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81話「好きと好き④」
しおりを挟む関「いや~本日は素晴らしいお天気ですね~。」
放課後、なんでも探偵部の部室。関はニコニコと笑みを浮かべながら、窓際で澄み渡った空を眺めている。椅子に座っている間宮は、楽しそうな先輩を不安そうに見つめている。
間宮「先輩、わかってますよね?」
関「今、あの子はなにを思っているんでしょうね? 自分の罪と向き合う時間を、すこーし与えてやったが...というか、まず指定した場所に来るだろうか? どう思いますか、傑くん?」
間宮「知りませんよ...。」
関「まぁ、もしこなかったら家まで押しかけるので、安心してくださいね。」
間宮「なにも安心できないんですけど!? 落ち着いてください! やりすぎないでくださいよ! わかってますよね!?」
関「......。」
間宮「先輩、どうしたんですか?」
関「...どんな気分なんだろうね? 下駄箱に、脅迫状みたいな紙が入ってるって。」
間宮「......。」
関「あっ、すみません。色々と思い出しちゃいました?」
間宮「あ、いや...大丈夫です。心配しないでくだーーー」
大きな音を立てながら、力強く扉が開く。
関「おや、西田くんじゃないか。どうしたんですか、怖い顔して?」
西田「...あんたらか?」
間宮「え? な、なにがーーー」
西田「あんたらが、張間さんになんかしたのか!?」
西田は間宮に近づくと、容赦なく胸元を掴み上げ、声を荒げる。
西田「先輩から聞いたよ、あんたらのこと! 一年前、暴力事件起こしてるって! ヤバイ奴らだから近づくなって!!」
間宮「ちょっ、落ち着いてって!」
西田「なにしたんだよ!? 張間さんに、なにしたんだよ!?」
間宮「僕らは何にも...いだだだだ!!」
間宮の言葉を無視し、ただただ声を荒げ、西田は先輩を威圧する。目を細め、額にシワを寄せ、怒りを間宮にぶつけまくる。
関「おい。」
西田「...なんだよ?」
ふと声を止め、横から聞こえてきた声の元へと視線を向ける。なんでも探偵部という、よくわからない部活にいるもう一人の男ーーー
西田「いっ!?」
腕に突然、痛みが走る。すぐに痛みの元へと視線を落とすと、間宮の胸元へと伸ばした腕が、さっさと離せと言わんばかりに、関に強く強く握られている。
関「お前、なんだよ? いきなり入ってきてぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー...猿か?」
間宮「ちょっ、先輩!!」
関「俺たちが、可愛い可愛い後輩をいじめるわけないだろ? こっちだって、いじめられてるの知ってイライラしてんの。これ以上、ムカつく要素を増やさないでくれる?」
間宮「先輩、落ち着いてって!!」
張間「なに、してるんですか...?」
か弱い声が、微かに三人の耳へと届く。張間は目を見開き、目の前で起こっていることを受け入れられないのか、小さく震えながら三人を見つめている。
三人は動きを止めて、今にも泣き出しそうなか弱い少女を、ただただ見つめる。
西田「は、張間さん......。」
張間「西田くん、間宮先輩を離して! なにしてんの!? 早く!」
カバンを投げ捨て、三人に近づき、強引に西田の腕を引っ張り剥がす。西田の圧からようやく解放された間宮は、ゆっくりとその場に尻もちをつき息を整える。
張間「間宮先輩、大丈夫ですか!? どこも怪我とかしてませんか!?」
間宮「うん、大丈夫だよ。僕は、なんともないから。」
西田「あ、あの、張間さん...。」
張間「なんで、こんなことしてんの...?」
西田「......。」
張間「なんでこんなことしてんの!?」
何も答えない西田に、張間は瞳を潤ませながら立ち上がり、声を荒げる。
張間「間宮先輩に手を出して、なにする気だったの!? 答えてよ!」
間宮「は、張間さん、落ち着いて! 僕は大丈夫ーーー」
張間「お願いだから、もう近づいてこないでよ! どうしたらいいか、わかんないんだからさ!!」
