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15 王太子フェリクスと幼馴染たち
私はルシアンを王太子の執務室に呼び出した。
「忙しい君を呼びつけてごめんね。ルシアンが私付きの文官だったら呼び出す手間が省けるんだけどね。人事の許可が下りないんだよ」
「ロゼが君の婚約者なんだから仕方ないでしょ? 私まで王太子に付くとバランス悪いからね。ロゼと婚約解消してくれるなら、父に人事を頼んであげるけど」
ルシアンは気怠げにそう言うと、ソファに腰掛けて長い脚を組んだ。
「やっぱりルシアンはいらない」
「そう言うと思った」
護衛として側に仕えていたアルフが横槍を入れる。
「ルシアンは、あいかわらず当て擦った言い方するよな」
「アメティスト公爵家嫡男である私を呼び捨てにするような、不敬な男には言われたくないなあ、アルフ」
「お前だって王太子を呼び捨てにしてるだろ」
「私は良いんだよ。フェリクスに許可貰ってるから。君はフェリクスにも私にも許可貰ってないよね」
「俺、許可取らない主義なの。呼び捨てが嫌なら『紫水晶の貴公子様』って呼んでやろうか?」
にやりとするアルフに、ルシアンが苦虫を潰したような顔を向ける。
「絶対にその名で呼ぶな、鳥肌が立つ。ついでに、私の妹を『ロゼちゃん』と呼ぶのもやめろ」
「それについては私もルシアンに同意するよ。私の婚約者を馴れ馴れしく呼ぶのはやめてね」
「俺、女の子には皆平等に『ちゃん付け』する主義なの。ていうか、本人に隠れて愛称呼びしてるむっつり変態王太子よりマシじゃねえ?」
私達三人は幼少の頃からの付き合いなので、互いに全く遠慮というものがない。
いつものように小競り合いをしたあと、ルシアンが私に尋ねる。
「それで何? どうせロゼのことを聞きたいんでしょ」
「ロゼが目を覚ましたってアメティスト公から聞いたよ。心配いらないって聞いたけど本当? 今日お見舞いに行こうと⋯⋯」
ルシアンが私の言葉を遮った。
「ロゼが階段から落ちた時、フェリクスとアルフは近くに居たらしいね。完璧な淑女のロゼが、階段を勢いよく踏み外すなんて迂闊な真似するかな。ねえ何か知ってる?」
私は思わず黙り込んだ。
アルフが赤髪を掻きながら言った。
「あー、俺も落ちた瞬間は見てないんだけどさ。生徒会室に顔出して、すぐに走り去っていったんだ」
「生徒会室で、ロゼは何を見て動揺したんだ?」
勘のいいルシアンは状況を察したのだろう。
「私と聖女殿との仲を勘違いした可能性が高い。でも誓って聖女殿とは何もないよ」
「二人っきりじゃなかったぜ、俺もその場に居たし。確かにデイジーちゃんの距離感はおかしいけどさ。こいつはロゼちゃん一筋だから信じてやってくれねえか、ルシアン」
ルシアンがアメジストの瞳から鋭い光を放つ。
「⋯⋯フェリクス。君が聖女を無碍に出来ない事情もあるんだろうけど。でも勘違いさせる君が悪いよ。次に何かあれば、アメティスト公爵家が本気出して婚約潰すから」
私はルシアンを真っ直ぐに見据えた。
「確かに誤解させるような行いをした私が悪かった。今後はロゼを傷つけないと約束する」
「俺もそうならないようフォローするぜ!」
緊迫した空気をわざとぶち壊すかのように、アルフが私とルシアンの肩をバンバン叩いてくる。
ルシアンは大きく溜息をつくと、胸元から何かを取り出した。それを私の目の前でヒラヒラと振る。
「ロゼから君宛ての手紙を預かっていたんだ」
「そういうことは早く言ってくれるかな!」
「言おうとしたら、アルフが絡んでくるからさ」
「なんで俺のせいなんだよ」
私はルシアンからもぎ取った手紙を、その場で開封した。
見舞いの品に対するお礼、心配をかけた詫び、体に問題はないこと、そして見舞いの訪問の辞退が記されていた。
体に問題がないとの一文に、思わず安堵の溜息が漏れる。今すぐにでもロゼに会いたいと思った。
だが最後に会ったときの、ロゼの泣きそうな顔が頭をよぎる。もし誤解してるのならきちんと説明したいが、手紙には私の訪問を辞する言葉が綴ってある。
