはる兄ちゃんの歯車が動き出すだろう…。

そしてはる兄ちゃんはチームの皆と仲良くいけるだろう。

ぼくはその日、一日満足して眠った。

でもぼく、はる兄ちゃんと次の日の出来事をまだ知らずにいたのだった。

歯車が動き出すことがない日が続くのだった。






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