上 下
2 / 27

2話「職場にエロを持ち込むな」

しおりを挟む
・登場人物

 園原 小雪そのはら こゆき:♀ 22歳。サンタクロース協会、日本支部で働くことになった新人。

 野薔薇 美礼のばら みれい:♀ 25歳。サンタクロース協会、日本支部で働く先輩。ナイスバディの美人さん。

 江野沢 淳太えのさわ じゅんた:♂ 29歳。サンタクロース協会、日本支部で働く先輩。バカその一。

 黒澤 義則くろさわ よしのり:♂ 26歳。サンタクロース協会、日本支部で働く先輩。バカその二。

 ジェイニー・ノリサワ:♂ 28歳。サンタクロース協会、日本支部で働く先輩。バカその三。

 柳 薫やなぎ かおる:♂ 33歳。サンタクロース協会、日本支部で働く先輩。妻子持ち。


*度々登場する[サンタクロース!]は、場面の転換合図だと思ってください。



ーーーーー



野薔薇(M)「サンタの仕事は春から始まる」前回のあらすじ。


園原「はいはーい! 皆さんこんにちは! 私、園原 小雪22歳でっす! 覚えてるかな? 覚えてるよね!」

園原「私、園原 小雪はサンタクロース協会の日本支部へ就職しました! 今日から私の素敵なサンタクロース生活が始まるのかと思いきや...!!」

ヤギ「ウメェ~!」

園原「突然現れたヤギに、入所案内を食べられるアクシデント発生!! このまま集合場所に間に合わず、初日を遅刻という最悪の形で迎えるのかと思いきや!!」

野薔薇「こんにちは。」

園原「ナイスバディな優しいお姉さんが現れて、無事に集合場所にたどり着けました!!」

園原「この扉を開けば、私の社会人生活が...サンタクロース生活が始まるんだ...! そう思い、ドキドキしながら扉を開けたら...そこにいたのは...!!」


 扉を開けた先には、超が付くほどの美男子たちが園原を出迎える。三人の美しい存在感を後押しするかのように、背後には薔薇や星が輝いて見える。


江野沢「ん? やぁ、はじめまして。君は?」

黒澤「もしかして、新人の子かな? こんにちは。」

ジェイニー「これから、僕たちと一緒に頑張ろうね!」

園原「ちょっと待てやぁぁぁ!! どうした、お前たち!? 無駄にキラキラ輝いてるけど、何してんの!? 今更キャラ変したって遅いんだよ!!」

黒澤「黒澤 義則、趣味は乗馬です。」

園原「AV鑑賞だろうが!!」

江野沢「江野沢 淳太、29歳。特技は料理です。よろしく。」

園原「女子受け狙ってんじゃねぇよ! この乳首当て男が!!」

ジェイニー「ジェイニー・ノリサワです。好きな日本語は女子高校生です。よろしく。」

園原「好きなもんはブレてないけど、キャラがブレブレだよ!! 日本語ペラペラじゃねぇか、おい!!」

柳「こんな感じで、今回も始めていくぞー。」

園原「こんな感じで始めたくなぁぁぁい!!」





 サンタクロース協会日本支部、江野沢チームのオフィス。早めに職場へとやってきている男三男組は椅子に座り、黒澤は本を、江野沢とジェイニーはスマホを眺め、のんびりと過ごしている。


