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167話「夏に白球〜前編〜⑨」
しおりを挟む今本「お前ら!! まだ勝負は終わってねぇぞ! むしろ、こっからが勝負だ!! 点差は、たったの三点! 向こうが五点とってんだ! 三点くらい余裕でとれるだろ!」
菊谷「たりめぇだ!!」
鶴森「まだまだこっから!!」
本島「福川さぁぁぁん!!」
山上「ホームラン、ぶっ放せぇぇぇ!!」
大賀「頼んます、福川さぁぁぁぁぁん!!」
関(M)九回裏、東咲高校の攻撃。9対6となり、点差は三点...しかし、選手もスタンドで応援する人々も、諦めるものは一人もおらず、大地を揺らすような大声援が球場内を包み込み、選手たちの背を力強く押していく。
実況「振り抜いた! センター前、落ちる!! 福川、センター前ヒット! 三点差を追いかける東咲高校、先頭打者が出塁しました!」
関(M)先頭打者が出塁し、粘りを見せる東咲高校ーーー六番、鶴森がレフトフライに打ち取られワンアウトになるも、声援は収まる気配はなく、更に勢いを増していく。
実況「これも上手く打ち返したぁぁ! レフトの前、落ちる! 甲柱のバットが止まらない!! これで今日、四安打!!」
今本「しゃぁぁ!! ナイスバッチ甲柱ァァァ!!」
山上「てめぇ、打ちすぎだろ!! よくやったぁぁぁ!!」
張間「よっしゃぁぁぁ!! ナイスナイス、甲柱くぅぅぅぅん!!」
関「いいぞいいぞ、繋いでいけぇぇぇ! 諦めるなぁぁぁ!!」
間宮「ファイトォォォ!!」
関(M)ワンアウト一二塁となり、ホームランが出れば同点というチャンスを迎え、球場内のボルテージは更に上がっていく。続くバッター、八番の本島ーーー
実況「アウトコース、これは...ボール!ボールです! 選びました、本島!四球!! これで、ワンアウト満塁!!」
関(M)ファールで粘りに粘り、四球を勝ち取った本島。これで、満塁ーーーホームランが出れば、逆転サヨナラ。打席に立つのは、代打、三年の吉村ーーー
実況「打ったァァ!! センターの前!! 三塁ランナー、ホームインッ!! 東咲高校、一点を返しました! これで、9対7!! ワンアウト満塁、まだチャンスは続く!!」
鶴森「吉村ァァァァァ!!」
石山「いける、いけるぞぉぉぉぉ!!」
大賀「繋いでいけぇぇぇぇ!!」
間宮(M)一点を返し、大いに盛り上がる球場。次の打者がファーストフライに打ち取られ、ツーアウトとなるが...誰一人不安がるものはおらず、みなが逆転を信じ、声を上げ続ける。
菊谷「頼む、悠也ァァァ!!」
福川「打てるぞ、絶対に打てるぞォォォ!!」
山上「絶対俺まで回せぇぇ! 死んでも回せぇぇぇ!!」
実況「さぁ、ワンストライクツーボール...第四球...!」
実況「打ち返したァァ!! サードの頭を超えた! 三塁ランナー、そのままホームイン!! 二塁ランナーは、三塁でストップ!!」
実況「二番、鈴田のタイムリーヒット!! これで、9対8!! 九回裏、食らいつく東咲高校!! まだ試合は終わらない!!」
張間「やったやったやったぁぁぁ!! これで一点差ぁぁぁ!!」
関「ナイスバッチーー!! いけるぞいけるぞぉぉぉ!」
間宮「つ、次のバッターは...!!」
ウグイス嬢「三番、遊撃手、今本くん。」
張間「いけいけ打て打て、ショートさぁぁぁぁん!!」
関「ここで決めろ、健ちゃぁぁぁん!!」
間宮「今本さぁぁぁぁん!! ファイトでぇぇぇす!!」
今本(おいおいおい...九回裏、ツーアウト満塁、点差は一点で打席にはキャプテン...野球の神様ってのは、どんだけドラマチックな展開がお好きなんだよ?)
