なんでも探偵部!

きとまるまる

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128話「知らないことでも自信満々に話せば、それっぽく聞こえる」

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登場人物

 関 幸かかわり ゆき:♂ 三年生。なんでも探偵部の部長。

 狗山 羽和いぬやま うわ:♀ 一年生。バドミントン部の部員。



ーーーーー



 陽が落ちかかり、街はオレンジ色に染まっている。狗山は、張間と綾小路に向かって大きくブンブンと手を振っている。


狗山「じゃあな~! また明日っす!」

関「さて、私たちも帰りますか。」

狗山「はいっす!」

関「そういえば...羽和くんは、今日無理やり張間くんに連れてこられたんでしょ? 今更だけど、申し訳ないね。色々と付き合わせてしまって。」

狗山「めちゃくちゃ楽しかったんで、気にしないでくださいっす!」

関「それは良かった。私も、羽和くんと遊ぶのは新鮮で楽しかったですよ。」

狗山「部活も違いますから、遊んだり話したりとか、全然ないっすもんね。」

関「そうだねぇ~。」

狗山「......。」

関「......。」

狗山(か、会話が止まっちまったっす...! ゆ、幸先輩と二人っきり...一体なにを話せばいいんっすかね...?)

関「気にしないでいいんだよ~。特に話すことがなければないで。」

狗山「え!? な、なにがっすか!?」

関「どうしよう...なにを話せば...!?って思ってたでしょ? 私たち、あんまり関わりないから、なに話せばいいかわかりませんよね~。」

狗山「よ、よくわかりましたね。」

関「羽和くんは、わかりやすいタイプだからねぇ。」

狗山「ど、どういうことっすか、それ!?」

関「そのまんまの意味ですよ~。」

狗山「わ、わかりやすいって言われると、なんか複雑な気分っす...。」

関「そうかい? わかりやすい方が、私は接しやすいから好きですけどねぇ。」

狗山「そ、そうなんすか?」

関「私はね。他の人はどうか知りませんけど。人間は、この地球上にいっぱいいますから。みんながみんな同じ考えではありません。」

狗山「おぉ、なんかデカイ話になってきたっす。」

関「そうだね、もう少し小さくしましょうか。羽和くん、この前の部活の大会はどうだったんだい?」

狗山「大会っすか? 俺は、個人戦2回戦負け。この前の団体戦は、3回戦で負けたっす。やっぱ高校は、中学と違って強い人がわんさかいるっすよ...。もっと練習しなきゃって、改めて思ったっす。」

関「そうか。君のライバルはどうだったんだい?」

狗山「新沼っすか? あいつは、すごいっすよ。個人戦は3回戦負けだったっすけど。」

関「ほう? 3回戦負けなのにすごいとは?」

狗山「あいつが負けた相手が、今回の大会で優勝した人なんすけど...その人、新沼以外には1セットも取られずに勝ってるんすよ。だから、一年ながら1セット取ったって、けっこう騒がれてて。」

