なんでも探偵部!

きとまるまる

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8話「かわいいお花はトゲだらけ③」

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 時刻は19時を過ぎ、辺りは暗闇に染まっている。部活を終えた新沼は、街灯に照らされながら住宅街沿いの道を一人で歩いている。
その新沼の後ろ、数十メートル離れた電柱の影で、探偵部の三人はコソコソと身を隠しながら後を追っている。
アホ二人は紙パックの牛乳とあんパンを手に持っており、もしゃもしゃとあんパンを頬張りながらジッと新沼を見つめている。


関「さて、本当に現れるんでしょうかね? 彼女の勘違いが、一番安全な終わり方でいいんですけどね。」

張間「誰が来ようが、私たち三人なら大丈夫ですよ!」

間宮「お前ら、何食べてんだよ?」

張間「やれやれ、間宮刑事はわかってませんねぇ~。こういうシチュエーションは、あんパンと牛乳という決まりでしょうが! あっ、牛乳飲みます?」

間宮「いりません。」

張間「それは、あれですか!? 私との間接キスは嫌ということですか!? こんな可愛い子と間接キスできるチャンスなんですよ!?」

間宮「自分で言うな。」

関「あなた、このチャンスを逃したら永遠とやってきませんよ? あー勿体ない勿体ない。」

間宮「あーもう、うるさいなぁ! 飲めばいいんでしょ飲めば!!」

関「見ていてください。パックごと吸い込む勢いでストローに吸い付きますよ、あの子。」

張間「え? そ、それはちょっと...。ご、ごめんなさい...さっきの話は無かったことに...。」

間宮「殴っていい? 殴っても文句言われないよね? いいよね?」

関「まぁまぁ、落ち着きなさい間宮刑事。煩くしていると、犯人に気づかれてしまいますよ。」

間宮「誰のせいだと思ってるんだよ。というかこれ、知らない人が見たら、僕たちが新沼さんの後をつけてる人だと思われませんか?」

関「そういうことを言うのはやめなさい。あなた、フラグの回収すごく早いんですから。」

間宮「どういうことだよ?」

関「こういうことですよ。張間くん、この布を被ってください。」

張間「御意! では、ドロンッ!」


 張間は関からレンガ調の布を受け取ると、二人揃って布を被り、背後の壁と同化しようと試みる。布と壁は見事なまでに一体化しており、暗闇だということもありパッと見、わからない仕上がりとなっている。


間宮「この歳で忍者ごっこか? 恥ずかしいからさっさとーーー」

警官「ちょっと、君。ここで何をしているんだい?」


 間宮が背後を振り返ると、若めの警官が帽子を直しながら声をかけてくる。


間宮「あ、え、えっと...ぼ、僕たちはですね...え、えっと...!」

警官「たち? たちって、周りには? 何言ってるんだい?」

間宮「...え?」

警官「ん?」

間宮「え、えっと...ちょ、ちょっと待ってくださいね! おい、アホコンビ! さっさと出てきて一緒に説明をーーー」

警官「君、?」

間宮「え?」

警官「ん?」

間宮「......。」

警官「どうした? 何か言いたげだね?」

間宮「あ、いや、え、えっと...。」

警官「君、怪しいな...。一人で電柱の影に隠れてコソコソしている。壁に話しかけるし、挙動不審だし...スリーアウト、チェンジだ。さぁ、一緒に交番まで来てもらうよ。」

間宮「えぇぇ!? ぼ、僕は怪しくなんかないですよ!!」

警官「はいはい、怪しい人はみんなそう言うの。」

間宮「待ってください!! そこ!! そこの壁に人がいるんですって! 本当ですから、見てくださいよ!!」

警官「君、大丈夫かい? はっ!? もしかしてだが、その若さで危ない薬を...!? さぁ、早く来なさい! 君の未来は僕が守る!!」

間宮「ちょっ、ちょっと待っ...!! 嘘でしょぉぉぉ!?!?」


 間宮はズルズルと警官に引きずられていく。二人が曲がり角を曲がり完全に見えなくなると、アホ二人組はスッと布から姿を現す。


関「ね? 早いでしょ?」

張間「驚きの早さでした。間宮刑事、あなたのことは忘れません...!」

関「さぁ、彼の無念を晴らすためにも、仕事を続けましょう!」


 二人は布をマントのようになびかせながら、前方を歩いていった新沼を駆け足で追いかける。
曲がり角で壁に沿いながら、チラッと顔を出して前方を確認し、数十メートル先の新沼の姿をとらえる。


