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258話「昨日の敵は今日の友④」
しおりを挟むお昼休みとなり、生徒はそれぞれ仲の良い子たちと集まり楽しげに会話をしながら空きに空いた胃袋に食べ物を放り込む。
間宮 傑は新沼との約束を果たすために、いつも食事をとっている教室から屋上へと移動し、持参した弁当を食していた。
間宮「今日は、少し風があって気持ちいいね。」
新沼「ですね。天気も良いし、過ごしやすいです。」
張間「毎日こんな日が続けばいいですね~!」
新沼「......。」
張間「ん? どうしたの、咲ちゃん?」
新沼「なんで、いるの?」
張間「え? 私?」
新沼「あなた。」
張間「それはもちろん、間宮先輩にお呼ばれしたので!」
新沼「...え?」
間宮「新沼さんって、張間さんと仲いいでしょ? だから、張間さんもいた方が新沼さんは楽しいかなって。」
新沼「な、なるほど...。お、お気遣いありがとうございます、間宮先輩!」
間宮「いえいえ。」
新沼(傑先輩の、バカァァァァァ!! 二人でご飯食べたかったから、勇気出して誘ったのにぃぃぃ! 変なところで優しさを出してこないでぇぇぇ! バカバカバカバカァァァァァ!)
張間「さぁさぁ、楽しく一緒にお食事しましょ! 咲ちゃん!」
新沼(なに、その笑顔!? なんなの!? もしかして、私のこと邪魔できたのが嬉しくて笑ってるの!? そういうこと!?)
新沼(い、いやいやいや...考えすぎ、考えすぎだって。そもそも、彩香ちゃんが傑先輩のことどう思ってるのかなんて知らないし。いつもみたいに、純粋に楽しんでるだけだよね? そうだよね? 彩香ちゃんって、別に傑先輩のことなんとも思ってないよね? え? 思ってないよね? ね?)
間宮「張間さんって、お弁当自分で作ってるの?」
張間「お弁当は、お姉ちゃんが作ってます。私、朝はギリギリまで寝てます。」
間宮「ちゃんと起きろ。」
張間「だって、眠いんだもぉーん! ってか、急にどうしたんですか?」
間宮「いや、前にお姉さんの負担になるからご飯自分で作ってるって言ってたじゃん? だから、お弁当もなのかなって思っただけ。」
張間「そういえば、そんな話しましたね。お弁当に関しては、お姉ちゃんが自分の作ったついでに作ってくれてます。」
間宮「話を聞けば聞くほど、ほんとに素敵なお姉さんだ...。これ以上、負担増やさないようにね。」
張間「言われなくてもわかってますよ!」
新沼(うぅ...せっかくお昼誘ったのに、話に入れない...! 二人の会話を眺めてるだけになってる...! このままじゃ、何もなくお昼が終わっちゃう...! ど、どうしよう...!?)
間宮「新沼さんは?」
新沼「へ!? あ、わ、私ですか!? 私は、えっと...うち、母子家庭なので、できる時は私が作ってます。美味しいかどうかは、わからないですけど...。」
間宮「そうなんだ。今日も、自分で?」
新沼「はい。大変ですけど、少しでも母の負担を無くせたらなぁと思って。」
間宮「新沼さん、すごく優しいね。僕も見習わなきゃ。」
新沼「いえいえ、そんなそんな! 見習うほどのことでは!」
間宮「いやいや、そういうことって中々出来ることじゃないと思うし、素敵なことだと思う。」
間宮「改めて考えると、お弁当作るのって結構時間かかることだし、その分早く起きなきゃいけないし...それを毎日するって、大変なことだなぁ...。僕も、たまには自分で作ろうかな?」
新沼「でも、頼れる時は頼ってくれた方が嬉しいって、うちの母は言ってましたよ。だから、お弁当を自分で作るのもいいですけど、作ってくれてありがとうって言葉を届けるだけでも、今はいいと思います。」
間宮「今思うと、ありがとうなんて全然言ってなかったかも...。お弁当が朝作られてるのは、当たり前に思ってたし...。今日、帰ったらちゃんとお礼伝えよ...。」
新沼「はい、それがいいと思います。」
張間(咲ちゃん、母子家庭だったんだ。私のとこも、親ほとんど家に居ないけど、それとはまた違う...って、違う違う違ーーーう! 今私が気にするべきところは、そこではない!!)
