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214話「夏と恋と祭りと花火③」
しおりを挟む夏祭り当日。
空は闇が覆っているが、祭りの会場はたくさんの屋台の光が闇を跳ね除け、周囲を明るく楽しく賑わせている。
関「いらっしゃい、らっしゃぁぁい! 今年もトロピカルな季節がやってきたよぉぉ! トロピカルな焼きそばが、今年もやってきたよぉぉぉぉ! 一つたったの500円! さぁさぁ、いらっしゃぁぁぁい!!」
トロピカル焼きそばという聴き慣れない単語を発しながら、豪快に焼きそばをヘラで混ぜ込んでいる男ーーー関は祭りを楽しませる側として参加しており、ねじり鉢巻で気合を入れ、周囲の客入れに負けない熱量で声を上げ、焼きそばを混ぜ続けている。
関「らっしゃいらっしゃぁぁぁい! トロピカルだよぉぉぉ!!」
張間「あ~~! 部長~~!」
関「おや、この声は...。」
張間「こーんばんわ!」
関「やぁ張間くん、こんばんわ。羽和くんに西田くん、北台くんも、こんばんわ。」
狗山「こんばんわっす、幸先輩!」
西田「こんばんわ。関先輩は、屋台してるんですね。」
北台「あなた、まだ高校生ですよね...?」
関「安心してください、バイトの手伝いです。」
北台「それでも、あまり納得できないんですけど...。というか、トロピカル焼きそばってなんですか...?」
関「トロピカルな焼きそばさ。お一つどうだい? 出来立てで提供しますよ!」
北台「わ、私は遠慮しておきます...。」
張間「そんなことよりも! 部長、見てくださいよ~! 綺麗な浴衣美人が、二人もいるんですよ~! ほらほら、北台ちゃん! こっちこっち!」
北台「え? あ、うん。」
張間「むふふ~! どうですか~!?」
関「うんうん、すごく似合ってるじゃないか! 美人な二人にはおまけしてやる...持ってけ泥棒!!」
張間「やった~~! 部長好き~~~!」
北台「あ、あの、私は大丈夫ですから...。」
関「いや~よかったねぇ西田くん、可愛い女の子たちに囲まれて夏祭りだなんて...君は今、大罪を犯してるんだから、帰り道には気をつけるんだよ~。」
西田「た、大罪なんですか...。」
関「そりゃもちろん。ところで、羽和くんは浴衣着ないのかい?」
狗山「え? 俺っすか? 俺は、ほら...ゆ、浴衣とかそういうもんは、彩香とか北台とか、可愛い奴が着るもんなんすよ!」
張間「やだ、羽和ちゃんったら♡」
北台「あんた、男だったら今頃モテモテよ。」
関「羽和くんだって、可愛いですよ。自信持ってください。」
狗山「......え?」
関「ですから、機会があったらぜひ見せてくださいね。」
狗山「え...あ、へ? か、か、かわ...!?」
張間「ぶ、部長...!」
北台「この人、絶対モテるわね...!」
西田「関先輩、間宮先輩はいないんですか? いつも一緒にいるイメージなんですけど。」
関「傑くんは新沼くんと夏祭り来てるはずだから、探せば見つかるんじゃないかい?」
西田「あ、そうなんですか。」
狗山「え!? 新沼が夏祭りきてんすか!?」
関「傑くんと来てるはずだよ。そんなに驚くことなのかい?」
狗山「あいつ、祭りとか人多いとこは嫌いだから...珍しいっすね。」
関「あぁ、そうなんだ。」
関(そんな情報聞いたら...。)
ヘラで焼きそばを混ぜながら、関は視線を後輩の張間へと向ける。
先ほどまでニコニコしていた張間の顔に笑顔はなく、頬が水風船のように膨れ上がっていく。
西田「ん? 張間さん、どうしたの?」
張間「べっつにぃ~! 部長、焼きそば! 早く!」
関「はいはい。」
張間「はい、お金!!」
関「私の奢りですよ。そのお金で、他のものも食べてきなさい。」
張間「よーーーし! いくぞ、お前らぁぁぁ! 今日は、やけ食いじゃぁぁぁぁぁ!!」
西田「やけ食い...って、張間さん!?」
北台「ちょっ、待ちなさいって! 何であんたはいつもいつもそうなのよ! 待ちなさいってばぁぁ!」
狗山「ったく...いつも元気っすね、あいつは。」
関「ほんとですよ。元気すぎて困っちゃいます。」
やれやれとため息を吐き出しながらも、関は手早く焼きそばをパックに詰め込み蓋をすると、割り箸を上に乗せ輪ゴムで止める。
関「羽和くん。」
狗山「はい、なんすか?」
関「どうぞ。私からの奢りです。」
狗山「え? い、いいんすか?」
関「そのかわり、お願い事を一つ聞いてくれないかい?」
狗山「お願い事? なんすか?」
関「張間くんのことです。せっかくの夏祭りなんだ、楽しい思い出を作ってあげてください。」
狗山「...彩香、なんかあったんすか?」
関「......。」
狗山「幸先輩?」
関は狗山の質問に答えることなく、黙ったまま人差し指を口元に当てる。
関の行動を見た狗山は、再度質問を投げることなく、同じように人差し指を口元に当てニコリと微笑む。
狗山「秘密のことっすね。深くは聞かないでおくっす。」
関「ありがと。羽和くんは優しいね。」
狗山「優しくなんかないっすよ。焼きそばの分、働くだけっす!」
狗山「幸先輩、屋台頑張ってくださいっす!」
関「ありがと。夏祭り、楽しむんだよ~!」
狗山「はいっす!」
関「いや~、ほんといい子だね、あの子。」
関「...張間くん、大丈夫かな?」
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