園原「おはようございまーす。」

江野沢「おう、おはよ。」

黒澤「はよー。」

ジェイニー「おはようゴザイマース!」

園原「よかった。今日はAV見てないんですね。」

江野沢「毎日毎日見るわけないだろ。」

園原「そうですよね、疑ってすみません。ところで、何見てるんですか?」


 園原は黒澤の背後から、手元で広げられている本を覗き込む。開かれたページには、全裸の女性が写っている。


園原「...なんですか、これは?」

黒澤「見ればわかるだろ、えっちな本だ。」

江野沢「動画もいいけど、本も読みたくなるんだよなぁ。」

黒澤「気持ち、とてもわかります。」

ジェイニー「二次元ノ時ト、三次元ノ時モありますヨネ~。」

江野沢「わかるわかる。」

園原「すいません。これ、貸していただけますか?」

黒澤「いいぞ。俺の宝物だから、丁重に扱えーーー」

園原「ふんぬぅぅっ!!」

黒澤「よぉぉぁぁぁあああ!?!?」

江野沢「おい、マジかよ...! あいつ、手で引き裂いたぞ...。」

ジェイニー「これカラハ、剛腕ト呼びまショウ...。」

園原「職場に変なもの持ってこないでください。」

黒澤「お、おまっ...おまぁぁぁ!! あぁぁぁぁ!?!? なに、これ!? 乳首とか大事な部分が、どのページも綺麗に切り裂かれてなくなってる!?!? お前すげぇよ!! エロキラーだよ、こんちくしょうが!! 俺のお宝がぁぁぁぁ!!!」

江野沢「こういうことがあるかもしれないから、電子版にしとけって言ったじゃねぇか。電子なら破られる心配はない!」

ジェイニー「安心安全デースッ!」

園原「すいません、スマホ貸してください。」

江野沢「ん? いいけど、なにすんの?」

園原「まず、窓を開けます。」

江野沢「はいはい、それで?」

園原「力任せに、ぶん投げまぁぁぁぁす!!」

江野沢「嘘だろ、おいぃぃぃぃぃ!!」

黒澤「おぉ...女子とは思えない飛距離...。」

ジェイニー「さすが剛腕デース...。」

江野沢「おまぁぁぁ!! なにしてくれてんの!? バカなの!? バカだろ!!」

園原「バカはあんたですよ。」

黒澤「江野沢さん、安心してください。敷地内に落ちましたから。」

ジェイニー「今カラ取りにイケバ、安心安全デースッ!」

江野沢「そ、そうだな! とってくーーー」

ヤギ「メェ~。」

江野沢「ん?」


 窓から顔を出し、スマホの落下地点を眺めると、そこには艶々毛並みのヤギがおり、ジッとスマホを見つめている。


ヤギ「メェ~。」


 ヤギは何一つ表情を変えずにスマホをパクリと咥え、草を食すかのようにバリバリと激しく音をたてながら食し始める。


江野沢「えぇぇぇ!? 嘘でしょぉぉぉぉ!?」

黒澤「マジかよ...。」

ジェイニー「ヤギっテ、電子機器ヲ食べるンデスネェ...。」

園原「ジェイニーあなたは、なにも持ってないですよね?」

ジェイニー「Me? ハッハッハッ! 持ってるわけナイジャないデスカ!! ここハ職場でスヨ? そんなソンナーーー」

江野沢「ジェイニー、この本読んでもいいかぁ~?」

ジェイニー「ン? ノォォ!? オーマイガー! 何してるンデスカ、江野沢サーーンッ!!」

園原「それ、貸してください。」

江野沢「あいよ。」

ジェイニー「ノォォォォォ!!!」


 江野沢が手にしていた本を受け取り、園原は表紙をマジマジと見つめる。
「女子高校生と、イケナイコト♡」と書かれた表紙には、制服のスカートをたくし上げ、小さな四角いを咥えた可愛らしい女の子のイラストが描かれている。


園原「なんですか、これは?」

ジェイニー「それハ、同人作家「ペロペロ先生」ノ最新作ッ!「女子高校生ト、イケナイコト♡」デースッ!! ペロペロ先生ノ描く女子高校生ハ、とてもトテモ可愛くテーーー」

園原「ライター、持ってますか?」

ジェイニー「持ってますヨ。どうゾ。ライターで、何するんデスカ?」


 園原はライターを受け取るや否や、なんの躊躇いもなく火をつけ、本に近づける。


ジェイニー「ノォォォ!?!? 何で無言デ本を燃やしてルンデスカ!? アァァ!? あっつ!? あっっつぅ!? 水ヲ! 水ヲくだサァァイ!!」


 江野沢と黒澤は水の入ったペットボトルのキャップを外すと、ジェイニーに渡すことなく目の前で口をつけ、腰に手を当て、大きく喉を鳴らしながら飲み始める。


江野沢「...ぷはぁ! うめぇ! こういう時に飲む水って最高にうめぇ!」

黒澤「てめぇも俺たちと同じ気持ちを味わえ。あぁ~うめぇ!」

ジェイニー「てめェラ後デ覚えテロヨ!! あっつぅ!? アァァァ!! ペロペロ先生ノ! 神ノ作品ガァァ!!!」

園原「ったく、このクソ野郎どもが。職場に変なものを持ってこないでください。」

江野沢「変なものだと!?」

黒澤「俺たちは職場に変なものなど何一つ持ち込んじゃいないぞ!」

園原「職場にエロを持ち込むな!!」

園原「はぁ...こんな人たちとこの先一緒に仕事だなんて...。転職を考えなけれ...ん?」


 自分の机に荷物を置いた園原の視線に、一枚の小さな紙が映り込む。


野薔薇「小雪ちゃんへ。引き出しの中に私からのプレゼントが入っています。仕事終わりの疲れた身体を癒せる物なので、よかったら使ってみてください。野薔薇より。」

園原「プレゼント? なんだろう? 癒せるものってーーー」


 引き出しを開け、中に入っていたものを手に取る。360度、どっからどう見ても[大人のおもちゃのため、詳細は控えさせていただきます。申し訳ございません。]


園原「~~~~!?!?!?!?」

江野沢「おい新人、職場にエロを持ち込むなって言ったの...誰だったかな?」

園原「ちょっ!! 待って!! 違う!!」

黒澤「大人のおもちゃ持って違うとか言われてもなぁ~。」

園原「こ、これは違っ! 私のじゃないです!!」

江野沢「わかる、わかるぞお前の気持ち! 俺も初めて親にエロ本見つかった時、全力で否定してたからな。」

園原「一緒にしないでください!! これは野薔薇さんが!!」

黒澤「わかるぞ~! 俺も苦し紛れに「これは姉貴がぁぁ!」とか言っちゃったもんなぁ。」

園原「お前らと一緒にするなぁぁぁ!! こ、ここに証拠が! 手紙がーーー」

ヤギ「ウメェ~!」

園原「え? ぎゃぁぁぁ!?!? 貴様ぁぁ!! 一度ならず二度までもぉぉぉ!! 大事な証拠品を返せぇぇぇ!!」

ジェイニー「あたふタしてイル姿、新人らしクテ可愛いデスネ~!」

江野沢・黒澤「うんうん。」

園原「待てぇぇぇ!! 話を聞けぇぇぇ!!」

柳「おはよーさん。今日も元気に......。」

園原「はっ!?!?」

柳「...園原、お前はそっち側の人間じゃないって思ってたのに...。」

園原「話を聞いてくださいぃぃぃぃ!!」



黒澤[サンタクロース!]



 オフィス内に集まった六人は、長方形に並べられた机の前に座り、左端のみんなの顔がよく見えるように配置された机の前に座っている柳の顔を見つめている。
園原はただ一人見つめることなく、頭を抱えて項垂れている。


柳「さて、みんなそろったし...仕事始めるぞー。」

江野沢「うーす。」
黒澤「へーい。」
ジェイニー「イェース!」
野薔薇「はーい。」

園原「し、仕事を...仕事を始める前に...誤解を...私の誤解を...!!」

野薔薇「小雪ちゃん、どうしたの?」

園原「野薔薇さぁぁぁん! なんで私の引き出しにあんなもの入れたんですか!? なんでですか!?」

野薔薇「あんなもの? あぁ、あれね? 安心して、新品だから。」

園原「問題視してるのはそこじゃありませんよ!!」

野薔薇「あっ、もしかして使い方がわからなかったの? 安心して♡ 仕事が終わった後に、私が丁寧に手取り足取り教えて、あ・げ・ーーー」

園原「さぁ、今日も仕事を始めていきましょう!! 柳さん、今日は何するんですか!?」

柳「あーそうだ、仕事を始める前に...園原、お前ここにいるメンバーの名前を全員覚えたか? 少なくとも一年間はこの面子で仕事していくから、連携ちゃちゃっととれるように早めに覚えてくれよ。」

