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113話「大切なものは失わないように②」
しおりを挟む津々浦「ってことがありまして、私の[ピー]チュウが...! うぅ...[ピー]チュウ...!」
関「おやおや、思っていた以上に大変なことになってますね。」
張間「すぴぃ~すやすや...すぴぃ~すやすや...。」
関「張間くん、回想終わったから起きなさい。」
関は、張間の大きく膨らむ鼻提灯を指でつついて割る。
張間「はっ!? おはようございます!」
関「おはよう。素敵な夢は見られたかい?」
張間「部長、回想シーンを簡潔に教えてください。」
関「どすこい狩りにあったみたい。」
張間「なんやて!? えらいこっちゃやで!」
間宮「津々浦さん、そのことは花ノ山さんに伝えたの?」
津々浦「お、おっす! 急いで花ノ山さんに伝えなくてはと思い、[ピー]チュウが奪われた後に家帰ってご飯食べてお風呂に入って録画してた「どすこい!おでんはんっ!」を見て0時ごろに寝て7時頃起きて学校に行って放課後部室で花ノ山さんに伝えました!!」
間宮「お前は、急ぐの意味を辞書で調べてこい!!」
関「花ノ山くんは、なんて言ってたんだい?」
津々浦「そ、それが...その...。」
張間「ん? どうしたの?」
津々浦「お、おっす...。花ノ山さんなんですが、五山海森が死んでしまってから、元気なくて...。今日、部室に行ったら...。」
花ノ山「こんにちは、なんでも探偵部の皆さん。」
間宮「...ん?」
扉がガラリと開き、花ノ山が部室へと入ってくる。しかし、いつもと見た目が違い、相撲体型だった身体はシュッと引き締まり、イケメンという単語がよく似合う、爽やかな顔立ちになっている。
花ノ山「間宮くん、どうしたんだい? ジッと僕を見つめて...何か顔についてるかい?」
間宮「あ、いや...その...。」
花ノ山「津々浦ちゃん、話ってなんだい? 話なら、紙相撲部の部室でもいいんだけど...。なんでも探偵部のみなさんも交えてのお話かな?」
津々浦「いつもより、綺麗な花ノ山さんになってました...。」
張間「今の花ノ山さん...。」
関「とっても...綺麗だっ。」
間宮「綺麗すぎるだろ! え、なに!? どうしちゃったの!? きこりの泉に落ちちゃったの!?」
花ノ山「間宮くん、きこりの泉ってなんだい?」
関「めちゃくちゃに雰囲気が変わってしまったね。」
津々浦「うぅ...! わ、私、どうしたらいいのかわからなくて...! ど、どうしたらいいんでしょうか...? おっす...。」
関「いや、どうしたらって言われてもねぇ...。」
張間「まずは、花ノ山さんを戻しますか?」
間宮「どうやって戻すんだよ?」
関「五山海森を見せたら、戻るとは思うが...。」
張間「五山海森って、紙30、インク333、愛情と男気530で作れますよね?」
間宮「どすこいって、刀剣男子と同じ製造方法なの?」
関「仕方ない、荒療治になるが...。」
張間「そうですね...。」
間宮「え? ちょっ、お前ら何する気?」
関と張間は、花ノ山の正面に立つ。二人は、ゴホンッと一つ大きく咳払いする。
関「ごわすごわす。」
張間「ごわすごわすごわす。」
間宮「...なにしてんの?」
関「ごわごわごわす。」
張間「ごわすっす。」
津々浦「おっす!」
間宮「どうした? ついに頭イカレちまったのか?」
花ノ山「はははは! どうしたんですか? 急に、ごわすごわすって言って。おかしな人たちでごわすなぁ~!」
花ノ山「......ん? ごわす?」
花ノ山「んぐっ!?!? あ、頭が、痛む...! なんだ、これは...!?」
間宮「これのどこが荒療治!? 雑療治の間違いでは!?」
花ノ山「な、なんだったんだ、今のは...? 頭の中で、ごわすが...!」
関「張間くん、お茶を用意してくれたまえ。」
張間「いくつですか?」
関「私、張間くん、傑くん、津々浦くん、花ノ山くんの5人だ。」
張間「5人ですね! 5人!!」
花ノ山「5人? 5...5...五? 」
五という単語が、花ノ山の頭の中を駆け巡る。
花ノ山「うぅ!? あ、頭がぁぁぁ!!」
関「張間くーん、夏はどこに行きたい?」
張間「山に行きたいです!」
花ノ山「や、山...うぐぅ!?」
津々浦「お、おっす! 頑張ってください、花ノ山さん! 負けないでください!!」
関「思い出せ! あの頃を思い出すんだ!! どすこい狩りを倒せるのは、君しかいない!」
張間「思い出して! さぁ!!」
間宮「別に花ノ山さんじゃなくても、あんたらがどすこい狩り倒せばいいんじゃないの? 紙相撲やってんだろ?」
関「バカヤロウが! 傑のバカヤロウ!」
張間「どん底に落ちてる花ノ山さんが復活して、どすこい狩りを倒した方が熱い展開でしょうが!!」
津々浦「おっす!!」
間宮「あーはいはい、そうですか。」
関「張間くん、山の他に行きたいところは!?」
張間「海がいいでっす!」
花ノ山「う、海...五山海...うぅ!? き、聞き覚えのない単語のはずなのに...頭がぁぁ!? ぬぐぁぁぁ!? ぼ、僕は......お、おいどんは...!」