関「勝負には負けたけど、話題性は勝ってるねぇ。たしかにすごいですね。」

狗山「ほんとっすよ。その人、去年は全国で準優勝だったんすよ。うちの地区でも頭二つくらい抜けてるというか...。そんな人から1セットとるとか、えげつないっすよ。」

関「あの子、私が思ってるより強いんだね。一度手合わせ願いたいものだ。」

狗山「幸先輩でも、新沼は無理っすよ。」

関「そんなこと言われちゃったら、ますますやる気がでてきちゃいますね~!」

狗山「...でも、幸先輩は運動もめちゃできるっすから、もしかしたら勝てるかもっすね。」

関「ん?」

狗山「それに比べて...。」

関「羽和くん? どうしたんだい?」

狗山「へ? あ、いや、なんでもないっす! 気にしないでください!」

関「悩み事かい? 私でよければ聞きますよ。」

狗山「いや、悩みというかなんというか...その...。」

関「いつまで経っても新沼くんに勝てないから...うぅ、情けないっす...かい?」

狗山「うぐっ!?」

関「おや、当たりですか?」

狗山「......。」

関「あははは~! ほんと羽和くんはわかりやすいね~!」

狗山「う、うるさいっすよ!」

関「えっと...たしか君たちが出会ったのは、中一の時の大会って言ってましたよね? そう考えると、結構長いですもんね。それまでに一度も勝ったことないのかい?」

狗山「は、はいっす。大会はもちろん、練習でも...。中一の時に負けてから、ずっとあいつに勝つことを目標に頑張ってきたっす。でも、どれだけ練習しても勝てなくて...。今は学校が同じっすから、中学の時と比べて勝負する回数は増えたんっすけど...やるたびに差を感じるというか...。」

関「「俺には、才能がないっす...。」かい?」

狗山「こ、心を読むのやめてくださいっす!」

関「才能がないって、君は一年ながら団体のメンバーに選ばれたんじゃないのかい? あっ、私の勘違いでした?」

狗山「いや、選ばれたっちゃ選ばれたんすけど...団体では、俺一勝もできなかったんす。何度もミスしちゃって、迷惑かけて...。こんなだったら、俺じゃなくて他の先輩方が出たほうがよかったんじゃないかって...。そしたら、結果は変わってたんじゃないかって...。新沼は俺と違って、出た試合全部勝って...やっぱり新沼と俺を比べると全然違うというか...いや、比べるまでもないっすよね。」

関「なるほどなるほど。負け続けて、どんよりモードに入っていると?」

狗山「ま、負け続けてるとか言わないでくださいっす!」

関「事実なんだから、そこは受け止めなくちゃいけないぞ、羽和くん。」

狗山「うぐっ...。」

関「でも、人間誰だって負けが続けばそうなるさ。本来、戦いというのは生きるか死ぬかだ。負けは死を意味する。何度も何度も死と同じ苦しみを味わっていれば、誰だってやめたくなるさ。逃げ出したくなるさ。そして、苦しみから逃れるために、自分には向いてない、才能がないと理由をつけて、苦しみから解放される。」

狗山「......。」

関「まぁ、ここまで結果が出ないとそうですよね。羽和くん、これで勝てるかどうかはわからないが、新沼くんを弱くする方法はあるよ。」

狗山「え? 新沼を? な、なんすか、それは...?」

関「君が、バドミントンをやめればいい。」

狗山「...え?」

関「君がバドミントンやめれば、彼女はきっと成績落としていくと思うよ。」

狗山「え? な、なんでっすか? なんで俺がやめたら、新沼が弱くなるんすか?」

関「私の勝手な考えだけどね...新沼くんは、めちゃくちゃ強いって言ってるけど...彼女、見た感じ基本的な運動能力は周りより頭でてるわけじゃないでしょ? むしろ、羽和くんの方が勝ってるでしょ? 体力とか握力とか。」

狗山「た、たしかに...! 体力テストの結果、あいつC判定だったっすけど、俺はA判定だったっす! それに俺、シャトルランは学校一番だったんすよ!」

関「ほほう。うちの張間バカよりも体力あるとは...君、なかなかバカだね。」

狗山「それは褒めてないっすよね!? で、でも、基礎的な部分ではめちゃくちゃ勝ってるのに勝てないって...。やっぱり、俺には才能が...。」

関「君はどうかわからないけど、彼女には才能があるんだろうね。」

狗山「幸先輩、才能のあるなしってどうやって見極めるんすか?」

関「ん? それはまぁ、人によって考えは違うだろうけど...。私は、が、才能がある人だと思うかな。」

狗山「理解力っすか?」

関「そう。簡単に説明すると...ここにリンゴがあるでしょ?」

狗山「な、なんでリンゴ持ち歩いてるんすか?」

関「細かいことは気にしない気にしない~。えっと、このリンゴは握力70あれば握りつぶせるとしましょう。」

狗山「はいっす。」

関「でも、君はなにも聞かされてない状態で「握力70あればリンゴを潰せるんだ!」ってわかるかい?」

狗山「わ、わかんないっす。」

関「それが、才能がない一般人の考え。だから必死に考える。どうしたらいいんだろう?なにをどうすれば、握りつぶせるだろう?って。でも、才能がある人はすぐに理解できるんだ。あっ、このリンゴは握力70あれば握りつぶせるなって。だから、握りつぶすために握力を鍛える。最短でゴールに行けるんだ。」