園原「安心してください、もう覚えてますから! 柳さん、野薔薇さん、あと乳首とAVと女子高校生ですよね?」

江野沢「ふぅ、よかったよかった。ちゃんと俺たちのこと覚えてたみたいだな。」

黒澤「忘れられてたらどうしようかと思ったぜ。」

ジェイニー「一安心デース!」

野薔薇「あんたたちはそれでいいの?」

柳「江野沢、黒澤、ジェイニー・ノリサワだ。ちゃんと覚えてやれ。ちなみに、バカサワって呼ぶと全員反応するから、同時に呼びたい時あったら試してみろ。」

園原「バカを同時に呼ぶ時なんてないですよ。」

江野沢「おい、失礼なこと言うな。」

黒澤「つーか、バカって呼ばれて反応するわけないだろ。」

ジェイニー「私たちハ、バカじゃアリマセンからネ! ハッハッハッ!」

野薔薇「あのーバカサワさーん!」

江野沢「なんだ?」

黒澤「どうした?」

ジェイニー「なんデスカ?」

園原「全員反応してんじゃねぇか!!」



江野沢・黒澤・ジェイニー[サンタクロース!]



柳「今回は、素行調査そこうちょうさの担当を決めてくぞー。」

園原「素行調査?」

柳「ちゃんと説明するから安心しろ。園原、サンタクロースからプレゼントをもらえる子どもってどんな子だ?」

園原「えっと、良い子にしてた子ども?」

柳「そう。一年間良い子にしてた子たちに、俺たちサンタはプレゼントを渡す。悪い子にはプレゼントを渡さん。」

園原「つまり、良い子か悪い子かを調査して、プレゼントを与える子どもたちを私たちが決めるってことですか?」

柳「そういうことだ。俺たちのチームが担当する地区が決まったから、今日は誰がどこの子どもたちを調査するか決めていく。」

園原「わかりました。」

柳「まぁ、その前にだ...S級の子どもの割り振りすんぞー。」

園原「S級? なんですか、それ?」

野薔薇「わかりやすく言うと、ブラックリストに乗ってる子たちよ。」

園原「うわぁ...それは担当したくない...。」

柳「今年はS級少ないから安心しろー。」

江野沢「よっし!」

黒澤「いや、まだ喜べない...! 担当を外れてから喜びを爆発させるんだ...!」

ジェイニー「私ハ絶対ニ担当しまセーン!」

柳「えっと、まずはだなぁ...。」


女子「はぁ? サンタクロースなんているわけねぇだろ。あんた、まだそんなの信じてんの? まじウケるんだけど。」


柳「って、言ってるーーー」

江野沢「そんなやつ調査するまでもねぇよ!! プレゼント無しだ無し!!」

黒澤「俺たちの存在を否定してるやつに、夢もプレゼントも与えてたまるか、ボケが!!」

ジェイニー「日本人らしク、腹切りデーースッ!!」

柳「最後までちゃんと聞け。」


女子「はぁ? サンタクロースなんているわけねぇだろ。あんた、まだそんなの信じてんの? まじウケるんだけど。」


柳「って、言ってるけど...。」


女子「へへへ! 今年はサンタさんくるかなぁ~?」


柳「ってな感じで、クリスマス当日ワクワクしながら靴下用意しちゃってるJK。」

江野沢「調査するまでもねぇ!! その子にプレゼントを与えるんだぁぁぁ!!」

黒澤「そんなツンデレされたら、全サンタクロースはココロ奪われちゃいますよ!! むしろ癒しをプレゼントされちまったよ!! その子がサンタクロースだよ!!」

ジェイニー「芸者、フジヤマ、大和撫子じょしコーコーセー!! 日本最高デースッ!!」

柳「この子が純粋な子なのかどうか、調べてくれる人ー?」

江野沢「はーい! はいはーーい!!」
黒澤「調べます!! 全力で調べまーーす!!」
ジェイニー「女子高校生ハ私ノものデーースッ!!」

園原「うるさっ。」

野薔薇「男ってバカばっかりね。」

江野沢「最初は、グー!」

