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31話「爪と鼻の伸ばしすぎにはご注意を③」
しおりを挟む茶色の土を盛り固められたプルペンのマウンド上で、鋭い目つきで18.44メートル先のキャッチャーミットを睨む男ーーー大賀 雄太は、小さく息を吐き出すと、ゆっくりと腕を頭上へと振り上げる。視線を変えることなく、片足を上げ身体を軽く捻ると、下半身を巧みに使い頭上の腕を勢いよく振り下ろす。腕から放たれたボールは、勢いを緩めることなく真っ直ぐミットへと吸い込まれるように突き進んでいく。
バシンッという痛々しい乾いた音が響き渡る。豪速球を受けた男ーーー甲柱 光は、表情一つ変えず身動き一つとらず、ジッとしている。
大賀「へっ! どーだ! 今の球も最高の完璧だろ!?」
甲柱「......。」
大賀「...おい、光?」
甲柱「......。」
大賀「......。」
甲柱「...ナイスボール、雄太。」
大賀「良いなら良いって、さっさと言ってこいよ!! お前、俺のこと嫌いなのか!?」
甲柱「嫌いだったら、お前のキャッチャーはしていない。」
大賀「なら、もうちっと早く返事しろや!!」
今本「おーい、大賀~!」
大賀「ん?」
甲柱「キャプテン、こんちわっす。」
今本「おー甲柱、よっす。元気してるか?」
甲柱「はい、元気です。」
大賀「なんすか、キャプテン? なんか用っすか?」
張間「おーおー、見てください間宮先輩! あれが噂の一年ですよ! 生意気そうな臭いがプンプンしますね!」
間宮は無言で張間の頭を引っ叩く。
張間「あだっ!?」
甲柱「キャプテン、この人たちは?」
今本「なんでも探偵部っていう部活の人たち。」
大賀「なんでも探偵部? あぁ、あのよくわかんねぇやつか。」
張間「おいこら、てめぇ! よくわかんねぇとはなんだ、こら!! なんでも探偵部は、めちゃくちゃすごいんだぞ、ごら!!」
間宮はもう一度、無言で張間の頭を引っ叩く。
張間「あだぁ!? 間宮先輩、なんでですか!? あなたはどっちの味方ですか!?」
間宮「場を掻き乱すな。黙ってろ。」
大賀「んで、そのなんでも探偵部がなんか用ですか? 俺、忙しいんでさっさと帰ってもらえないっすかね?」
今本「まぁまぁ、そう言うなって。大賀、今暇だろ?」
大賀「暇じゃねぇよ!! 今さっき忙しいって言っただろうが!!」
今本「今から、こいつらと勝負してほしいんだけどさ。」
大賀「話を聞け!!」
甲柱「勝負? なんか理由があるんですか?」
今本「おう。大賀の鼻が伸びきってるから、それをへし折ってもらうためにな。」
間宮「今本さん、それは本人目の前に言わない方がいいと思うんですけど...。」
大賀「へぇ~? つまり、こいつらは俺をボコボコにするためにここに来たってわけ? あんたら、強いの? 見た感じクソ雑魚そうだけど。」
張間「誰が雑魚だ、ゴラァァァ! 今すぐ勝負ーーー」
間宮はサッと張間の後ろに回り込み、口を押さえ込む。
間宮「どうぞ話を続けてください。」
大賀「で、あんたたちはどっかの大会の優勝者なんですか? まぁ優勝っつっても、そこらへんのよくわかんねぇ小ちゃい大会だろ? 雑魚だよ、雑魚。」
関「野球は遊びでしかしたことないので、大会には一度も出てませんよ。」
大賀「は? クソ素人じゃん。そんなやつらが俺と勝負? んなもん、やる前から結果見えてんじゃん。時間の無駄無駄。さっさと帰れ。」
関「まぁ、こうなりますよね~。」
鈴田「おい、どうすんだよキャプテン?」
今本「うーん...断られるとは思ってなかった。」
鈴田「おい...!」
今本「あっ、そうだ。あれだな、お前? 負けるのが怖いのか~?」
大賀「んな安い挑発に引っかかると思ってんのか!? 舐めてんじゃねぇぞ!!」
鈴田「いや、お前は引っかかりそうだぞ。」
甲柱「つーか、何度か引っかかったことあるだろ。」
間宮「あっ、やっぱりそうなんだ...。」
関「気をつけなきゃダメですよ~。」
大賀「うるせぇぞ、てめぇら!! 絶対勝負なんてしねぇからな!」
関「やれやれ、やっぱりこうなりますよね。どうするんですか?」
今本「うーん、どうしようなぁ~?」
張間「ふっふっふ...! 皆さん、安心してください! ここは、この張間 彩香ちゃんにお任せください!! ズバッとババっと解決しちゃいますよ!」
間宮「変な問題起こさないでよ。」
関「穏便に済ませてくださいね。」
今本「やっぱり張間ちゃんは、面白いわ...! ふふふ...!」
鈴田(可愛すぎる。)
張間「おいこら、生意気な一年坊主! つべこべ言ってないで私たちと勝負しろや!」
大賀「うるせぇ。つーかお前も一年だろうが。女だからって優しくすると思ってんのか? とっとと帰れ、ブス。」
張間「てめぇぇぇ!! 誰がブスだゴラァァァ!! どっからどう見ても可愛いだろうがぁぁ!! てめぇの目は腐ってんのか!? よくアイドルみたいな可愛い見た目した女の子にブスって言えるな、てめぇは!!」
間宮「ビックリするくらい自己評価高いな!?」
大賀「はっ、どっからどう見てもブサイクだろ。今すぐ鏡見てこいよ。なぁ、光?」
甲柱「いや、可愛いだろ。お前、視力大丈夫か?」
大賀「てめぇはどっちの味方なんだよ、おいゴラ!!」
張間「調子乗ってんじゃねぇぞゴラァァ! てめぇの棒球ストレートなんて、簡単に弾き返せるわ!! 「あれ?ハエがボールに止まってますよ?遅いね~プププッ!」レベルの球速しか出ないくせに、ピーピー騒いでんじゃねぇぞ、このクソヘボピッチャーが!!」
大賀「誰がクソヘボピッチャーだゴラァァァ!! こちとら中学の時に全国制覇してんだよ!! 球速だってクソ早ぇわ!! てめぇの身体貫通するくらいだわ、ボケが!!」
張間「いつまで過去の栄光引きずってんだよ! 見苦しいんだよ! 今すぐその栄光を打ち砕いて、てめぇの身を軽くしてやるよ!!」
大賀「やれるもんならやってみろや!! 無様に空振りして泣きべそかいて、自分の発言を後悔しながら俺様の凄さにひれ伏せ!!」
野球部員A「おいおい、なんだなんだ?」
野球部員B「喧嘩か? 祭りかぁ~?」
甲柱「おい雄太、先輩たちが集まってきてる。少し落ち着け。」
大賀「離せ、バカ光がぁぁ!!」
間宮「張間さんも、落ち着いてってば! 野球部の迷惑になるでしょ!」
張間「ガルルルルゥ!!」
鈴田「えっと...勝負するってことでいいのか?」
関「みたいですね。」
今本「ダメだ...張間ちゃん、面白すぎるって...! 腹痛い...!」
間宮(M)こうして、僕たちなんでも探偵部は、大賀くんと対決することになった。
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