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169話「夏に白球〜後編〜②」
しおりを挟む今本「すまねぇな、情けないとこ見せちまって。」
関「気にしないでください。話聞くくらいでよければ、いつでも呼んでください。」
今本「おう。ありがとな。」
関「気をつけて帰ってくださいね。」
今本「お前もな。」
関「......健斗。」
今本「ん?」
関「これからのことは、ゆっくりでいいんじゃねぇの? すぐに考えなくったっていいじゃん。」
今本「......。」
関「せっかく自由な時間ができたんだ。前向きに捉えて生きていったほうが、楽だと思うぜ。」
関「今年の夏、野球をしようがしまいが、健斗の自由だよ。」
今本「...だな。」
関「では、さようなら~。」
今本「...幸。」
関「なんですか?」
今本「変わったな、お前。いい意味で。」
関「よく言われます。そんなに変わりましたかね、私?」
今本「...お前は部活に後悔、残してくなよ。」
関「...言われなくても。」
関は手を振りながら、背を向けて去っていく。
今本「...さてと、俺も帰るか。」
今本「......帰る前に、顔出してくか。」
今本(M)俺が、試合をぶち壊した。俺が、みんなの夢をぶち壊した。それなのに、みんなは俺を責めようとはしない。誰一人、俺を責めようとはしない。それが、なんだか苦しかった。辛かった。お前のせいだって言ってもらえた方が、少しは気が楽になる気がした。
今本(M)俺のせいなのに...俺の...。
今本「ん? あれは...?」
グラウンドへと顔を出した今本の視界に、人影が映り込む。野球部一年、大賀 雄太がマウンドに立ち、ジッとホームベース方向を眺めている。
今本「おーい、大賀~。」
大賀「ん?」
今本「お前、何してんだよ?」
大賀「あんたこそ、何してんだよ?」
今本「俺か? 俺は、友達に慰めてもらってたわ。」
大賀「は?」
今本「いや~あんな終わり方したから、涙が止まんなくてなぁ~。んで、大賀も慰めてもらってたの?」
大賀「違ぇよ! 誰が泣くか!!」
今本「え? 泣いてたじゃん。試合終わった後、ベンチでも、ベンチ裏でも、バスの中でもーーー」
大賀「だぁぁぁ!! うるせぇよ! 黙れ黙れ黙れ!!」
今本「いや~あの時の大賀といったら...マジで...マジでさぁ...ふっ、ふふふふ...!!」
大賀「なんで笑ってんだよ、てめぇは!? ぶん殴るぞ!?」
今本「もしかして、あれか? 責任感じて、一人マウンドで...ってやつか? 青春だなぁ、大賀くんよ~。」
大賀「とっとと帰れ!! んで、くたばれ!!」
今本「責任、感じなくていいぞ。」
大賀「...は?」
今本「今日の試合、負けたのはお前のせいじゃない。俺のせいだ。俺が、最後の最後に...みんなが繋いでくれた勢い、止めちまったんだから。だから、あの試合はーーー」
大賀「俺のせいだ。」
今本「はい?」
大賀「確かに、あんたがアウトになって試合は終わった。でも、その前に俺がきっちりと抑えられていたら、そこで試合終了だった。あんたに打席が回ることもなかった。だから、俺のーーー」
今本「いやいや、俺のせいだって。」
大賀「俺だ。」
今本「俺だって。」
大賀「俺だ。」
今本「俺。」
大賀「俺!」
今本「俺!」
大賀「俺だ!!」
今本「何度も言わすな! あの試合終わらせたのはーーー」
大賀「おーれーだって言ってんだろうが!!」
今本「...ぶっ! ぶはははははは!!」
大賀「なんで笑ってんだ、てめぇは!? さっきから笑いすぎなんだよ!!」
今本「いや、だって...お前、どんだけ自分で責任負いたいんだよ...? ふ、ふふふ...!」
大賀「うるせぇ!! つーか、あんたも人のこと言えねぇだろうが!! ふざけんなよ、てめぇ!!」
今本「あーはいはい、わかったわかった。んじゃ、今回の試合に負けたのはお前のせいだ、大賀。お前のせいで負けたんだ。」
大賀「...そうだよ。」
今本「言われてみれば、お前が打たれなかったら俺まで打席回んなかったもんな? その通りだよな? 俺にとんでもなく重い責任を背負わせたのは、誰がどう見てもお前だよな? つまり、お前に全責任があるわけだよな? 俺は、何一つ悪くないよな?」