もしかして、私の顔が見たくないのか? 胸のあたりが重たくなる。
ルシアンがソファの肘掛けに腕を預けながら言った。
「今度フォルトア聖国の訪問があるでしょ、その歓迎レセプションの件。ロゼのドレスが聖国から贈られてくる予定だから。一応報告しとく。フェリクスまだロゼに贈ってなかったよね」
「⋯⋯ああわかった。まだ贈ってなかったよ。準備はしたけど、タチアナ女史の所でチェックされて止められてる状態だから」
「なんでフォルトア聖国がフェリクスの婚約者にドレス贈ってくるんだよ?」
アルフが不思議そうに首を傾げる。
「私達の母親がフォルトア聖国王の妹だったからね。今回、国王の代理で来るミハイル王太子殿下が可愛い従姉妹にプレゼントしたいってさ」
「あーそうだったな! そういやお前の母ちゃん、聖国出身だったな」
「フォルトア聖国の元王女を『お前の母ちゃん』呼ばわりか⋯⋯君の言葉使い、正式な近衛騎士になる前に矯正してもらっておいで。スパルタな教育係を手配しておくから」
「ルシアンってほんっとーに俺に厳しいよな! こいつを止めてくれよ、なあフェリクス!」
アルフが助けを求めてくるが、私はルシアンに同意する。
「アルフが名門イグニス侯爵家の嫡男だなんて、まさかと思うよね。君のお父上、騎士団長でこの国の英雄イグニス閣下は紳士の鏡のような立派な御仁なのにね」
「うるせ。親父は外面がいいだけだからな。俺もその気になれば外面くらい簡単に作れるし。そもそも俺がこうなったのは親父のせいだっつの。俺しばらく武者修行で傭兵ギルドにぶち込まれてたんだぞ。そんな所で『お母上』とか言ってたら、何気取ってやがるんだ貴族の坊ちゃんが、って馬鹿にされるんだよ。どっかの国の格言にもあるだろ、『郷に入っては郷に従え』って。従った結果こうなったわけ」
アルフが親指で自分を指してニカッと笑う。
「その理屈でいくと、今アルフは貴族社会という郷に入っている。言いたいことはわかるよね?」
ルシアンが頬杖をつきながら言い返す。
延々と続く小競り合いを聞きながら、私はロゼへの返事を書くために羽ペンを手に取った。
「忙しい君を呼びつけてごめんね。ルシアンが私付きの文官だったら呼び出す手間が省けるんだけどね。人事の許可が下りないんだよ」
「ロゼが君の婚約者なんだから仕方ないでしょ? 私まで王太子に付くとバランス悪いからね。ロゼと婚約解消してくれるなら、父に人事を頼んであげるけど」
ルシアンは気怠げにそう言うと、ソファに腰掛けて長い脚を組んだ。
「やっぱりルシアンはいらない」
「そう言うと思った」
護衛として側に仕えていたアルフが横槍を入れる。
「ルシアンは、あいかわらず当て擦った言い方するよな」
「アメティスト公爵家嫡男である私を呼び捨てにするような、不敬な男には言われたくないなあ、アルフ」
「お前だって王太子を呼び捨てにしてるだろ」
「私は良いんだよ。フェリクスに許可貰ってるから。君はフェリクスにも私にも許可貰ってないよね」
「俺、許可取らない主義なの。呼び捨てが嫌なら『紫水晶の貴公子様』って呼んでやろうか?」
にやりとするアルフに、ルシアンが苦虫を潰したような顔を向ける。
「絶対にその名で呼ぶな、鳥肌が立つ。ついでに、私の妹を『ロゼちゃん』と呼ぶのもやめろ」
「それについては私もルシアンに同意するよ。私の婚約者を馴れ馴れしく呼ぶのはやめてね」
「俺、女の子には皆平等に『ちゃん付け』する主義なの。ていうか、本人に隠れて愛称呼びしてるむっつり変態王太子よりマシじゃねえ?」
私達三人は幼少の頃からの付き合いなので、互いに全く遠慮というものがない。
いつものように小競り合いをしたあと、ルシアンが私に尋ねる。
「それで何? どうせロゼのことを聞きたいんでしょ」
「ロゼが目を覚ましたってアメティスト公から聞いたよ。心配いらないって聞いたけど本当? 今日お見舞いに行こうと⋯⋯」
ルシアンが私の言葉を遮った。
「ロゼが階段から落ちた時、フェリクスとアルフは近くに居たらしいね。完璧な淑女のロゼが、階段を勢いよく踏み外すなんて迂闊な真似するかな。ねえ何か知ってる?」