張間(咲ちゃんは、言った...自分で作っていると! つまりあれは、手作り弁当!! 漫画で読んだぞ...男という生き物は、女子の手作りという言葉に弱いと!! こ、このままでは...!)
新沼「間宮先輩は、お弁当で好きなおかずはなんですか?」
間宮「好きなおかずかぁ...卵焼きかな、やっぱり。」
新沼「そうなんですね。私も、卵焼き好きですよ。私は、甘めのやつが好きなので、自分で作ると甘くしちゃうんですけど。」
間宮「僕も、卵焼きは甘いのが好きかも。」
新沼「一緒ですね。もしよかったら、私の一つ食べますか?」
間宮「え、いいの?」
新沼「はい。三つありますので。美味しいかどうかはわかりませんけど...。」
間宮「じゃあ、お言葉に甘えて一つもらおうかな? ありがとう。」
新沼「はい、どうぞ。」
新沼(...あれ? なんか流れで、あーんってすることになっちゃってる...? で、でも、男の人ってこういうの好きだろうし、意識してもらうにはこういうことしていった方がいいのかも...? す、少し恥ずかしいけど...。)
張間(お、おいおいおい、待て待て待て! なんだ、それ!? なんだ、そのやり取り!? ってか、待て待て待て! あれする気か!? これは、確実にあれするだろ! あーん♡ってするだろ、絶対!!)
張間(ま、マズいマズいマズい!! 手作り弁当に好きな食べ物一緒、さらに女の子からのあーん♡ こんなん好きになるやろうがいの死のコンボ! このままでは、間宮先輩の心がーーー)
新沼「間宮先輩、口開けてください。」
新沼「はい、あーーー」
張間(さ、させるかぁぁぁぁぁ!!)
間宮の口へと近づいていく、卵焼きーーーしかし、卵焼きは間宮の口に到達する前に別の者の口の中へと吸い込まれていく。
新沼「...え?」
張間「ん~~♡ この卵焼き、めっちゃ美味しい~! 咲ちゃん、料理上手~!」
間宮「おい。」
張間「えへへ、ごめんなさ~い! 美味しそうだったんで、つい!」
新沼(な、な、なにしてんの、この子はぁぁぁぁ! せっかく頑張って...頑張ったのに...!! なんで邪魔すんのよぉぉぉぉ!)
張間(あ、危ねぇ...危なかった...! あのままでは、間宮先輩の心は咲ちゃんへと引っ張られていくところだった...! しかしながら、今の行動でハッキリとわかりました...わかりましたよ!!)
新沼(さっきのは、どう見ても意図的にやっていた...! それに、今のその顔...! もぐもぐしながらも、眼光鋭く私を見つめる、その顔...! やっぱり、この子...!!)
張間(咲ちゃん、絶対に間宮先輩のこと好きだ!!)
新沼(彩香ちゃん、絶対に傑先輩のこと好きだ!!)
無言でバチバチと火花を散らす二人。近くにいながらも、全く二人の想いに気づくことなくお弁当を食べ進める間宮ーーー屋上の入り口という遠くにいながらも、修羅場の始まりを感じとった、あんぱんと牛乳を手にした張り込み刑事スタイルの狗山と関。
狗山「あ、あぁ...!? は、始まっちまった...! 始まっちまったっす...!」
関「いつでも動ける準備を、羽和くん...!!」
狗山「は、はいっす...!」
張間「ま、間宮先輩!」
間宮「ん? なに?」
張間「喉、乾いてませんか!? 乾いてますよね!? そろそろ何か飲んだらどうですか!?」
間宮「え? いや、別にーーー」
張間「飲んだ方がいいですよ! この時期でも、熱中症になることはあります! 熱中症、舐めたらあかんで! 水分補給は、大事です!!」
間宮「あ、は、はい。飲みます...。」
新沼(え? なに? なんなの? いきなり水分補給を勧めて、何する気なの...?)
