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1.飛ばした風船
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きのうは土曜日。父さんと母さんが、遊園地につれていってくれた。
おみやげに風船を買ってもらった。じぶんで浮くやつ、細長いひこうせんのかたち。
はなしたら飛んでいっちゃうからね、ってなんども母さんに言われた。ぼくはヒモをしっかりにぎって、浮いたままついてくる風船をひっぱってあるいてた。
帰りのくるまのなかで風船は天井にあたったままふわふわ動きまわって、じゃまだから下げてって父さんに言われた。
家について、浮いていこうとする風船をぎゅうぎゅう玄関におしこんだ。
ぼくは風船をひっぱって家じゅう歩きまわった。ごはんの時はおいてきなさいと母さんに言われて、しかたなく部屋においてきた。
ごはんがすんでからまた風船をつれて歩いて、お風呂のあいだはまた部屋に浮かばせておいて、それから寝るまで浮いた風船をひっぱったりはなしたりしてあそんだ。手でつかんでおろしても、はなすとまた浮いていった。どうしてじぶんで浮くのかなって、ふしぎに思った。
きょう、公園にあそびにでかけた。きのうみたいに風船をひっぱって玄関に行ったら、母さんが風船はおいてきなさいって言った。
はなしたら飛んでっちゃうよ、って言われたけど、ぼくはきのうも遊園地で風船をひっぱって歩いて、飛ばさなかった。ぼくはだいじょうぶ、って言って、風船をひっぱったまま外にでた。
浮かぶ風船をだれかに見せたくて、だれか公園にいないかなって思いながらあるいた。
風船のヒモが、急に手のなかでうごいた。
するすると上にむかって行こうとする。あっというまだったから、ぼくは手をにぎれなかった。
上を見たら、風船がぐんぐん浮かんでいくのが見えた。取りもどさなきゃいけなかったけど、もう背伸びしてもジャンプしても手がとどかなかった。
風船はどんどん小さくなって、点みたいになって、それから見えなくなった。
しばらくそこに立っていたけど、どうしても取りもどせないって思って、家に帰った。ゆっくり歩いて帰った。
母さんに風船飛ばしちゃったって言ったら、あーあって言われた。
ぼくはどうしてもあの風船がもどってきてほしくて、取ってきてって言った。できないよって言われて、ぼくはもういちど、取ってきてって言った。
がまんしなさいって言われて、がまんできないって思って、なみだがわいてきた。いやだいやだって言いながらぼくは泣いた。手をはなさなきゃ飛ばなかったのに、って言われて、ぼくは手をはなしてないって言った。なみだがとまらないから、ぼくはゆかやかべをばんばんたたいて、じたばた泣いた。
やめなさいって父さんにおこられて、ぼくはゆかにすわって大きなこえで泣いた。
父さんはそれから、くるまでどこかへでかけた。
なみだもでなくなってぼうっとしていたら、父さんが帰ってきた。
しばらくして父さんが、ほら、どうだって言って赤い風船をもってきた。丸いやつ。
ぼくは、これじゃないって言ってまた泣いた。その風船はひこうせんじゃないし、浮かびもしない。飛ぶやつがいいの、って言って、うーんどうしようって父さんは言った。
父さんは、またくるまでどこかへでかけた。
ぼくが部屋にもどってぼーっとしていたら父さんのくるまが帰ってきた。
しばらくしてから、父さんによばれてぼくは部屋からでた。
ほら、風船浮くよって言って、父さんはもっていた赤い風船から手をはなした。風船はふわっと浮かんで天井についた。
それを見て、ぼくはまたじたばたして泣いた。これじゃない、これじゃないって言った。
赤い風船をほうったまま、ぼくは部屋にもどった。
ぼくがほしいのは、ひこうせんのかたちをした浮かぶ風船だった。
どうすればぼくは泣かなくなるんだろう、って思って、ぼくは鼻水をすすりながらかんがえた。
わかったときには、もう窓の外はくらくなっていた。
きのうの遊園地で、またおなじのを買うしかないんだ。
もう外はくらい。遊園地は閉まっちゃう。あしたは月曜日だから、もう遊園地には行けない。
それに遊園地なんてなんども行けるわけじゃない。だからもう、ぼくの風船は取りもどせない。
父さんと母さんと行ったたのしい遊園地からもって帰った風船じゃなきゃだめ。もう、二度と風船はもどってこないんだ。
ぼくが部屋でまた泣いていたら、母さんがきて、よしよしってしてくれた。
きょうぼくが飛ばした風船は、いまどこにいるんだろう。こんなにくらくなった空を、まだずっと上にむかって飛んでいるのかな。
