兄ちゃんとぼく。

恋下うらら

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皆と僕たち

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次の日の朝、ぼくとはる兄ちゃんは自転車にまたがり、意気揚々と学校に向かった。

朝、8時30分の集合時間に遅れぬよう少し急いだ。

学校の裏門から入り、ブランコの前に集合するのだ。

もうすでに半分くらいの皆が集合していた。

はる兄ちゃんはいつものように仲間に声をかける。

「おはよう…皆、久しぶりだなぁ~。」

「……。」

無言の態度のKくん。

近くにいるTくん、Nくんにも声をかけるが、返事はなかった。

少し皆の様子がおかしい。

兄は表情を引き締め、皆の素っ気ない態度にショックの色を隠せなかった。

グローブを取り出し、そのグローブを睨みつけていた。

「おはようございます。はるき先輩、久しぶり…。」
後方からのAくんが声をかけてくる。

ただならぬ雰囲気にAくんはそそくさと後輩の集まってる場所へと急いだ。

ぼくはいたたまれない気持ちで、兄ちゃんに声をかける。

「はる兄ちゃん…監督さんに挨拶に行く?」
というとはる兄は小さく頷いた。

重い足取りで一歩一歩あるき出す。

ぼくたちは今の状況が理解できなかった。

みんなの中に入ることができずにいる兄ちゃん。

いや、皆が兄ちゃんを入れないようにしてる感じに見えた。

はる兄ちゃんが皆に受け入れられなかったとすれば、その理由は何だろう。

皆が兄ちゃんをいじめているのか?

いじめか?

あるいは兄ちゃんに嫉妬してるのか…。

そんなはずはない。

今までやってこれたもん。

このままだとどうなるんだろうか…。

ぼくは走馬灯のように考えが回っていた。

「はる兄ちゃん…。」
ぼくが気がついたときは監督さんと話をしていた。

ぼくのそばにはTくんが立っていた。

不可解な顔をしてるぼくに彼は、

「はるきはプライドがたかいからなぁ…」

「えっ…」

Tくんのいった意味が理解できなかった。

「Kくんも可愛そうだったなぁ…はるきから酷いこと言われて…。」

「そうだよ…。皆に謝ってもいいぐらいだよ。」
そばにいた三人も、もうそれ以上言わずに口をつむんだ。

ぼくも皆も、なんとなく口をはさまず、誰かが口を動かすまで待った。

強い風がぼくに吹き付ける。

ぼくと皆、吹き付ける風が僕たちとの間を大きくする。

「てるき…。」
「えっ…。」
「悪く思うなよ。ぼくたちは何も悪いことをしてないんだ。」
皆は素早く立った。

Kくんが鋭い口調で
「あいつが棘のあること言わなければよかったんだ。酷いことをいうからだよ。いいんだよ、無視しておけば…」

「何をいったの?」
三人は知らん顔を決めこんだ。
「ねえ~、皆、だったらそれでほっておくの?はる兄はる兄かもしれないけど、でも無視するなんてひどいや!」

「はあ!」

とTくんがくってかかるように言う。

Nくんが分け入る。

「はるきにも事情を知ってもらった方がいいよ。」
Nくんはおしりについた土をパンパンとはたく。
「どうするKくん…。」
「だって、知ったところで変わんないもんあいつ…。」
Kくんは駆け出していった。

「どうしようか…」

Nくんは困った顔で僕を見る。

「集合!!」

監督さんの呼ぶ声が聞こえた。

「さぁ、軽いランニングから始めてくれ!」

皆は無言で駆け出していく。

軽く掛け声をかけ、二列になってランニングをする。

その中にはる兄ちゃんの姿が見えた。

ぼくはいつもと変わらなく見える光景に涙した。




ぼくは午前中の兄ちゃんの練習を気にかけながら校庭で遊んだ。

いつもと変わらぬ態度が周りにいる友達に対して一番いいように思えたからだ。

冷たい風が体全体を通り抜ける。

ぼくはその場にしゃがみこんだ。

ジィーとしていると、いつの間にか手足が冷たくなっていた。

十二月になる季節。

いつもなら走りまわり、楽しく野球を見てるのに…。

「はぁ~。」

手をこすりながら息を吹きかけた。

ぼくは一人で延々とその場にしゃがみ込んだ。

足元にボールが転がってくる。

「ごめん、ボールを取って投げてくれ~。」

慌てて立ち上がり、小走りに、きたボールを掴むと高く投げ返す。

「悪いな。てるき。」

Kくんがボールを掴むと、仲間の方へと帰っていく。
Kくんの兄ちゃんに対する態度を思い返す。

走り去っていく彼を見ると同時に、容易に余憤がおさまらなかった。





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