鶴森「いけぇぇぇ! キャプテンンンン!!」
山上「テメェで決めてもかまわねぇが、最低でもヒット打てやぁぁぁ! わかってんだろうなぁぁぁ!?」
菊谷「絶対、ここで終わんねぇぞぉぉぉ!!」
石山「頼むぞ、キャプテンンンン!!」
大賀「今本さぁぁぁぁん!! 頼んまぁぁぁぁす!!」
今本(大丈夫だ...めちゃくちゃに落ち着いてる...。むしろ、落ち着きすぎて怖いくらいだ...。みんなの声も、ちゃんと聞こえてる...。)
審判「ボール!」
張間「よく見たよく見た!! いいよいいよーー!」
関「思い切っていけぇぇぇ!!」
間宮「ファイトォォォ!!」
今本(ボールも、よく見えてる...。今までで一番って言ってもいいくらいに見えてる...。ったく、プレッシャーに強すぎじゃねぇか、俺? さすがキャプテンだわ...!)
審判「ボール、ツー!」
今本(...なんでだろうな? 笑っちまうくらい、打てる気しかしねぇ...。もう、笑っちまうか? 楽しんじまうか? こんな機会、多分死ぬまで味わえねぇだろうしな。)
今本はニヤリと口角を上げ、真っ直ぐに投手を見つめる。投手は、捕手のサインに強く頷き、セットポジションに入る。
今本(さぁ、来いよ...来い、来い来い来い...! 絶対に打ってやる...決めてやるよ...! 俺は、まだまだ野球がやりてぇんだ...! もっともっとやりてぇんだ...! このメンバーで、夏を目一杯楽しむんだよ...! だから...あんたらには悪いけど、ここで決めさせてもらうっ...!)
金属の甲高い音と共に、白球が左中間へと勢いよく飛んでいく。
山上「打った!!」
大賀「いけぇぇぇぇ!!」
実況「ボールは、左中間へ!! レフト、センター、懸命に追う!!」
張間「落ちろ...! 落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ...!」
関「大丈夫、あの打球角度なら...!」
今本(大丈夫だ、絶対に落ちる! 落ちる、落ちる落ちる落ちる!!)
実況「センター、走る!走る! 間に合うか、どうか!?」
今本は、打球の行方を確認しながら、勢いよく一塁ベースを蹴り上げる。
今本(落ちろ...落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ!!)
今本「落ちろぉぉぉぉぉぉ!!」
センター、星は地面を蹴り上げ身体を浮かす。足を、腕を、グローブを力一杯、目一杯に伸ばし打球を追う。
星の身体が地面に大きな音をたて落下すると、勢いを殺しきれず、そのまま数メートル身体を伸ばしグラウンドを滑っていく。大歓声が巻き起こっていた球場内は、人が消えたかのように静寂に包まれ、選手、観客、皆が白球の行方を追っている。
星は、地面を滑らせた身体を起こすことなく、左腕を天高く掲げる。グローブの中に輝く、選手たちの努力が染み付いた白球ーーー試合の終わりを告げる大歓声が、球場に巻き起こる。
実況「捕っている捕っている! センター星、追いついたぁぁぁ!! ここで、試合終了ぉぉぉ!! 駒原、東咲の猛攻を振り切り、一点差を守り抜きました!! これで、三年連続の決勝進出ぅぅぅ!!」
今本「...嘘...だろ...?」
菊谷「ま、マジかよ...。」
鶴森「そんな...。」
福川「......!」
山上「クソ...クソクソクソ、クソがぁぁぁぁ!!」
今本(おい、ふざけんなよ...ふざけんなよ...! なんで、アレが捕れんだよ...? どうなってんだよ...? どうやっても落ちるだろ、普通はよ...!)
今本(ふざけんな...喜んでんじゃねぇ...はしゃいでんじゃねぇよ...! おい、待てよ...もう、終わりなのか...? 終わっちまったのかよ...? 嘘だって、言ってくれよ...。)
大賀(やっちまった...やっちまったよ...! 俺、やっちまった...! 何してんだよ...? なにやってんだよ、クソ野郎が...! てめぇは、なにやってんだよ...おいごら...クソが...! クソ...クソクソクソ...クソが...!!)
大賀(俺が......俺が......!)
今本(俺たちの夏...。)
大賀・今本(終わらせちまった......!)
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