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212話「夏と恋と祭りと花火①」
しおりを挟む狗山「あ~今日もあちぃっすねぇ~。」
12時を少し過ぎた頃ーーー東咲高校の下駄箱前に置かれた自販機へとやってきた狗山は、ポケットから小銭を取り出し、飲み慣れた炭酸飲料を購入する。
ガコンと大きな音を立て落ちてきた飲み物を取り出し、蓋を開ける前に頬へピタリとくっつける。
ひんやりと冷えたペットボトルが顔の火照りを静めていき、狗山の顔に徐々に笑顔が咲き誇っていく。
ほんの数秒のひんやりタイムを堪能した狗山は、ニコニコと笑顔を咲かせたまま蓋を回す。
シュワっと炭酸が抜けていく心地いい音が耳に届くと、余韻に浸ることなく豪快に喉へと流し込む。
狗山「っ~~~!! これこれ、これっす~! 運動の後は、やっぱこれっすね~!」
関「いや~素晴らしい飲みっぷり! CMを見ているのかと思っちゃいましたよ~!」
狗山「ん?」
関「なんだか私も飲みたくなってきました。ってことで、私も購入!」
狗山「あっ、幸先輩! こんちわっす!」
関「やぁやぁ羽和くん、こんにちは。」
狗山「この前のお笑いの日ぶりっすね! あの時は、ありがとうございましたっす!」
関「こちらこそ、急だったのにありがとうございました。またなにかあった時は、ぜひ頼らせてください。」
狗山「お任せくださいっす! ところで、幸先輩は今日は部活っすか?」
関「そうですよ。金曜日は部室で宿題をすることになっているんです。」
狗山「へぇ~そうなんっすか。ってことは、今は休憩中っすか? 俺も今、部活の休憩中なんっす!」
関「いえいえ、私は一日で全部終わらせたので、暇つぶしにフラフラしているだけです。」
狗山「おぉ...! さすが幸先輩っす!」
関「羽和くんは、ちゃんと宿題やってるかい?」
狗山「はいっす! 毎日少しずつ、コツコツとやってるっすよ!」
関「素晴らしい! やはり、羽和くんは良い子ですね。うちのバカに、君の血を飲ませてやりたいよ...。」
狗山「爪の垢にしてくださいっす。」
関「ところで、君さっきからキョロキョロしてますけど...なにかあったのかい?」
狗山「え? あっ、気にしないでくださいっす。これは、新沼が近くにいないか確認してるだけっすから。」
関「君は新沼くんに命を狙われているのかい?」
狗山「いや、そういうわけじゃないんすけど...。」
西田「あっ、狗山さんに関先輩。こんにちは。」
狗山「ん? おぉ、西田。」
関「やぁ、西田くん。こんにちわ。君も部活かい?」
西田「はい。今日は午前練習だけなんで、もう終わりましたけど。」
狗山「そうなんすか。お疲れっす。」
西田「ありがと。」
関「西田くんは、ちゃんと夏休みの宿題やってるかい?」
西田「はい、やってますよ。あと3日くらいあれば全部終わると思います。」
関「素晴らしい! 部活で忙しい身でありながら、コツコツしっかりと...どうして皆ができていることを、あの子はできないんでしょうか...? 西田くん、今すぐうちのバカに血を飲ませてあげてくれ。」
西田「バカって、張間さんのことですか?」
関「その通りです。さてと、そろそろバカの集中力が切れて「遊びたい~!!」だとかなんとか言い出す頃だろうし...私は部室に戻ろうかな。」
狗山「お疲れ様っす、幸先輩。」
西田「お疲れさまです。」
関「君たちもお疲れさま。ではでは...さらばだぁぁ!!」
関はポケットから小さな球体を取り出すと、力任せに地面に叩きつける。
地面と勢いよく衝突した球体は弾け、中から白煙を立ち昇らせ狗山たちの視界を覆っていく。
西田「え!? なに、これ!?」
狗山「幸先輩!? 一体これは、なんすか!? ってか、なんでこんなもん持ってんすか!?」
数秒もしないうちに、夏の蒸し暑い風が白煙をさらっていく。視界が晴れる頃には、球体を投げた関は白煙と共に綺麗さっぱりと消えて無くなっていた。
狗山「って、あれ!? もういないっす!!」
西田「あの一瞬で...。関先輩って、不思議な人だよね。」
狗山「そうっすね...。でも、すごくいい人っすよ。なんだかんだで、色々できるみたいっすし。ハイスペックな人っす。」
西田「狗山さんは、関先輩と仲良いの?」
狗山「うーん、仲良いっていうか...まぁ、最近よく話したりするっすね。ほら、探偵部には彩香がいるし。新沼もよく探偵部メンツと絡んでるっすから、自然と話すようになったというか?」
西田「そうなんだ。」
狗山「そういや、お前は最近彩香とどうなんすか?」
西田「え? ど、どうとは...?」
狗山「お前、彩香のこと好きなんだろ?」
西田「......僕、狗山さんに言ったっけ?」
狗山「ん? .....あ。い、今のは忘れてくれっす...。」
西田「忘れられないよ...。一体誰から...? まぁ、別にいいけど...。夏休み入ってからは会えてないから、特になにもないかな。」
狗山「そうなんすか。好きなら、もっとこう...ガツガツ行った方がいいんじゃないっすか?」
西田「そ、そうかな?」
狗山「彩香はジッとしてるよりは、そっちの方がいいとは思うっすけどね。」
西田「狗山さんがそういうなら、きっとそうかも。」
狗山「日曜とか夏祭りだし、誘ってみたらどうなんすか? さすがにそれはやりすぎっすかね?」
西田「......。」
狗山「ん? 西田? どうしたんすか?」
西田「いや、その...夏祭り、一緒に行かない?って聞いてみたんだ...。」
狗山「おぉ、そうなんすか!? で、どうだったんすか!?」
西田「それが...。」
張間[北台ちゃんも一緒ならいいよ。]
西田「って、返信が返ってきまして...。」
狗山「...どんまいっす。」
西田「断られなかったのが、せめてもの救い...。」
狗山「お前、北台のことはどう思ってるんすか?」
西田「え? 北台さんのこと? 中学の頃からマネージャーとして色々お世話になってるし、気が利くし優しいし可愛いし、とってもいい子だと思うよ。」
狗山「それ、北台に言ってやれっす。」
西田「いや、北台さんは僕のこと好きだからさ...なんか、こう...。」
狗山「あぁ、そうだったすね...。お前も、色々と大変っすね。」
西田「狗山さんは、気になってる人とかいないの?」
狗山「俺っすか? 俺は別に...。」
視線を空へと投げ出す、狗山。考えても浮かぶはずのない答えーーーなぜかふと、関の顔が浮かび始める。
狗山「いやいやいやいやいや!! 違う違う違う!! お、俺は別になんとも思ってないっす!! べ、別になんもないし! なーーんにもないっす!!」
西田「い、狗山さん、大丈夫...?」
狗山「へ? あ、あぁぁぁ、大丈夫! 大丈夫っす!!」
西田「そ、それならよかった...?」
狗山「お、俺、そろそろ部活戻るっすね!」
西田「あ、うん。頑張ってね。」
西田「......ね、ねぇ、狗山さん。」
狗山「なんすか?」
西田「狗山さんは、夏祭り誰かと一緒に行く予定ある?」
狗山「祭り? いや、ないっすけど。」
西田「あ、あのさ...お願いがあるんだけど。」
狗山「ん? お願い?」
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