16 / 330
16話「どすこいっ!紙相撲部!④」
しおりを挟む体育館内には、丸テーブルを加工して作られた小さな土俵が等間隔に並べられている。
張間と花ノ山は土俵を挟み、ばちばちと火花を散らしながら両者睨み合っている。周りでは試合が既に行われており、熱い声援が飛び交っている。
間宮(すごい盛り上がっている...。紙相撲、恐るべし...。)
関「さてさて、どっちを応援しようか悩みますね?」
間宮「花ノ山さんを応援しないと、今日ここに来た意味がないでしょうが。」
関「まぁ、それもそうですね。」
張間の数メートル後ろの応援席から二人を見守っている関と間宮。
花ノ山と張間の間に立っているジャージ姿の子が、ビシッと腕を天高く上げる。
審判「両者どすこいをセットし、デスクタップの準備を! 」
間宮「デスクタップってなんですか?」
関「机をトントンすることですよ。」
間宮「かっこよく言わなくてよくない!?」
張間「ふふ...懐かしいわね、この感触。」
観客A「お、おい、見ろよ! あれ!」
観客B「あ、あのピアノを弾くかのようなデスクタップポジションは、まさか!?」
観客A「去年の夏場所に彗星のごとく現れ、一度も土をつけられずに優勝した伝説の...!」
観客A・B「紙相撲のベートーベン! 張間 彩香!?」
張間「さぁ、死の旋律を奏でましょう。」
間宮「あいつ、まさかの経験者!? 去年のお前はなにしてんだよ!!」
関「ふふふ...懐かしいですね、あのデスクタップポジション...。」
観客A「お、おい、まさかあんたは!?」
観客B「独特のタップで相手を惑わす、土俵の異端児! そのタップで不規則に動くどすこいは、上司に無理やり酒を飲まされ真っ直ぐ歩くことができなくなった千鳥足の40代サラリーマン!!」
観客A・B「紙相撲の幻影師! 関 幸!?」
関「さて、お手並み拝見といきましょうか。」
間宮「お前も経験者かいぃぃぃ!! というか、例えがダサすぎるだろ! もうちょっとカッコいいのはなかったの!?」
審判「西側~全てのどすこいを力でねじ伏せる! 彼のデスクタップは、山の噴火と同等!! 剛腕、花ノ山~~~川角~~~。」
花ノ山「どすこぉぉぉぉいいい!!」
審判「東側~彼女のデスクタップは芸術品! 奏でる音楽は、生の旋律か? 死の旋律か? 紙相撲のベートーベン! 張間~~~彩香~~~。」
張間「では、奏でましょうか。」
間宮「ツッコミどころが多すぎて、どこから処理したらいいかわかんないよ!!」
審判「では、両者見合って...はっけよーい...残った!!」
残ったの合図が聞こえた瞬間、両者は机を叩き始める。花ノ山は荒々しく力強く、張間はピアノを弾くかのように繊細にーーー二人のデスクタップの振動は、土俵上のどすこいを激しく、優しく揺らす。
観客A「す、すげぇ...! 一回戦からこんな白熱した試合が見られるなんて...!」
観客B「俺、生きてて良かった...!」
間宮「一人のツッコミに対して、ボケの量が多すぎませんか!? 僕を押し潰す気ですか!? 少し休ませてくれませんか!?」
関「そんなこと言わずに、あの子もよろしくお願いしますよ。」
関は間宮の右隣をスッと指で指し示す。間宮が指先を視線で追うと、さほど離れていない距離に怪盗2がおり、張間たちの試合を見つめている。
怪盗2「ぬぬぬ...見にくいなぁ...。あっ、マスク外せばいいんだ。」
怪盗2は、なにも躊躇うことなくスッとヴェネツィアンマスクを取り外す。
間宮「今マスクをとるなぁぁぁ!!」
怪盗2「ひぃぃぃ!?!? ごめんなさいごめんなさいぃぃぃ!!」
花ノ山「なかなかやるでごわすな、張間ちゃん!! でも、おいどんは負けられないでごわすよ! はぁぁぁいやぁぁぁ!!」
観客A「なっ!? あ、あれは!!」
観客B「陸に打ち上げられた鮭がビチビチと跳ね上がるかのような力強いデスクタップ...間違いない!」
花ノ山「必殺!「龍星群!!」」
観客A「で、でたぁぁ!! 花ノ山の必殺技、龍星群!!」
観客B「無数の突っ張りが、相手のどすこいを容赦なく襲うぅぅ!! これは、あの張間もーーー」
張間「ふふふ...。」
観客A「ま、待て! 何か聞こえないか!?」
観客B「お前は何を言って...い、いや、聞こえる...! 聞こえるぞ!?」
観客A・B「ピアノの音色が!!」
張間「なかなか楽しませてもらいましたよ、花ノ山さん。でも、そろそろ終幕です。 」
観客A「は、張間の手元を見ろぉぉ!!」
観客B「あ、あれは!? 弾いてる!? デスクタップじゃない! ピアノを弾いてやがる!! あるはずのないピアノが鮮明に浮かんできやがる!!」
観客A「流れるようなメロディに乗って、どすこいが華麗に踊ってやがる!! 花ノ山の龍星群が、踊りの相手になってやがるぜ!!」
花ノ山「ぐっ!? クソォォォ!!」
観客A「はっ!? ね、音色が...!!」
観客B「曲が終わる...! フィナーレだ!! これが、張間 彩香の必殺技...!!!」
張間「交響曲第9番!!」
花ノ山「ご、ごわすぅぅぅ!?!?」
土俵上のどすこいと共に、花ノ山は後方へと跳ね飛ばされていく。花ノ山が地面へ大きな音をたて着地すると同時に、審判の腕が天高く上がる。
審判「勝者、張間 彩香!」
関・間宮「......。」
張間「ご静聴、ありがとうございました。」
間宮「お前が勝ってどうするぅぅ!!」
張間「え? ダメでした?」
間宮「ダメに決まってるだろ!! 花ノ山さん負けたから、もう怪盗2と戦えないじゃん!? どすこい取り戻せないじゃん!? バカか、お前は!!」
張間「うーん、私が勝てば返してもらえるとかないですか?」
間宮「あるわけねぇだろ!! みろ、怪盗2を!!」
怪盗2「あたふた!! あたふた!! あたふた!!」
間宮「すげーあたふたしてんだろうが!!」
張間「まぁまぁ、後で交渉してみましょう。もしかしたらもあるはずですから。」
間宮「あるわけないだろうが!!」
張間「落ち着いてください、間宮先輩。そろそろ怪盗2の試合が始まりますよ!」
間宮「どうすんだよ、全く...。えっと、怪盗2の初戦の相手はーーー」
審判「東側~型にはまらない独特のタップ! でも、それが癖になっちゃう! 紙相撲の幻影師! 関~~~幸~~~。」
関「さて...あなたは私を楽しませてくれますか?」
間宮「お前かよぉぉぉ!!」
間宮(M)先輩と怪盗2の試合は、開始わずか5秒で決着がついた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
10
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる