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3話「心の声は心の中で」

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・登場人物

 園原 小雪そのはら こゆき:♀ 22歳。サンタクロース協会、日本支部で働くことになった新人。

 江野沢 淳太えのさわ じゅんた:♂ 29歳。サンタクロース協会、日本支部で働く先輩。バカその一。

 黒澤 義則くろさわ よしのり:♂ 26歳。サンタクロース協会、日本支部で働く先輩。バカその二。

 ジェイニー・ノリサワ:♂ 28歳。サンタクロース協会、日本支部で働く先輩。バカその三。

 菊竹 旬きくたけ しゅん:♂ 10歳。とある理由でサンタクロース協会、日本支部で働いてる子。


*度々登場する[サンタクロース!]は、場面の転換合図だと思ってください。



ーーーーー



 日本支部の研究室。中では園原が段ボールを抱えながら、机の前へと歩いていく。


園原「菊竹くーん! 段ボールは机の下に置いておけばいい?」

菊竹「はい、そこで大丈夫です。」

園原「よいしょっと。ふぅ、働いた働いた。」

菊竹「ありがとうございます、園原さん。急でしたのに手伝っていただいて。」

園原「いやいや気にしないでよ! 菊竹くんの力になれてよかったよ!!」

園原(重い荷物を頑張って運ぼうとしてる菊竹くんが見れて、むしろ私がありがとうございますだよぉぉ~!)


 園原の脳内では、先ほどの段ボールを運ぼうと必死に力を入れている菊竹の姿がリピートされている。段ボールは子どもの菊竹には重すぎるのか、数センチ地面から浮く程度にしか持ち上がっていない。


菊竹「ふぬぬぬ!? むむむむ!! んがぁぁぁ!!」



園原(うへへ~~! 今思い返しても可愛いオブ可愛い!!)

菊竹「園原さん、どうしました?」

園原「ん? あ、いやいやいや! なんでもないよ気にしないで!! じゃあ、私は仕事に戻るね!!」

菊竹「はい、わかりました。手伝っていただきありがとうございました。」

園原「いえいえ! 私でよければまた手伝うからね!」

菊竹「あっ、それとですね...そ、園原さん。」

園原「はい?」


 菊竹の呼びかけに、振り返る園原。菊竹は少し顔を赤くしながらも、一つ大きな咳払いをすると、胸を張り一生懸命に語り始める。


菊竹「僕は園原さんよりも年下ですけど、働いている年数は上なので、僕のことは先輩と呼んで、しっかりと敬語でお願いします! 周りにもちゃんと先輩後輩という関係を見せなければいけませんから!」

園原(ひぇぇぇ!! なにそれ、可愛いイン可愛いぃぃぃぃ!! 可愛いの中に可愛いが詰まってるぅぅぅ!!!)

園原「わ、わかりました!! これからもよろしくお願いします! 菊竹先輩!!」


 菊竹は先輩と呼ばれ、嬉しさのあまり頬を緩ませる。が、ハッと我にかえり大きく一つ咳払いをすると、今度は堂々とキリッとした態度で後輩へと語りかける。


菊竹「ふふんっ! わかればいいんです! これからもしっかり働いてくださいね!!」

園原(あぁぁぁ!? 先輩って呼ばれてすごく嬉しそう!! なにこれ、すごく可愛い!! 可愛すぎて可愛い!! 可愛いに押しつぶされる!! あぁぁぁ、口から可愛いしかでてこない! 可愛いという感情しか生まれない!! 可愛い製造機になります!!)

園原(いやーこんな可愛い子がいる職場で働けるなんて、私は幸せ者だなぁ~! 最高だよ~~!! 菊竹先輩バリバリのパリパリに可愛いよ~!! あ~~かわいいかわいい~~可愛すぎてあれだよ~~!)

園原「あ~~菊竹先輩をペロペロ舐め回した~い♡」

菊竹「...え?」

園原「ん?」


江野沢(M)心の声は、口から出ないようにしっかりと管理しておきましょう。






 日本支部、オフィス内。江野沢とジェイニーは自分の席に座り、カタカタと目の前のパソコンを駆使して珍しくきちんと仕事をしている。園原は自分の席で、机と同化しそうな勢いで突っ伏し真っ白な灰へとなれ果てようとしている。