西田「は、張間さん...。」
関「うわぁ、キッツい一撃くらっちゃったねぇ。」
間宮「お前は黙ってろ!」
関「えぇ...。」
西田「ぼ、僕は、張間さんが心配でーーー」
張間「心配だからって、やっていいことと悪いことがあるよ!!」
西田「ご、ごめん...。」
張間「私じゃなくて、間宮先輩に謝ってよ!!」
間宮「張間さん、僕は大丈夫だから! 落ち着いてって!」
西田「張間さん...ごめん。先輩たちに迷惑かけたことは謝るよ...。でも、僕は張間さんのことが心配で...!」
張間「少しの間、話しかけないでって言ったよね?」
西田「なんでなの? なんで、話しかけちゃダメなの? それって、僕のことでなんかあったってことだよね? 何かしたのなら謝るし、もう二度と張間さんを傷つけるようなことはしないからさ!」
張間「だから、違うって...。」
西田「だったら、言ってくれよ! 何も言ってくれなかったら、わかんないじゃないか!!」
張間「もう、ほっといてよ!」
西田「ほっとけるわけないだろ!!」
西田「...張間さんは、大切な友達だからさ...。その子が困ってるなら、助けてあげたいって思うのは間違ってる!? その子に、また笑ってほしいって思うのは、間違ってる!?」
張間「......。」
西田「言ってくれよ! 力になりたいんだよ! 僕に、何ができる!? 張間さんのために何ができるの!? 張間さんのためなら、なんでもするからさ! 教えてよ!!」
張間「...そっか。ごめんね...。」
西田「え...?」
張間「私、西田くんも...傷つけてたんだ...。」
西田「張間さん...?」
張間「こうなったのも、私のせい...私のせい...。だって、私が西田くんを突き放したせいで...。でも、話したら...先輩たちがさ...。」
潤んだ瞳から、ポタポタと涙が溢れ始める。頬を伝い、床にポタポタと落ちていく。
張間「もう...わかんないよ......。どうしたらいいか...わかんないよぉ......。」
その場に崩れるようにしゃがみ込む。嗚咽はだんだん大きくなり、張間の泣き声が部室に響き渡る。
間宮「はぁ...全く...。」
間宮は頭を軽く掻きながら、泣いている張間ーーーではなく、力なく泣き喚いている後輩をジッと眺めている先輩の元へと歩みを進める。そしてーーー
間宮「ふんっ!」
関「あだっ!? おい、なんでいきなりチョップすんだよ!?」
間宮「先輩、そろそろ時間でしょ?」
関「ん? あぁ、ホントだ。そろそろいくか...。」
間宮「おい、待て。」
関「あ? んだよ?」
間宮「口調、直してけ。」
関「はい?」
間宮「直してけ!」
関「...はいはい。わかりましたよ、傑くん。これでいいですか?」
間宮「おう。やりすぎるなよ。」
関「何度も言わなくても、わかってますよ。」
間宮「張間さんの居場所、壊すなよ。」
関「...わかってますよ。探偵部は、何があっても壊しません。」
忠告してくれる後輩の頭と、泣き喚いている後輩の頭を軽くポンポンと叩き、先輩はスタスタと部室を出て行く。
間宮「西田くん。」
西田「は、はい...。」
間宮「ごめん、今日は帰ってくれる?」
西田「で、でも...。」
間宮「厳しいこと言うけどさ...今の君じゃ、張間さんを傷つけるだけだよ。」
西田「っ......。」
間宮「今の君にできることは、そっとしてあげること。あとは僕らに任せて、今日は帰って。明日には、張間さんの笑顔が見られるようになるから。」
西田「...わかりました。あとは、お願いします。」
西田は、深く深く頭を下げ、部室を出て行く。西田を静かに見送った間宮は、しゃがみ込んで泣き喚く後輩へと視線を合わせる。
間宮「張間さん。ここ、空気悪いからさ。屋上、行こっか。」
張間は顔を俯かせたまま、小さくコクリと頷きゆっくり立ち上がる。間宮は優しく背中をさすりながら、二人で部室を出ていく。
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