間宮「...ん? あれ?」
張間「あれれ~? どうしたんですか、間宮先輩~?」
間宮「おかしいな...水筒、持ってきてたはずなのに...。あれ? どこだ?」
張間「もぉ~間宮先輩ってば、おっちょこちょいですね~! 教室に忘れてきたんですか~?」
間宮「そうかも? いやでも、持ってきたはず...ってか、お弁当食べる前に飲んだ記憶が...あれ?」
張間「まぁまぁ、細かいことは気にしない気にしない! 忘れたのなら、私のイチゴ牛乳飲んでいいですよ! さぁ、遠慮せずに! さぁさぁ!」
狗山「...幸先輩。」
関「えぇ。私はハッキリと見ました。彼女が彼の水筒を目にも止まらぬ速さで背後に隠したところを。」
狗山「つまり、これは...。」
新沼(か、かかかかか、間接キス!! このままじゃ、傑先輩と彩香ちゃんが間接キスをすることになる!!)
張間(へへへ...この張間 彩香、恋愛漫画を読んでしっかり勉強してきましたよ...! 男の子ってば、こういうちょっとした事でも意識しちゃう生き物...! 間宮先輩が口をつけた瞬間に「あっ、間接キスに...」的なことを言って、さらに強く意識させる...! か、完璧だ...完璧すぎる作戦だぜ...! これで私が、一歩リーーー)
新沼「ありがとう、彩香ちゃん!」
張間「...はい?」
間宮の前に差し出された飲み物を、強引に奪い取る新沼。
そのまま流れるように、奪った飲み物を喉へと流し込む。
張間「ちょっ、おまっ!? あぁぁぁぁぁぁ!?」
新沼「傑先輩は、飲み物何が好きですか? 私は、イチゴ牛乳だったりフルーツオレだったり、甘いものが好きなんです~!」
間宮「そうなんだ。僕も、甘いものが結構好きかも。」
新沼「そうなんですね! 私たち、お揃いですね! はい、ありがとう彩香ちゃん!」
張間「こ、こいつ、全部飲みやがった...!!」
狗山「ゆ、幸先輩...!」
関「あんぱんが...あんぱんが喉を通らない...!」
狗山「お、俺もっす...!」
新沼「あ、そうだ! 傑先輩、今日部活行く前に、漫画返しに行きますね!」
間宮「わかった。続き持ってきてるから、持ってく?」
新沼「はい、ありがとうございます! 次どうなるのか、すごく楽しみです!」
間宮「いいところで終わるからね。僕も買った当初は、早く続きが読みたくてうずうずしちゃったよ。」
新沼「その気持ち、すごくわかります! 私、読んでる時からどうなるんだろうってドキドキしぱなっしでした!」
張間(くっ...! な、なんだ...なんなんだ...!? 一体、なんの話で盛り上がっているんだ...!? 早く言え、漫画のタイトルを...早く...! このままでは、私が会話に入れない...! このままでは...!)
張間(いや、待て! 仮に漫画のタイトルを咲ちゃんが口走ったとしても、私が知らないものであれば、会話に入ることはできない! だから、ここで待ちの体勢に入るのはおバカがやる行為! 私は、おバカではない! つまり、私がやるべきことは...これだ!!)
漫画の話で盛り上がる二人をよそに、張間は勢いよくお弁当を胃の中へとかきこんでいく。
張間「ごちそうさまでした!! はぁ~食べた食べた! 美味しかった~!」
張間「ふぁ~~ご飯食べたら、眠くなってきちゃった~! おやすみなさ~い!!」
わざとらしく大きな欠伸をして、ガラ空きとなっている間宮の膝を枕にするようにして横になる張間。
新沼(なっ...!?)