大賀「だから、そうだって言ってんだろうが!! いい加減にしろよ、てめぇ!!」
今本「つーことで、俺を酷い目に合わせた君には、罰を受けてもらう! 心して聞くように! 実行するように!」
大賀「はぁ!? 何言ってんだ、てめぇは!? そんなもん、やるわけーーー」
今本「負けんじゃねぇぞ、大賀。」
大賀「...は?」
今本「この先、何があっても負けんじゃねぇぞ。わかったな?」
大賀「......。」
今本「俺、めちゃくちゃに悔しいよ。悔しすぎて、暴れまわりてぇよ。あんだけ泣いたのに、今思い返しても泣きたくなる...そんくらい、悔しいよ。こんな悔しい思い、もうしたくねぇ。後輩にも、味わってほしくねぇよ。」
今本「できることなら、俺の手でなんとかしてやりてぇけど...俺には、どうすることもできない。だから、大賀...頼んだ。」
大賀「...言われなくても、わかってるよ。」
大賀「夏だけじゃねぇ...秋も、春も、練習だろうがなんだろうが、負ける気は一切ねぇ。卒業するまで...いや、卒業しても全勝だ。」
大賀「俺だって、二度とあんな思いはしたくねぇ。もう二度と、ごめんだ。」
大賀「俺は、もう負けねぇ。あんたらの思いも、全部背負ってマウンドに立つ。あんたらの夢も、全部。全部だ。」
大賀「あんたらが叶えられなかった夢は、俺が絶対に叶える。だから、待ってろ。」
大賀「俺が、先輩たちを甲子園に絶対連れてく。」
今本「大賀...。」
大賀「だから、ちゃんと予定空けとけよ? わかってんだろうな?」
今本「......。」
大賀「...なんだよ?」
今本「...ふっ、ふふふふ...! あはははは!!」
大賀「なっ!?」
今本「お、お前...お前さぁ...! なに、それ...!? 甲子園に、連れてくってさぁ...! それは、俺じゃなくて、彼女とか、女子マネに言うセリフじゃ...! こんな、男に、お前...ふははははは!!」
大賀「笑ってんじゃねぇぞ、てめぇぇぇ!! 前言撤回だ!! てめぇは何がなんでもくるんじゃねぇぞ!! 予定詰め込んどけ!! わかったな!?!?」
今本「いやいやいや、あの大賀さんとの約束を破るわけには...ふふふふ...! あはははは!!」
大賀「いつまで笑ってんだよ、てめぇはぁぁぁぁ!!」
今本(M)俺のせいで...俺のせいで負けた試合。だから、みんなに謝ろうと思った。頭下げて、謝ろうって。
今本(M)でも、俺よりも先に頭下げてきた奴がいた。俺よりも先に謝ってきた奴がいた。先輩たちに、すんませんって。俺がぶち壊しましたって。本当にすんませんって。いつもの生意気さを投げ捨てて、人目憚らずボロボロ涙こぼしながら、何度も何度も謝ってきた。
今本(M)俺は、あの時の光景も...ずっとずっと忘れることはないだろう。
今本「なぁ、大賀。」
大賀「んだよ!?」
今本「キャッチボール、しねぇ?」
大賀「はぁ!? ふざけんな! やるわけねぇだろ!!」
今本「まぁまぁ、そういうなって。暇だろ?」
大賀「暇じゃねぇよ!!」
今本「よーし! んじゃ、やるぞ~!」
大賀「話を聞けぇぇぇぇ!!」
今本(M)俺の最後の打席...大賀の謝罪...嫌な思い出として、辛い思い出として、苦い思い出として、ずっとずっと頭の中に居座り続けるだろう。二度と消えることはないだろう。
今本(M)でも、それでもいいんだ。なんでかわかんねぇけど、俺の頭の中では、その嫌な思い出を押しのけて出てくるんだ。大賀が、マウンドで吠えてる姿が。大賀が、俺たちの仇をとってくれてる姿が。
今本(M)大賀が、甲子園の決勝で、マウンドで、吠えて、吠えて、最高の笑顔を咲かしながら、あの時みたいに泣いてる姿が。
今本(M)きっと大賀が、俺の嫌な思い出を押しつぶしてくれる。そんな気がするから。
今本「いくぞ~?」
大賀「とっとと投げてこいや!!」
今本「...大賀ー!」
大賀「んだよ!?」
今本「絶対、負けんじゃねぇぞ!!」
大賀「わーてるわ、ボケが!!」
今本(M)俺は、後輩に夢託して、前向いて歩いていくよ。
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