張間「よし、あと一押し!」
関「津々浦くん! 君は夏、どこに行きたい!?」
津々浦「おっす! 私は...遊園地に行きたいです!!」
花ノ山「ぬぐぁぁぁぁ!? ご、五山海遊園地でごわすぅぅぅぅぅ!!」
花ノ山「......ん? 五山海遊園地? 遊園地? いいですね、遊園地! 久しぶりに行ってみたいね! 今度、みんなで行かないかい?」
五山海遊園地という聞き覚えの全くない単語で、花ノ山は綺麗な状態へと戻っていく。
張間は鬼のような形相で、津々浦の胸ぐらを力任せに掴み上げる。
張間「てめぇは空気読まんかい、ボケゴラァァァ!!」
津々浦「ごめんなさいぃぃぃぃ!!」
張間「なにが遊園地だ! あぁん!? 私だって、山とか海とかより遊園地行きたいわ、ボケェ!! 誰のためにこんなことしてると思ってんだ、ゴラァァ!! 欲望丸出ししてんちゃうぞ、ゴラァァァ!!」
関「張間くん、どうしちゃったの!? 今、ヤクザが乗り移ってるの!? とにかく、落ち着いて!!」
張間「部長! 釣りしてて、大物がかかって、頑張って頑張って魚影が見えてきて「よっしゃ! あと少しや!」ってなった時に糸切られたら、どうですか!? 怒りますよね!? 今まさにそれですよ! 止めないでくださいぃぃぃぃ!!」
間宮「おぉ、張間さんにしては、わかりやすくて良い例えだ。」
関「傑くん、なに冷静に分析してるの!? 君、そういうキャラじゃないでしょうが! いいから止めるの手伝って!!」
間宮「はいはい。」
張間「ぬがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
間宮「ほら、張間さん。イチゴ牛乳でも飲んで落ち着いて。」
張間は間宮からイチゴ牛乳を奪い取ると、某掃除機もびっくりの吸引力でイチゴ牛乳を一瞬で飲み干す。
張間「んん~やっぱりイライラした時には、甘いものですな~!」
津々浦「し、死ぬかと思いました...おっす...。」
花ノ山「ここは、賑やかで楽しいところですね~!」
関「振り出しに戻ってしまいましたね。同じことを繰り返しても、耐性がついてしまってるだろうから...どうしようか?」
張間「放って置いてもいいんじゃないですか?」
間宮「このままでも、別になにかあるわけでもないし。害もないでしょ。」
関「あのねぇ...君たち、ここはどこだい? なんでも探偵部でしょうが。校庭の草むしりから人探しなどなど、困っている人たちに手を差し伸べる、すんばらしい部活動ですよ? 困ってる人が目の前にいるのに、君たちは見捨てるのかい?」
津々浦「ん? あっ、菊さんから電話です。おっす! 津々浦です!! どうしたんですか?」
津々浦「......え? えぇぇぇ!? ほ、ほんとですか!? わかりました! すぐ行きます!!」
関「津々浦くん、どうしたんだい?」
津々浦「おっす! 菊さんが、どすこい狩りを倒して、奪われたどすこいを取り戻してくれたみたいです! 私、今から菊さんのところへ行ってきます! おっす! 失礼しましたーー!!」
花ノ山「津々浦ちゃん、どこに行くの!? 結局、話ってなんだったの!? ちょっ、待ってよぉぉぉぉ!!」
関「......。」
間宮「行っちゃいましたね。」
張間「なんか、モヤモヤする終わり方ですね。」
関「そうだね。なんかこう...あぁぁぁ、モヤモヤしますね、これ!?」
張間「モヤッと! モヤッと!」
関「モヤッとボールを投げさせろ! モヤッとボールを持ってこい!!」
間宮「そんな懐かしいものが、あるはずないでしょうが。」
張間「あぁぁぁぁ! モヤッとモヤッと!!」
関「このモヤモヤは、モヤッとボールを投げないかぎり残り続けるぞ! あぁぁぁあ! ボールはどこだ!? 探せぇぇぇぇぇぇ!!」
張間「モヤッとぉぉぉぉぉ!!」
間宮「...あっ、そうだ。」
張間「どうした間宮ぁぁぁぁぁ!?」
関「モヤッとボールを見つけたか!?」
間宮「違いますよ、これですよこれ。」
張間「なんだ、その紙切れは!? かせぇい! しょうもないもんやったら、許さへんで!!」
関「えっと、なになに...?」
関・張間「「ジャ、ジャンボパフェ無料券っ!?」」
間宮「ここにくる前に、先生の手伝いしたらもらいました。ジャンボパフェなんて、一人じゃさすがに食べきれないからーーー」
張間「間宮先輩、早く部室から出てください!!」
関「君が出てくれないと、鍵を閉められないでしょうが!!」
間宮「お前ら、いつのまに帰る準備したんだ?」
関・張間「パッフェ! パッフェ! ジャンボパフェ無料~~!!」
間宮「単純野郎どもめ...。ってか、花ノ山さんは本当にあのままでよかったのかな...?」
張間「まーみーやーせーんーぱーいー!!」
関「はーやーくぅーー!!」
間宮「はいはい、今行きますよ。」
間宮(まっ、いっか。)
間宮は、机に置いていたカバンを肩にかけ、戸締りを確認し部室を出て行った。
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