黒澤「黒澤 義則、戻りましたー。」

江野沢「おう、お疲れー。」

ジェイニー「お疲れ様デースッ!」

園原「......。」

黒澤「ん? どうした園原? 真っ白に燃え尽きてんじゃねぇか。なんかあったのか?」

園原「......。」

黒澤「あのー、こいつになんかあったんすか?」

江野沢「俺たちにもよくわからん。」

ジェイニー「ここニ戻ってきたト思っタラ、そんな感じニなって動かなくナリマシタ。」

黒澤「おーい、園原ー? 生きてるかー?」

園原「......。」

黒澤「ダメだ、全く反応しない。」

江野沢「いくら声かけようが動かんから、諦めろ。...ん? 園原が動かないってことは、つまり...!?」

ジェイニー「AVヲ職場デ見るコトガできマース!」

黒澤「俺、さっきここ戻ってくる時に、三蜜さんみつちゃんの新作買ってきたんですよね~!」

江野沢「黒澤ぁ! お前は仕事のできる人間だなぁ!!」

園原「てめぇら、聞こえてねぇと思ってんのか?」



菊竹[サンタクロース!]



江野沢「おいおい、菊竹にそんなこと言ったのかよ、お前...。」

ジェイニー「距離ヲ置かれテ当然デスネェ...。」

園原「どうしたらいいですかね...? 私、泣きたい...。」

黒澤「泣きたいのは俺なんだけど...いや、もう泣いてるよ俺は...。せっかく買った三蜜ちゃんの...三蜜ちゃん...!」

江野沢「まぁまぁ黒澤、よく考えてみろよ?」

ジェイニー「モウ一度AVヲ買うというコトハつまり、三蜜ちゃんノ売り上げニ貢献スルトいうことデース!」

江野沢「お前のおかげで、三蜜ちゃんの新しいAVが作られるんだ。いいことじゃねぇか。」

黒澤「江野沢さん...ジェイニー...!!」

園原「てめぇら!! なんでそっちを慰めてんだよ!? 普通はこっちだろ、おい!!」

江野沢「いや、だってねぇ...?」

ジェイニー「私たちニどうしロト?」

園原「一緒に考えてくださいよ! このままだと、私がこの職場にいる意味をなくして退職しますよ!! いいんですか!? 負担が増えますよ!?!?」

江野沢「負担は増えるが、AVを堂々と見られるようになるな。」

黒澤「ホワイトな職場に戻るってことか!?」

ジェイニー「最高デェス!!」

園原「時々遊びに来るので、よろしくお願いします☆」

黒澤「くそが! これ以上俺たちの宝を壊されてたまるか!!」

江野沢「ったく...黒澤、ジェイニー。」

ジェイニー「やれやれデース。」

黒澤「仕方ねぇな、今回だけだぞ。」

園原「うぅ...ありがとうございます、バカサワさん...!!」

江野沢「言われてるぞ、黒澤。」

黒澤「いや、ノリサワでしょ?」

ジェイニー「江野沢さんデスヨ。」

園原「お前ら三人だよ! バカどもが!!」

江野沢「おい、助けてやんねぇぞ?」

園原「申し訳ございません。私に力をお貸しください。」

江野沢「手のかかる後輩だぜ。おい、いくぞお前ら。可愛い後輩のために...!」


 バカサワは、シャツのボタンを上からゆっくり一個ずつ外していく。


江野沢「先輩たちが...一肌脱ぐぞ...。」

黒澤「仕方ねぇ...。」

ジェイニー「やれやれ...デース...。」

園原「おいぃぃぃぃ!! 服を脱ぐな!! 服は脱がなくていいんだよ、バカサワがぁぁ!!」



江野沢[サンタクロース!]