黒澤「じゃん、けんっ!」

ジェイニー「ヘイッ!!」


 パー、パー、チョキ。
勝者、ジェイニー・ノリサワ。


江野沢「なんでだぁぁぁ!?!?」

黒澤「神のばかやろぉぉぉ!!」

ジェイニー「神ヨ!! 今日ほどアナタニ感謝すル日ハありまセーン! サンキューサンキュー!!」

園原「あんなのと一緒の職場って思うと、しんどいですね。」

野薔薇「ホントね。」

柳「次は、7歳の男の子ーーー」

園原「はいはいはいはーーーい!! 私やります!! やらせてください!! どんな困難にもくじけずに仕事を最後までやりとげまーーーーす!!」

野薔薇「小雪ちゃーん、あなたも人のこと言えないよー。」



江野沢[サンタクロース!]



柳「さて、次は動画を見るぞー。」

園原「動画ですか?」

野薔薇「素行調査がどれだけ大切なものかを、動画で確認するのよ。」

園原「へぇー。」


 柳は手にしていたリモコンのボタンを押す。背後の天井から、大きなスクリーンがゆっくりゆっくりと降りてくる。


園原「おぉ! スクリーンでかっ! あんなにデカいとテンション上がりますね!」

野薔薇「うふふ、小雪ちゃんって一つ一つの反応がとっても可愛いわね~! 食べちゃいたい♡ ねぇ、今晩空いてる?」

園原「申し訳ありませんが、今日も明日も明後日も空いてません。」

野薔薇「じゃあ、一週間後ね♡」

園原「一週間後も空いてません!!」

柳「おい、私語はつつしめ。素行調査をおろそかにするとどれだけ危険か、よーくわかる動画だ。園原、しっかり見ておけよー。」

園原「はーい。」

柳「ポチッとな。」


 「あんっ♡ せ、先生ったら...ここは教室ですよ...♡」


柳「...え?」


 再生ボタンを押しスクリーンに背を向けた柳は、聞こえるはずのない音声を耳にし、慌ててスクリーンへと視線を向ける。映し出されていたのは、学校の教室らしき場所で制服を着た女性がシャツのボタンを開け、下着があらわになった状態で椅子に腰掛けている。


 「もぉ、エッチなんですから...♡ 気づかれないように静かにしてください、ね♡」


江野沢「おぉ、やっぱデカい画面でAV見るのはいいなぁ...!」

黒澤「興奮度が増しますねぇ...!」

ジェイニー「最高デーースッ...!」

柳「な、なんだこりゃ!? いつのまにーーー」

園原「柳さん。」

柳「はっ!?」

園原「あなたは大丈夫な人だと思ってたんですけど...そっち側だったんですね。」

柳「ちがぁぁぁう!! 俺じゃなぁぁぁい!!」


野薔薇(M)犯人は、バカサワでした。



柳[サンタクロース!]



 ジェイニー・ノリサワは床に膝をつき、頭を抱えて悲しんでいる。彼の目の前には、AVのディスクとパッケージが、まるでふりかけのように粉々の塵と化してしまっている。


ジェイニー「ナンデ...何でこんナコトニ...? 私ノAVガ、粉々ノ木っ端微塵デース...。」

柳「これから職場でAVを発見次第、園原に粉砕してもらう。」

園原「よろしくお願いしまーす☆」

柳「あれ以外、ないだろうな?」

江野沢「そんなそんな! 職場にAVなんて持ってくるわけないじゃないですか~!」

黒澤「仕事する場所ですよ!? そんなバカはいませんって!!」

野薔薇「それでは、荷物検査しまーす。」

黒澤「え?」

野薔薇「まずは、黒澤さんの鞄からーーー」

黒澤「ちょぉぉぉい!! 待て待て待て待て!!」

野薔薇「あら? やだ♡ なに、このエッチなパッケージ♡」

園原「貸してください。」

黒澤「待てぇぇぇい!! 落ち着け!! それは、パッケージはちょっとエッチかもしれないが、中身は「俺様の夏休み!」っていう、大自然を駆け巡るほのぼのゲームなんだ!!」