張間「ん? 部長、あれを見てください!」


 張間が指を指し示す先ーーー新沼の背後、数メートル後ろの電柱の影で、辺りを警戒しながら新沼を見つめている怪しげな人影が。
人影は、周囲が真っ暗なせいか全身真っ黒な黒タイツを着ているように黒く染まっており、目と口だけがハッキリとわかる姿をしている。


張間「あの人、怪しくないですか...!?」

関「怪しい...と言うか、誰がどう見たって、あれは犯人ですよ。」

張間「ですよね。怪しさムンムンですもんね。」

関「それでは、行きますか。」

張間・関「確保かぁくほぉぉぉ!!!」


 アホ二人のけたたましい声に驚き、慌てて背後を振り返る新沼。と同時に、怪しげな人影も慌てて背後へと振り返る。
関は素早く犯人の背後に回り込むと、犯人の腕をとり、そのまま勢いよく地面へと組み伏せる。


張間「新沼ちゃん、私の側から離れないでね!」

新沼「ちょっ、ちょっと!! 急に出てこないでよ! びっくり...って、その人は...?」

関「さぁてと、全てを白状してもらいましょうかねぇ?」

 「痛い痛い! 痛いってばぁ!!」

張間「新沼ちゃん、こいつが君をつけていた犯人さ! 極悪人さ! とんでもない悪党だから、近づいちゃダメだよ!」

 「悪党って、僕はそんなんじゃーーー」

関「言い訳はいいから、どうして彼女をつけていたのかを白状しろ!」

張間「今は亡き間宮刑事のためにも、この事件は必ず解決する!!」

新沼「あ、あれ? そういえば、間宮先輩はどこに...?」

張間「新沼ちゃん、彼はもう...うぅ...!」

関「張間刑事! その涙は、奴の墓前までとっておけ!」

張間「は、はいぃ!」

新沼(間宮先輩に一体何が...?)

新沼「...ん? あれ? ちょっ、ちょっと待ってください!」

関「どうしたんだい?」

新沼「あなた、その制服...中学生?」


 新沼の言葉に、アホ二人はマジマジと犯人を見つめる。ジッとよく見ると、二人も見覚えのある制服に身を包んでいる。


新沼「え、えっと...あなたが私の後をつけていたの? どうして?」


 関はゆっくりと力を緩めて解放する。男の子は顔を俯かせながら立ち上がり、ばつが悪そうな顔でずっと地面を見つめ黙っている。


張間「おいこらっ! さっさと言わんかい、中学坊主!!」

関「こらこら、落ち着きなさい。威嚇しないの、張間刑事。」

男の子「あ、あの...こ、これ!!」


 意を決した男の子は、ポケットから一枚の布切れを取り出すと、新沼の前へと差し出す。


新沼「え...? あっ!? これ、無くしたと思ってたハンカチ! どうして君が...?」

男の子「じ、実は...あなたが落としたのを見かけまして...。渡そう渡そうと思ってたんですけど、なかなか勇気がでなくて...。」

張間「おいおい本当かよ、この坊ちゃん?」

新沼「私って、話しかけづらいかな...? 怖い顔してるかな...?」

関「あなたの顔が怖かったら、世の女性の八割は般若はんにゃみたいな顔してますよ。」

張間「部長、私は般若ですか?」

関「あなたは、なんでも探偵部の紅一点こういってん。ルパンでいうと峰不二子みねふじこですよ。」

張間「んもぉ~部長ってば♡ 褒めても何も出ませんよ~♡」

男の子「怖いだなんて思ってません! むしろ、可愛いと思っています!!」

新沼「え?」

男の子「ん? あっ...!?」

張間「おやおや? もしかして君...?」

男の子「...じ、実は僕...あなたを一目見て、好きになっちゃったみたいで...。だから、声をかけようと思っても、変にドキドキしちゃって...ご、ごめんなさい!」