 日本支部、研究室。菊竹は自分の席に座り、難しい顔をしながらパソコンと睨めっこしている。


菊竹「うーん...むむむ...。」

黒澤「おーい、菊竹ー。」

菊竹「ん? あ、黒澤さん。お疲れ様です。」


 研究室の入口から、園原たちはひょこりと顔をだし、黒澤を見守っている。


園原「あの、大丈夫ですよね? 信じていいんですよね?」

江野沢「大丈夫だ。黒澤はあぁ見えてできる男だよ。」

ジェイニー「仕事ノできるイイ男デース!」

黒澤「聞いたぜ、園原といろいろあったんだってな。」

菊竹「ぎくっ!?」

江野沢「ストレートにいったな。」

ジェイニー「これカラどうするンでしョウネ?」

園原「い、今の菊竹くんの反応、見ました...!? か、か、かわ、かわいいぃ...!!」

江野沢「今の状況で、よくその反応ができるな?」

黒澤「園原にペロペロされたいって言われたらしいな?」

菊竹「な、な、なぜ、それを!? も、もしかして、園原さんが言いふらして...!? ひ、ひどい...!!」

園原「さぁて、一狩ひとかり行きますかぁ。」

江野沢「待て待て、落ち着けバカ!!」

ジェイニー「今ハじっと見てイマショウ!!」

園原「これ以上私の評価を下げられてたまるかぁぁぁ!!」

江野沢「黒澤を信じろ! 今は黒澤を信じるんだ!!」

黒澤「菊竹、なんで園原はお前にペロペロしたいとか言ったか...わかるか?」

菊竹「ぼ、僕のこと、食べるって意味じゃないんですか...? ペロペロ舐め回した後にガブっと...ひ、ひぃぃ!! こ、こ、怖いよぉぉぉ!!」

黒澤「ふっ...。菊竹、まだまだお前はお子ちゃまだな。お前に教えてやるよ、園原がペロペロしたいと言った本当の意味を...!」

菊竹「ほ、本当の...意味...?」

黒澤「知りたいか?」

菊竹「し、知りたいです!!」

黒澤「そうか...なら、AVを見るんだな。」

園原「......は?」

江野沢「落ち着け、園原。アニマルビデオかもしれないだろ?」

菊竹「え、えーぶい? えーぶいってなんですか?」

黒澤「はっはっはっ! AVって言葉もまだわかんねぇか! お兄さんが一からしっかり教えてやるよ。AVっていうのは、アダルーーー」

江野沢「黒澤、後ろ!!」

黒澤「ん? う、しろぉぉぉ...!?!?」


 江野沢の言葉に反応し、後ろを振り向こうと首を回しかけたその刹那、園原の腕が黒澤の首をがっちりと力強く捕らえる。


園原「てめぇ...なにしてんだ、ごら...?」

黒澤「そ、園原ぁ...!? は、はな...せぇ...!!」

園原「最後の言葉は、それでいいのか...?」

黒澤「菊竹が、AVにハマって職場で見るようになれば...てめぇも職場AVを認めるしかなくなる...! 俺たちの夢を、こんなところでーーー」

園原「黒澤さん...短い間でしたが、お世話になりました。」

黒澤「ぐげぇぇぇ!?!? がぁぁぁぁぁ!?!?」

ジェイニー「園原サァァン! ストップ!! ストッォォォプ!! このままデハ、黒澤さんガ死んでしまいマース!」

江野沢「菊竹がビビってるから! 怖がってるから!! もうやめてあげてぇぇ! 子どもに変なもの見せないでぇぇぇぇ!!」


園原(M)菊竹くんにはその後、アニマルビデオの略だと説明したので、皆さまご安心ください。



黒澤[サンタクロース!]



