兄ちゃんとぼく。

恋下うらら

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帰り道

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昼休みは、ぼくと兄ちゃん、後輩のAくん達とご飯を食べた。

兄ちゃんはまだ彼らの中へうまく入ることができずにいた。

夕方六時となり、今日の練習は終わった。

兄、はるきは、今日一日心痛な面持ちだった。

僕の目から見てもはっきり言って元気がなくふさぎ込んでいた。

午後の練習も乗り切り、集合して最後の挨拶となった。

挨拶が終わり、ぼくは慌ててはる兄に近づいた。

「今日はお疲れ様…。」

はる兄は、捨て猫のようにシュンとうなずいた。

荷物を抱えて自転車にまたがる。

「あ~疲れた…。」

何だか僕たちだけが取り残された気がした。

野球って楽しいもんじゃない。

毎日、何気なく送っていた生活が懐かしい。

重い足取りで帰路につく。

その時、

す~と近づく人がいた。

「はるき!」

Nくんの声にビクンとなった。

そばにNくんが立っていた。

僕たちの空間に入ってくる。

なぜ彼が来てくれたのか…。

兄ちゃんとチームメイトと、一体全体、どうなっていたのか…。

彼に聞きたいことがいくつかあった。

Nくんは遠くから見て声をかけてきてくれたのだ。

皆と兄ちゃん、一部のチームメイトとの間で四苦八苦してたものの、所詮そのやり取りが、いびつさを増し、僕たち二人を威圧していった。

そんなときだった。

彼、Nくんが話しかけてきた。

「そろそろ言わんといかんなぁ…。」

ふんわり、土のかおりがして、彼が立っていた。

後ろを振り向くとまだグランドはにぎわっていた。

兄ちゃんは火照った体をお茶で喉の乾きを潤す。


僕たち二人、無視されたかの様な空間。

この距離感を縮めに来てくれた彼。

僕たちは、Nくんが口を開くのを待った。

話が進まず止まった。

時が流れていく。

「これからどうする?」

Nくんはつとめてさり気なく聞いてきた。

内容はというとぎくしゃくした言葉だった。

「どうするのか…って事か…。」

はる兄は、

「やめようか…」

口にするがその後の言葉を飲み込んだ。

僕たちは周りの喧騒から逃れるよう三人であるき出した。

「Kくんの事、皆、引っかかってることがあるんだよ…なんとなくわかるだろう…今まで仲良くやってきたのになぁ…仲がいいとか悪いとか、そういった事になってきたが…。はるき…、もっと僕たちを信用してくれればよかったんだよ。そんな事言っても仕方ないかな…。わかってくれよ…。」

と言って自転車にまたがった。

黙りこくった僕たちの横をチームメイト達がにぎやかに通り過ぎていった。

いつの間にか、Nくんの姿が見えなくなるぐらい自転車が遠くなっていた。

僕たちは追いかけなかった。

「はる兄…」

「……。」

こんな問題が彼らの中で渦巻いていたなんて。

静まり返った中、音をたてながら自転車を押して歩く。

今日一日、疲労困憊していた。

皆からなぜ無視されたか今日、はじめてわかった。

こんなはずじゃなかった。

それで皆との仲がズレていった。

崩れていった。

人と人との間はこうも簡単に崩壊するのだろうか?

あのまま、そう、はる兄の一言がなければこうはならなかっただろう。

「もう、帰ろう…。」

兄ちゃんは自転車にまたがった。

僕たちはゆっくりと自転車をこぎ、静かに道なりの道を見つめていた…。





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