江野沢「確かそれ、大自然でイチャイチャほのぼのとするやつだったよな。間違ってはないな。」

黒澤「ちがぁぁぁう!! てめぇ、覚えてろよ、こんちくしょうが!!」

園原「えーい☆」


 ニコニコしながら、園原は膝を上手く使いAVのパッケージを叩き折る。


黒澤「あぁぁぁ!?!? 俺のお宝がぁぁぁぁ!!」

江野沢「ふっ、バカめが! お宝ならもっと安全な場所にしまっておけ。」

野薔薇「あらー? 江野沢さんの机の引き出し、一箇所鍵がかけてあって開かなーい。」

江野沢「ちょいちょいちょい!! なにしてんの!? なに勝手に机漁ってんの!?」

園原「あー! もしかして、鍵がかかってるところに隠してるのかなー?」

江野沢「ふっ...もしそうだとしても、鍵がなきゃなんもできねぇだろ? さぁ、さっさと仕事しよう。」

園原「よーし☆ 小雪、頑張っちゃうぞ~☆」

江野沢「え? ちょっ、なにする気?」


 園原はグルグルと肩を回し温める。温めた右腕で鍵のかかった取手を掴むと、一度大きく息を吐き出し、呼吸を整える。


園原「せーー...のっと!!」

江野沢「開いたぁぁぁ!?!? 嘘だろぉぉぉ!?!?」

園原「うわー、エッチな物がいっぱいだー。」

江野沢「待て待て待て! それは俺のじゃなくて、友達のなんだよ!! 一時的に隠してくれって頼まれてよ!! ほんと、どうしようもないやつだよなぁ~!」

園原「野薔薇さーん、火炎放射器をお願いしまーす☆」

野薔薇「はーい♡」

江野沢「火炎放射器!? なに考えてんの!? 塵も残さない気!? そんな悪いことした!? 落ち着けよ!! 落ち着けってーーー」

園原「3.2.1...ファイヤー☆」

江野沢「あっっつぁぁぁ!?!?」


野薔薇(M)職場のAVは、全て無くなりました。



園原[サンタクロース!]



 バカサワは床に膝をついて、悲しみに暮れている。


柳「えー、改めまして...動画見るぞ。」

黒澤「俺の...俺のお宝が...。」

ジェイニー「粉々ノ...木っ端微塵デース....オーマイガー...。」

柳「お前ら、さっさと席につけ。」

江野沢「すいませーん! 俺の席、AVとともに焼失したんですけど! どこに座ればいいんですか!?」

柳「自業自得だ。地べたに座ってろ。」

園原「柳さん、早く見ましょうよ。」

柳「そうだな、バカサワは放っとくか。今度は大丈夫だ、しっかり見とけよー。」

園原「はーい。」

柳「ポチッとな。」


 真っ暗い画面から、少しずつ赤い文字が浮かび上がってくる。
「この動画は、ショッキングなシーンがあります。心臓が弱い方は見ないでください。」


園原「...柳さん、これ間違ってませんか?」

柳「あってるから、安心しろ。」

園原「ショッキングなシーンがって書いてましたよ? なにが起こるんですか? バイオなハザードを今から見るんですか? え? ん?」





 赤い字が消えていき、少しずつ画面が明るくなっていく。映し出されたのは、小さなモニターが沢山壁につけられている一室。監視部屋のような雰囲気が漂う一室には、サンタクロースの衣装を着た男性が一人、椅子に腰を落とし、ジッとモニターを見つめている。