ぼくが手をはなさなければ、母さんの言うことをきいて風船を外に連れていかなければ、いまもぼくのそばにあった。ひとりでつめたい空に飛んでいっちゃうこともなかった。
ごめんね……
おみやげに風船を買ってもらった。じぶんで浮くやつ、細長いひこうせんのかたち。
はなしたら飛んでいっちゃうからね、ってなんども母さんに言われた。ぼくはヒモをしっかりにぎって、浮いたままついてくる風船をひっぱってあるいてた。
帰りのくるまのなかで風船は天井にあたったままふわふわ動きまわって、じゃまだから下げてって父さんに言われた。
家について、浮いていこうとする風船をぎゅうぎゅう玄関におしこんだ。
ぼくは風船をひっぱって家じゅう歩きまわった。ごはんの時はおいてきなさいと母さんに言われて、しかたなく部屋においてきた。
ごはんがすんでからまた風船をつれて歩いて、お風呂のあいだはまた部屋に浮かばせておいて、それから寝るまで浮いた風船をひっぱったりはなしたりしてあそんだ。手でつかんでおろしても、はなすとまた浮いていった。どうしてじぶんで浮くのかなって、ふしぎに思った。
きょう、公園にあそびにでかけた。きのうみたいに風船をひっぱって玄関に行ったら、母さんが風船はおいてきなさいって言った。
はなしたら飛んでっちゃうよ、って言われたけど、ぼくはきのうも遊園地で風船をひっぱって歩いて、飛ばさなかった。ぼくはだいじょうぶ、って言って、風船をひっぱったまま外にでた。
浮かぶ風船をだれかに見せたくて、だれか公園にいないかなって思いながらあるいた。
風船のヒモが、急に手のなかでうごいた。
するすると上にむかって行こうとする。あっというまだったから、ぼくは手をにぎれなかった。
上を見たら、風船がぐんぐん浮かんでいくのが見えた。取りもどさなきゃいけなかったけど、もう背伸びしてもジャンプしても手がとどかなかった。
風船はどんどん小さくなって、点みたいになって、それから見えなくなった。
しばらくそこに立っていたけど、どうしても取りもどせないって思って、家に帰った。ゆっくり歩いて帰った。
母さんに風船飛ばしちゃったって言ったら、あーあって言われた。
ぼくはどうしてもあの風船がもどってきてほしくて、取ってきてって言った。できないよって言われて、ぼくはもういちど、取ってきてって言った。
がまんしなさいって言われて、がまんできないって思って、なみだがわいてきた。いやだいやだって言いながらぼくは泣いた。手をはなさなきゃ飛ばなかったのに、って言われて、ぼくは手をはなしてないって言った。なみだがとまらないから、ぼくはゆかやかべをばんばんたたいて、じたばた泣いた。
やめなさいって父さんにおこられて、ぼくはゆかにすわって大きなこえで泣いた。
父さんはそれから、くるまでどこかへでかけた。
なみだもでなくなってぼうっとしていたら、父さんが帰ってきた。
しばらくして父さんが、ほら、どうだって言って赤い風船をもってきた。丸いやつ。
ぼくは、これじゃないって言ってまた泣いた。その風船はひこうせんじゃないし、浮かびもしない。飛ぶやつがいいの、って言って、うーんどうしようって父さんは言った。
父さんは、またくるまでどこかへでかけた。
ぼくが部屋にもどってぼーっとしていたら父さんのくるまが帰ってきた。
しばらくしてから、父さんによばれてぼくは部屋からでた。
ほら、風船浮くよって言って、父さんはもっていた赤い風船から手をはなした。風船はふわっと浮かんで天井についた。
それを見て、ぼくはまたじたばたして泣いた。これじゃない、これじゃないって言った。
赤い風船をほうったまま、ぼくは部屋にもどった。
ぼくがほしいのは、ひこうせんのかたちをした浮かぶ風船だった。
どうすればぼくは泣かなくなるんだろう、って思って、ぼくは鼻水をすすりながらかんがえた。
わかったときには、もう窓の外はくらくなっていた。
きのうの遊園地で、またおなじのを買うしかないんだ。
もう外はくらい。遊園地は閉まっちゃう。あしたは月曜日だから、もう遊園地には行けない。
それに遊園地なんてなんども行けるわけじゃない。だからもう、ぼくの風船は取りもどせない。
父さんと母さんと行ったたのしい遊園地からもって帰った風船じゃなきゃだめ。もう、二度と風船はもどってこないんだ。
ぼくが部屋でまた泣いていたら、母さんがきて、よしよしってしてくれた。
きょうぼくが飛ばした風船は、いまどこにいるんだろう。こんなにくらくなった空を、まだずっと上にむかって飛んでいるのかな。
ぼくが手をはなさなければ、母さんの言うことをきいて風船を外に連れていかなければ、いまもぼくのそばにあった。ひとりでつめたい空に飛んでいっちゃうこともなかった。
ごめんね……
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