私は思わず黙り込んだ。
アルフが赤髪を掻きながら言った。
「あー、俺も落ちた瞬間は見てないんだけどさ。生徒会室に顔出して、すぐに走り去っていったんだ」
「生徒会室で、ロゼは何を見て動揺したんだ?」
勘のいいルシアンは状況を察したのだろう。
「私と聖女殿との仲を勘違いした可能性が高い。でも誓って聖女殿とは何もないよ」
「二人っきりじゃなかったぜ、俺もその場に居たし。確かにデイジーちゃんの距離感はおかしいけどさ。こいつはロゼちゃん一筋だから信じてやってくれねえか、ルシアン」
ルシアンがアメジストの瞳から鋭い光を放つ。
「⋯⋯フェリクス。君が聖女を無碍に出来ない事情もあるんだろうけど。でも勘違いさせる君が悪いよ。次に何かあれば、アメティスト公爵家が本気出して婚約潰すから」
私はルシアンを真っ直ぐに見据えた。
「確かに誤解させるような行いをした私が悪かった。今後はロゼを傷つけないと約束する」
「俺もそうならないようフォローするぜ!」
緊迫した空気をわざとぶち壊すかのように、アルフが私とルシアンの肩をバンバン叩いてくる。
ルシアンは大きく溜息をつくと、胸元から何かを取り出した。それを私の目の前でヒラヒラと振る。
「ロゼから君宛ての手紙を預かっていたんだ」
「そういうことは早く言ってくれるかな!」
「言おうとしたら、アルフが絡んでくるからさ」
「なんで俺のせいなんだよ」
私はルシアンからもぎ取った手紙を、その場で開封した。
見舞いの品に対するお礼、心配をかけた詫び、体に問題はないこと、そして見舞いの訪問の辞退が記されていた。
体に問題がないとの一文に、思わず安堵の溜息が漏れる。今すぐにでもロゼに会いたいと思った。
だが最後に会ったときの、ロゼの泣きそうな顔が頭をよぎる。もし誤解してるのならきちんと説明したいが、手紙には私の訪問を辞する言葉が綴ってある。
もしかして、私の顔が見たくないのか? 胸のあたりが重たくなる。
ルシアンがソファの肘掛けに腕を預けながら言った。
「今度フォルトア聖国の訪問があるでしょ、その歓迎レセプションの件。ロゼのドレスが聖国から贈られてくる予定だから。一応報告しとく。フェリクスまだロゼに贈ってなかったよね」
「⋯⋯ああわかった。まだ贈ってなかったよ。準備はしたけど、タチアナ女史の所でチェックされて止められてる状態だから」
「なんでフォルトア聖国がフェリクスの婚約者にドレス贈ってくるんだよ?」
アルフが不思議そうに首を傾げる。
「私達の母親がフォルトア聖国王の妹だったからね。今回、国王の代理で来るミハイル王太子殿下が可愛い従姉妹にプレゼントしたいってさ」
「あーそうだったな! そういやお前の母ちゃん、聖国出身だったな」
「フォルトア聖国の元王女を『お前の母ちゃん』呼ばわりか⋯⋯君の言葉使い、正式な近衛騎士になる前に矯正してもらっておいで。スパルタな教育係を手配しておくから」
「ルシアンってほんっとーに俺に厳しいよな! こいつを止めてくれよ、なあフェリクス!」
アルフが助けを求めてくるが、私はルシアンに同意する。
「アルフが名門イグニス侯爵家の嫡男だなんて、まさかと思うよね。君のお父上、騎士団長でこの国の英雄イグニス閣下は紳士の鏡のような立派な御仁なのにね」
「うるせ。親父は外面がいいだけだからな。俺もその気になれば外面くらい簡単に作れるし。そもそも俺がこうなったのは親父のせいだっつの。俺しばらく武者修行で傭兵ギルドにぶち込まれてたんだぞ。そんな所で『お母上』とか言ってたら、何気取ってやがるんだ貴族の坊ちゃんが、って馬鹿にされるんだよ。どっかの国の格言にもあるだろ、『郷に入っては郷に従え』って。従った結果こうなったわけ」
アルフが親指で自分を指してニカッと笑う。
「その理屈でいくと、今アルフは貴族社会という郷に入っている。言いたいことはわかるよね?」
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