サンタ1「ふぅ...もう少しで仕事が終わるな。」

サンタ2「よぉ。」


 声がした方向へと目を向ける。そこには少し大きめの紙袋を携えたサンタクロースが、入り口に立っている。


サンタ1「おぉ! どうしたんだ、こんな時間に?」

サンタ2「仕事はどうだ?」

サンタ1「もう少しで終わりさ。」

サンタ2「そうか。今年も、長かったなぁ。」

サンタ1「そうだなぁ。それで、お前はなにしにここにきたんだ? また嫁の自慢か?」

サンタ2「おっ、それもいいな。今日もたっぷり聴かせてやるよ。」

サンタ1「おいおい、やめてくれよ。幸せは俺じゃなくて子どもたちに配ってくれ。」

サンタ2「ホッホッホォ~! サンタジョークはまだキレキレだな。」

サンタ1「んで、ほんとなにしにきたんだよ?」

サンタ2「今年も、もう終わりだろ? 少し早いが...。」


 ガサガサと紙袋を開ける。中からワインボトルが一本、ひょっこりと顔を出す。


サンタ2「お疲れの乾杯をしようと思ってな。」

サンタ1「おいおい、職場でワインとか...最高じゃねぇか。」

サンタ2「お前ならそう言うと思ったぜ。」


 サンタ2はニッと笑いながら、またガサゴソと紙袋を漁り、丁寧に包装されたワイングラスを二つ取り出す。


サンタ3「こちらA地区! 本部、応答願います!」

サンタ1「こちら本部、どうした?」

サンタ3「A地区、無事プレゼントを配り終えました!」

サンタ1「了解。仕事ご苦労。」

サンタ2「これを聴くと、もう終わりなんだなぁって思うよ。」

サンタ1「今年も頑張ったって証拠さ。」

サンタ2「だな。さて、乾杯するか。」

サンタ1「だな。」

サンタ4「こちらC地区! 本部!! 応答願います!!」

サンタ1「こちら本部、どうした?」

サンタ4「寝ていたはずの子ども達が、寝ていませんでした! 起きています!! 起きてサンタを...や、やめろ!! うわぁぁぁぁ!?!?」

サンタ1「おい、どうした!? 応答しろ!! おい!!」

サンタ2「な、なにが起こったんだ!?」

サンタ5「こちらE地区!! 本部、応答願います!!」

サンタ1「どうした!?」

サンタ5「異常事態発生です! こちらは、五軒連続で子どもがベッドにいませんでした!! もしかしたら、数人でなにか企んで...きゃぁぁぁ!?!?」

サンタ1「おい!! どうした!? おい!!」

サンタ2「これはどうなってる!? あの地域の子の素行調査はA判定のはず! 一体なにが!? あの地域の素行調査を行った者は!?」

サンタ1「...レイン・J・アルフレドだ。」

サンタ2「レインは今どこにいる!?」

サンタ1「やつは今、A地区でプレゼントを配っている...。」

サンタ2「A地区だと!? A地区は先程配り終えたと連絡が...!! ま、まさか、あいつ!!」

サンタ1「...武闘派サンタに連絡を!!」

サンタ2「な、なに!? 本気か!?」

サンタ1「急げ!! このままだと、子どもたちと我々の夢がなくなっちまうぞ!!」






園原「あ、あの...。」

柳「素行調査をしっかり行わないと、こうなるから。」

園原「ちなみにこれ、あと何分あるんですか?」

柳「全部で125分だ。」

園原「なっが!!」


園原(M)ちなみに、サンタに悪いことをした子供たちは、武闘派サンタと呼ばれる者たちに、サンタクロースという存在を記憶から抹消されてしまうらしいです。

園原(M)たまにいる「サンタクロースなんているわけねぇだろ!」って言ってる子どもは、武闘派サンタにサンタクロースの存在を記憶から消された子達らしいです。そりゃいないって言っちゃうね! 記憶から消されてるんだもん!! みんなも気をつけてね!!
しおりを挟む

処理中です...