 日本支部の屋上。菊竹は一人ベンチに座り、菓子パンをモグモグと頬張っている。


ジェイニー「菊竹クーンッ! コンニチハ!」

菊竹「あっ、ジェイニーさん! こんにちは、お疲れ様です! あの、屋上に呼び出してどうしたんですか? なにかお話しですか?」


 園原たちは二人のやりとりを入口からひっそりと見守っている。


園原「あの、大丈夫ですよね? 信じていいんですよね?」

江野沢「あぁ。ジェイニーはあぁ見えて...日本語ペラペラだぞ。」

園原「んな情報いらねぇんだよ!!」

ジェイニー「私たちハ、仲間デス。なのデ、親睦ヲ深めヨウト思いまシテ! イチゴ牛乳ヲドウゾ!!」

菊竹「わぁ! イチゴ牛乳!! ありがとうございます!!」

黒澤「さすがジェイニーだ。距離の縮め方が上手い。これで菊竹が悩んでることをスッと引き出せるな。」

園原「イチゴ牛乳であんなに喜んで...! かわいいぃ...!! 明日、百パックプレゼントしにいきます...!」

江野沢「お前、その調子だと同じ過ちを繰り返すぞ。」

ジェイニー「菊竹クーン、聞きましタヨ。園原さんニ何か言われタそうデスネェ。」

菊竹「は、はい...。園原さんが僕のことをペロペロと舐め回したいと......あ、あぁ! た、た、たべ、食べられるぅぅ...!!」

ジェイニー「菊竹クーン、落ち着いてクダサイ。園原さんハ食べたいトイウ意味デ言ったノデハありまセンヨ。」

菊竹「え? そ、そうなんですか?」

ジェイニー「ハイ。ペロペロ舐めまわしタイトいうノハ、愛情表現ノ一つナノデース。」

菊竹「あ、愛情表現...? ほ、本当ですか...?」

ジェイニー「嘘ジャありまセンヨ。大人トイウ生き物ハ、好きニなるトペロペロ舐めまわしタクなるンデス。見ますか? 大人ガペロペロト身体ヲ舐めまわしてーーー」


 ジェイニーの腰あたりに、何者かの腕がベルトのようにがっちり固定される。そのままふわっと数センチ地面から浮かび上がる。


ジェイニー「オヤ? 身体ガ浮いてますネ? ナンデデスカ?」

園原「せーーーーのっと☆」


 掛け声と共に、美しくも力強いバックドロップが放たれる。ジェイニーは為す術なく、そのまま屋上から地面へと真っ逆さまに落ちていく。


江野沢「ジェイニィィィィ!?!?」


黒澤(M)その後、ペロペロ先生の本でなんとか蘇生できました。



ジェイニー[サンタクロース!]



 オフィスに戻ってきた園原は、自分の席で頭を抱え項垂れている。


園原「はぁ...もうダメだ...。あいつらに頼った私がバカだった...。退職届書こう...そして死のう...そうだ、地獄に行こう...。」

黒澤「退職届書く前に、謝ってくれない?」

ジェイニー「私、屋上カラ落とされタンデスケド?」

黒澤「俺なんて、AV壊されるし殺されかけるしで散々なんだけど? 地獄の閻魔様と挨拶しちゃったんだけど?」

ジェイニー「私なんテ、地獄ノ底ノ血の池デ、クロールしてきまシタヨ?」

園原「あぁ? 針の山の景色が見たいだって?」

黒澤「申し訳ございません! 神様仏様園原様!!」

ジェイニー「どうか神のお慈悲ヲ!!」

菊竹「あ、あの! 園原さん!!」

園原「え? んごぁぁ!? き、菊竹くん!?!? あ、いや、菊竹先輩!! ど、ど、どうなされましたのでしょうか!?」

菊竹「あ、あの...その...。」

園原(あぁぁぁぁ!! これ絶対あれだよ!! 死の宣告だよ!!「てめぇは今から地獄に落ちてもらうからな!!」って言われるやつだよ!! 嫌だぁぁぁぁ!! 菊竹くんに嫌われたくないぃぃぃぃ!!)

菊竹「こ、これ! 一緒にペロペロしましょう!!」

園原「...え? な、なに、これ? ペロペロキャンディ?」

菊竹「す、すみませんでした! 園原さん!!」

園原「えぇ!? な、なんで菊竹先輩が謝ってるんですか!? むしろ私が謝ることですよ!?」

菊竹「ぼ、僕、勘違いしちゃってて...本当にごめんなさい...。」

園原「え? か、勘違い?」

菊竹「はい...。江野沢さんから聞きました...。」





 屋上から研究室へと戻った菊竹は、パソコンとまた睨めっこをしている。


菊竹「むむむむ...うーん...。」

江野沢「菊竹。」

菊竹「あっ、江野沢さん、お疲れ様です。」

江野沢「調子はどうだ?」

菊竹「はい、なにも問題ありません。あっ、今新しい道具の試作品を作ってるんですけど、少し試してもらえませんか?」

江野沢「いいぞ。」

菊竹「ありがとうございます!」

江野沢「こっちこそ、いつもいつも使える道具ばかり開発してくれて、頭があがんねぇよ。」

菊竹「いえいえ、これが僕の仕事ですから!」

江野沢「そういや菊竹、新人の園原とは上手くいってるか?」

菊竹「ぎくっ!?」

江野沢「上手くいってないのか?」

菊竹「い、いや...その...。」

江野沢「どうした? なんかあったのか?」

菊竹「あ、い、いえ! なにもないです!! あ、あはははー!!」

江野沢「本当か? あっ、おい菊竹。」

菊竹「は、はい!? なんですか!?」

江野沢「お前、コピー百枚になってるぞ。」

菊竹「え? うわぁぁぁ!? す、すみませんすみません!! キャンセルキャンセルゥゥゥ!!」

江野沢「珍しいな、お前がミスなんて。」

菊竹「す、すみません...。」

江野沢「俺でよければ話聞くぞ? まぁ、無理には聞かねぇけどよ。」

菊竹「あ、ありがとうございます...で、では...。そ、園原さんがですね...僕のことを、た、た、たたた食べようと...ひ、ひぃぃ!! た、食べられるぅぅぅ!!」