関「ほぉ? なになに、そういうことですか? そういう展開ですか、これは?」

張間「なるほどなるほど、理解しました。ではでは、後はお二人で...!」

関・張間「ごゆっくり~!!」

新沼「えぇ...ごゆっくりって...。」

男の子「あ、あの...ごめんなさい。僕が早く声をかけなかったせいで、怖い思いをさせてしまったみたいで...。」

新沼「ううん、気にしないで。たしかにちょっと怖かったけど...私の方こそごめんね。ハンカチ渡そうとしてくれただけなのに。」

男の子「あ、あなたは、なにも悪くないので謝らないでください!」

新沼「ねぇ、君は今、何年生なの?」

男の子「え、えっと、中二です。」

新沼「そっか。私は今、高一なんだ。だから、私が三年生になった時は、君は一年生だね。」

男の子「は、はい。」

新沼「ねぇ...私のこと、好きなの?」

男の子「...は、はい!」

新沼「じゃあ、その気持ちがずっと変わらなかったら、私と同じ高校に来てね。」

男の子「え?」

新沼「君の気持ちが変わらなかったら、同じ高校で一緒に青春しよ? こんなよくわからない出会いは無しにして、一から始めよ。私は今、好きな人いないから。君が高校生になるまでは待っててあげる。まぁ、その後のことは、君の頑張り次第だけどね。」

男の子「は、はい!!」

新沼「うん、いい返事だ。じゃあ、待ってるね。」

男の子「はい! 僕、絶対に同じ高校に行きます!! だから、その...ま、待っていてください!! そ、それでは、失礼します!!」


 男の子は勢いよく頭を下げると、顔を真っ赤に染めながら猛然と駆け出していく。新沼は、その姿を微笑みながら小さく手を振って見送っている。
男の子の姿が小さくなっていくとともに、新沼の背後から姿を消していた二人が拍手をしながらヌルッと出てくる。


関「いや~素晴らしいですね~! これ、なんて少女マンガですか? こんなにドキドキしたのは久しぶりですよ~!」

張間「このお話で、ドラマ一本いけますね! 私もこんなシチュエーションに出会ったら、さっきのセリフを言おうと思います...!!」

新沼「部長さん、張間ちゃん、今日はありがとうございました。」

関「いえいえ、無事に解決できてよかったですよ。」

張間「うんうん! あの子も、とってもいい顔してたし、めでたしめでたしだね!」

新沼「うん、とってもいい顔してたよね。可愛い顔を真っ赤に染めちゃって...あの子は、きっと高くて可愛らしい声で鳴くんだろうなぁ...♡」

張間「うんうん! きっと可愛い声で鳴く...え?」

新沼「あぁ...いぢめたいなぁ...♡」

張間「あ、あの...新沼ちゃん...?」

関「君、そういうキャラだったの? 今、裏の君がダダ漏れだけど、大丈夫なの? 問題解決したのに、また新しい問題が出てきちゃってるよ?」

新沼「私、普段は猫被って生活してるんですけど...お二人の前では、別に被ってなくていいかなって。私と同じ匂いがしましたから。」

関・張間「あなたと一緒にしないで!?」

新沼「あっ、このことは他の人には言わないでくださいね。特に、間宮先輩にはナイショですよ? あの人はとっても優しくて、可愛くて、いぢめがいがありそうなので...もっともっっと焦らしてから正体を明かしたいんです。そうしたら、すごく可愛いくていい声で...うふふふ♡」

張間「に、新沼ちゃん...。」

新沼「もし間宮先輩にバラしたら...どうなるかは、言わなくてもわかりますよね♡」

張間「ひぃぃ!?」

関「も、もちろんでございます!!」

新沼「ところで、その間宮先輩はどこにいるんですか? 先ほどから姿が見えないのですけど...。」

関・張間「...あっ。」
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