関「君は、すぐにはこの答えにたどり着けない。色々と考え、模索して、ようやく答えにたどり着く。でも、君が握力を鍛え始めたころには、才能がある人はどんどん次のステップへ進んでいる。新沼くんが、基礎的な運動能力が君よりも劣っているのに君よりも強いのは、身体の使い方をよく理解しているんだよ。」

狗山「身体の使い方っすか?」

関「そう。これも簡単に言うと、羽和くんは本来使えるはずの運動能力を60%くらいしか使えてない。でも新沼くんは、自分の運動能力を常に80~100%で使うことができる。だから運動能力に差があっても、彼女の方が強いんだよ。」

狗山「な、なるほど...よくわかったっす。」

関「これは私の勝手な考えだから、全部鵜呑みにしない方がいいとは思うけどね。」

狗山「いや、すごくわかりやすいし、そうなんだろうなって思うところがあるっす! たぶん、そうなんだろうなって思うっす!」

狗山「才能については、よくわかったっすけど...その才能がある新沼が、なんで俺がバドミントンやめれば弱くなるんすか? そこは、よくわかんないっす。」

関「スポーツやってる人で、目標とか憧れの人を聞くと、ほとんどがプロの選手を答えるでしょ?」

狗山「そうっすね。」

関「あれは、自分が関わらないから。言ってしまえば、雲の上の人だって思ってるから口にできるんだよ。自分と同じステージに立ってる人を憧れや目標って言える人なんて、ほとんどいないよ。ましてや、中学生や高校生なんて、才能を持ってる同世代の人間を見ると、憧れや目標なんかじゃなくて、嫉妬や妬みを持つよ。なんであいつにできて私にはできないんだってね。」

関「才能がある人間ってね、すごく羨ましがられるかもだけど...実際は、ただ辛いだけだよ。周りはできないのに、なんで自分はこんなにできてしまうんだろうって思うこともあるさ。君らが思ってる何倍も、苦しくて辛いことをしてるよ。」

狗山「幸先輩...。」

関「どれだけ努力しても、才能があるからと片付けられる。誰も苦しみを見ようとしてくれない。綺麗な部分だけ見る。彼女は、中学の頃から全国常連さんだったんでしょ? 少なからず、周りから嫉妬や妬みはあっただろう。」

狗山「そ、それは...。」

関「新沼くんって、将来プロになりたいとか言ってるのかい?」

狗山「え? いや、そんな話は聞いたことないっす。あいつ、バドミントンの強豪校に誘われてたっすけど、全部断ってたみたいっすから...。たぶん、将来的にも続けていこうとは思ってないんじゃないんすか?」

関「将来的に続けていくのなら、嫉妬や妬みに負けてはいけない。でも、続けないのなら、そんなものに耐える必要はない。苦しいものからは逃げてしまえばいい。でも、何で彼女は逃げ出さずに、バドミントンを続けてると思う?」

狗山「わ、わかんないっすよ、そんなこと。」

関「君が、目標としてみてくれてるからさ。」

狗山「え?」

関「同世代の君が、嫉妬や妬みなど冷たい目じゃなく「絶対に勝ってやる!」っていう熱い目で見てくれてるから。彼女は、それが嬉しくて続けてるんじゃないかい?」

狗山「そ、そうなんすかね...?」

関「私は、新沼くんじゃないから本当のことはわからないけど...あの子、綾小路くんのこと嫌いでしょ?」

狗山「そ、そうっすね...。」

関「彼が嫌われてるのって、しつこいからでしょ? しつこいやつは、彼女大っ嫌いなんだと思う。でもそれだったら、何度も負けてるのにしつこく勝負しろ勝負しろって言ってる君は、なんで嫌われてないんだい?」

狗山「そ、それは...いや、たまにいぢめられてるっすけど...。まぁ、お昼とか一緒に食べたり遊んだりしてるから、嫌われては無いと思うっす。そう思うと、なんでっすかね?」