江野沢「食べられる? なんでだ?」

菊竹「そ、園原さんが僕のことをペロペロ舐め回したいって! き、きっと、ペロペロ舐め回して味見した後に僕のこと...!!」

江野沢「菊竹、もしかしてそれ...これのことじゃね?」


 江野沢は手にしていた買い物袋から、棒キャンディを取り出して菊竹に見せつける。


菊竹「え? ペ、ペロペロキャンディ?」

江野沢「園原はお前と、ペロペロキャンディを舐め回したいって思ってたんじゃないか?」

菊竹「...え?」

江野沢「お前、勘違いしてるんじゃないのか?」

菊竹「そ、そんなことは!! 園原さんは、はっきりとペロペロしたいって...!!」

江野沢「園原はさ、ここに入社したばっかりで、右も左もわからない状態で緊張してるんだよ。お前も入社したばっかりの時、緊張して言い間違い多かっただろ?」

菊竹「うぅ...そ、それは...。」

江野沢「お前とは歳がだいぶ離れてるから、どうやって距離縮めていいか分からなくて、焦ってたんじゃねぇか?」

菊竹「そ、そうなんですかね...?」

江野沢「一緒にペロペロキャンディ舐めて仲良くなりたいって言おうとしたのを、緊張して言葉が変になっただけだよ。よく考えてみろ、園原が人を食う奴に見えるか?」

菊竹「み、見えません...。ってことは、僕の勘違い...ってことですか...?」

江野沢「そうだろうな。」

菊竹「あ、あ...! ど、どうしよう...!? 僕、あれから園原さんとすごく距離を置いてしまって...!!」

江野沢「園原、落ち込んでたぞ。」

菊竹「うわぁぁぁ!! ど、どうしようぅぅ!?」

江野沢「菊竹、お前は園原の先輩だろ? だったら、先輩から後輩に手を差し伸べてやれ。」

菊竹「で、でも...どうしたら...?」

江野沢「そんなの簡単さ。一緒に、ペロペロキャンディをペロペロしましょうって言えばいいのさ。」

江野沢「試作品の試しは、説明書見ながら俺がやっておくから。お前は早く落ち込んでる後輩を助けに行ってやれ。」

菊竹「は、はい!」


 菊竹は江野沢から棒キャンディを受け取ると、慌てて研究室を駆け出していく。


江野沢「やれやれ。うちの後輩は手のかかるやつばっかりだなぁ。」






 園原はスキップをしながら、上機嫌で廊下を歩いている。


園原「ふんふんふ~ん♪ 菊竹くんと仲直りできて、一緒にペロペロキャンディ舐め回して、そして写真まで撮れたし...! 今日は最高の一日だ!!」

園原「ってか、江野沢さんはどこにいるんだろ? お礼言いたいのに、一向にオフィスに帰ってくる気配ないし...。」

園原「...なんだかんだ、めちゃくちゃ頼りになる先輩だな。イメージがガラッと変わっちゃったよ。あっ、そうだ! 休憩室にいないかな~?」


 園原は休憩室の扉を開ける。部屋の端には江野沢らしき男がイヤホンをした状態で背を向けて座っている。


園原「おっ! あの後ろ姿は...! 江野沢さーーー」


 スキップしながら江野沢へと近づく園原。その視界に映り込んだのは、スマホでエッチな動画を視聴し、釘付けになっているバカの姿。


江野沢「おっふぉぉ! きたきたぁぁ! いいねいいねぇ~!! やっぱり職場でAVを見るのは最高だなぁ~! こう、みんなが仕事してるのに...って思うと、さらに興奮が増す!! おぉ...いいねぇ...! ぐふふふ~...!」


 お楽しみのところを何者かの手によって、イヤホンを耳から力づくで外される。


江野沢「あだっ!? おい、誰だ!? 俺様の至福の時間をーーー」

園原「......。」

江野沢「げっ!? そ、そそそ園原じゃねぇか!! ど、どうした!? お前も休憩か!? お、俺は、今仕事のことでなぁーーー」

園原「江野沢さん、心の声...だだ漏れでしたよ。」

江野沢「ま、待て! 待ってくれ!! これには深いわけが...!! あ、あぁぁぁ!?!?」


黒澤(M)上昇したと思われた江野沢さんの株は、一気に下落したのであった。
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