間宮「ちょっ、なに?」
張間「なにじゃないですよ、間宮先輩! 寝にくいので、もうちょっと寝やすいようにしてください!」
間宮「勝手に人の膝を枕にしといて、なんだその頼み方は?」
張間「ほらほら、はーやーくー!」
間宮「ったく...。」
張間「あ~これこれ、これですわ~! やっぱり、間宮先輩の膝枕は最高ですわ~! おっほっほっほ~!」
新沼(な、何やってんのよ、この子はぁぁぁぁ!? ひ、ひひひひ膝枕!? すごく親しい人としかできないやつ! 心を許し合ってないとできないやつ! そ、それを見せつけるかのように...!! む、ムカつくぅぅぅぅ...!!)
張間(へへへ...どうだ、咲ちゃん...! 君にはできないだろう、膝枕なんて! これは、私と間宮先輩だからこその...探偵部で築き上げてきたものがあるからこそできる技! あなたはそこで、羨ましそうに指でもしゃぶって見ているがいいわ!!)
狗山「あ...あぁ...!? どんどんヒートアップしていくっす...!」
関「マズいですよ...このままでは、非常にマズいですよ...!!」
狗山「ど、どどどどどうしましょう、幸先輩!?」
関「これ以上、火が広がる前に我々でーーー」
新沼「彩香ちゃん、さっきは飲み物全部飲んでごめんね! 代わりに、私の飲んでいいよ!」
張間「え?」
新沼「さぁ、遠慮せずに飲んでねぇ~!」
張間「え!? ちょっ、待っーーー」
新沼はニコニコと笑顔を浮かべたままペットボトルのキャップを外すと、横になる張間の顔めがけ容赦なく液体を注ぐ。
新沼「どう~? 喉潤った~?」
張間「おぼぼぼぼ!? 溺れ...おぼぼぼぼ!?」
新沼「え? まだまだ足りない? もぉ~彩香ちゃんってば~!」
張間「ぷはぁ!?!? てめぇ、何すんだこのやろう!! 私を殺す気か!? あのままでいたら、溺れてたぞ!?」
間宮「あ、あの...。」
新沼「ごめんなさい、傑先輩! 今、拭きますね!」
張間「おいこら、無視するな!! 拭く前に、私にしなきゃいけないことがあるでしょうが!!」
新沼「本当にごめんなさい、傑先輩...! 彩香ちゃんが、どうしても飲みたいと目で訴えてきていて...!」
張間「話を聞け!話を! というか、私のせいにしようとするな! 全部が全部、あんたのせいだ!!」
新沼「信じてください、傑先輩...!」
張間「やめろやめろやめろぉぉぉ! その上目遣いを、今すぐにやめんかぁぁぁい!!」
新沼「ちょっ、なにすんのよ!?」
張間「それはこっちのセリフじゃぁぁぁ!! 私の邪魔ばかりしよってぇぇぇ!!」
新沼「それこそ、こっちのセリフよ! 離して、このバカ!」
張間「バカはお前じゃぁぁぁ!!」
関「急げ、羽和くぅぅぅぅん!! 急いで消化するぞぉぉぉぉ!!」
狗山「は、はいっすぅぅぅぅ!!」
互いに爆発し、間宮がいることを忘れて揉み合う二人。
入り口から慌てて駆け出してきた関たちは、強引に張間たちを引き剥がし落ち着かせようとするが、張間と新沼は互いを睨みつけたまま威嚇を続け、一触即発の危険は終わることなく屋上に漂い続ける。
間宮(一体、どうしたんだろ...? なんで、こんなことに...?)
目の前で起こった出来事が自分のせいだとは全く思っていない鈍感男の間宮は「だ、大丈夫...?」と呟きながら二人の間に入ろうとする。
が、二人を引き剥がし今なお押さえつけている関たちに「これ以上刺激するな(っす)! 早く教室に帰れ(っす)!」と怒鳴られ、訳もわからずに教室へと帰っていった。
応援ありがとうございます!
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