関「簡単だよ。君のことを好いてるからさ。羽和くんが勝負しろ勝負しろってしつこく言ってくることに関しては、むしろ嬉しいんじゃないかい?」

狗山「ま、まぁ、何だかんだ文句言いながらも勝負してくれてるっすから...そうかもしれないっす。」

関「彼女は、君との大きな繋がりがそこにあると思ってるんだよ。大好きな友達である君とは離れたくないから、バドミントン辞めずに続けてるんじゃないかい? 強豪校の誘い全部断ってるみたいだし、彼女さほどバドミントンに興味はないと思うよ。興味あれば、今頃誘われたところに行ってるだろうし。」

関「彼女にとっての目標というか、バドミントンを続けてる理由は...たぶん、羽和くんに負けないこと。羽和くんの目標でい続けること。だから、続ける理由である羽和くんがバドミントンやめれば、彼女も頑張る理由がなくなるわけだ。」

関「さぁて、ここまでダラダラと語ってきましたけど...しつこいようですが、これは私の考え。本当かどうかは、本人に聞かないとわかりません。でも、これが本当だとしたら...君はどうする?」

狗山「...幸先輩。」

関「なんだい?」

狗山「俺、家まで走って帰るっす!」

関「あんだけ動き回った後なのに、元気だね。」

狗山「俺は、負けてられないっす! うおぉぉ! なんか燃えてきたっす!!」

関「......才能がない人は、時間がかかるだけだよ。」

狗山「へ?」

関「才能がないから、才能がある人が見てる景色は見えない...そう思って、道半ばで諦める人がほとんどだと思う。どれだけ歩いても歩いても先が見えないんだから、そう思うのは当たり前だ。でもね、才能がなくったって、ずっと歩き続ければ...いつか同じ景色を見ることができるって、私は思う。」

関「君には、もしかしたら才能がないのかもしれない。でも羽和くん、君は諦めずに走り続けることができるでしょ? 君は、バカみたいに体力があるみたいだからね。」

関「私は、君を応援してるよ。頑張れ、羽和くん。」

狗山「はいっす! ありがとうございます、幸先輩!」

関「そういえば、初めて会った時に言ってたけど...新沼くんが同じ高校だって知らなかったみたいだね?」

狗山「え? あぁ、よく覚えてるっすね。そうなんすよ! あいつ、どこいくのか聞いても、教えないの一点張りで。部活の自己紹介の時に、なんか見たことある顔のやつが...って思ったら...。」

関「もしかしたら...新沼くんは、君と一緒にバドミントンがしたかったのかもね。」

狗山「へ?」

関「うーむ...流石にこれは、よく考えすぎですかね?」

狗山「...そうっすよ、幸先輩。流石に、それはないっすよ。あの新沼っすよ?」

関「そうだね。あの新沼くんだもんね。」


狗山(M)中学最後の大会が終わった後、あいつに「高校でもバドミントンやるのか?」って聞いたら「わかんない。」って答えた。

狗山(M)強豪校からの誘いも全部断ったって聞いた。もしかしたらあいつは、高校ではバドミントン続ける気はなかったのかもしれない。

狗山(M)でも、あいつは続けてる。俺の隣で、俺の前で、得意げな顔して立っている。

狗山(M)「負け犬がきゃんきゃん吠えて、無様だね。」とか、なんとか言って上から見下ろしてくる。

狗山(M)その度に、俺はこう言うんだ。「ぜってぇ負かしてやるからなぁ!!」って。

狗山(M)あの言葉を、あいつは実現するのを楽しみにしてるのかもしれない。

狗山(M)目標を超えるのを、あいつは楽しみに待ってるのかもしれない。

狗山(M)でも、あいつは負けず嫌いだから...きっと、俺には絶対負けたくないと思ってるから、そこまで興味ないバドミントンも頑張ってるんだと思う。

狗山(M)すぐに楽にしてやるっすよ、新沼。その得意げな顔を、泣き顔に変えてやるからな!!
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