なんでも探偵部!

きとまるまる

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265話「どうでもいい話ほど、盛り上がるものはない」

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 時は少し遡りーーー張間と新沼を仲直りさせるためにファミレスで作戦会議を行う、関と狗山。


関「...と、以上が作戦の内容となります。何か質問はありますか?」

狗山「......。」

関「...ありませんね? では、こちらの作戦でーーー」

狗山「いやいやいや、ちょっと待ってください! ストップストップストップ!」

関「羽和くん、意見があるなら手を挙げて。」

狗山「はい!」

関「どうぞ、羽和くん。」

狗山「伝えた後の、二人の精神状態が心配っす!! そのことについては、どうお考えですか!?」

関「「あれが、私たちの敵...! 咲ちゃん!」「うん、彩香ちゃん!」みたいな感じで、強敵に立ち向かうために手を取り合う...!という、アニメのような展開になりませんかね?」

狗山「「間宮先輩に、好きな人...!」「そ、そんな...! 私の、恋が...!」みたいな感じで、ハートがブレイクする可能性があると思われます! その作戦は、危険な気がするっす!」

関「まぁ、その可能性もなくはないですね。でも、多少のリスクを背負ってでも早期解決しなければ、取り返しのつかないことになりますよ?」

狗山「そ、それは...!」

関「羽和くん...君にも何かしらの影響が...! 今よりも、恐ろしいことに...!」

狗山「ひ、ひぃぃぃ!? それだけは、勘弁っす!!」

関「というか、私にはこれよりも良い案が思いつきませんので...何か、他に案があるかい?」

狗山「お、俺に至っては、何も思い浮かばないっす...。すんません...。」

関「では、多少のリスクはありますが、この作戦でいきましょうか。」

狗山「は、はいっす!」

関「仲本くんには、私からフォローしておきますので、羽和くんは安心してください。」

狗山「あ、あのぉ...一つ質問なんすけど...その、仲本先輩っすか?その方は大丈夫なんですかね...? 仮にも、あの二人なわけで...もし何かしらあったら...!」

関「あの子、女子テニス部ですから。大丈夫です。」

狗山「なんすか、その理由!? 女子テニス部って、そんなヤバいところなんすか!?」

関「色々とヤバいところなんで、興味本位で近づかないようにね、羽和くん。下手したら、食べられちゃいますよ?」

狗山「食べる!? 俺、食べられるんすか!?」

関「あそこは顧問も三年も個性豊かなメンツばかりですし、そこで培われた精神力はとても強固なものです。ちょっとやそっとじゃ傷一つ付きませんよ。」

狗山「す、すげぇっすね、その先輩...!」

関「まぁそれに、あの二人も傑くんの好きな人を傷つけるなんてことはしないでしょ。」

狗山「ま、まぁ、それはそうっすね...。」

狗山「あ、あと、も一つ質問いいっすか...?」

関「どうぞどうぞ。」

狗山「ちなみに、その先輩は間宮先輩のことどう思ってんすか...?」

関「私は仲本くんじゃないので詳しくはわかりませんが...見てる感じ、ただの幼馴染だとしか思ってないと思いますよ。傑くんの一方通行だと思います。」

狗山「そ、そうっすか...。なんでどいつもこいつも一方通行なんすか...?」

関「確かに、両想いの人いないね。まぁ、これもこれで青春ですよ。」

狗山「こんな悲しい青春、いらないっす...。」

狗山「ってかてか、あの二人はいつから間宮先輩のこと好きなんすかね? 彩香は、まぁ部活一緒だから、その...。」

関「一緒にいる時間、結構長いですからね。傑くん、あぁ見えて頼りになるし優しいし、彼女が悩んでる時に話聞いてあげたりしてたし...それの積み重ねじゃないですか?」

狗山「......。」

関「おや、どうしました?」

狗山「あ、いや、その...! お、同じ部活なら、幸先輩も...ほら、なんというか、幸先輩だって優しいし頼りになるし、それに色々とできるしカッコいいし頭もいいし...。」

関「たくさんのお褒めの言葉、ありがとうございます。私、とっても嬉しい...! 最近、私のこと褒めてくれる人全然いなくて...! 傑くんなんて、日に日に冷たくなる一方...! 部長、泣いちゃう...!」

狗山「あ、え、えっと...お、俺がいっぱい褒めるんで、なんかあったら言ってくださいっす!」

関「ありがとうございます...! 羽和くんの優しさが、とても沁みる...!」

関「と、話が逸れてしまいましたね。私の推測ですが...張間くんにとって、私のように一緒にバカやるタイプは「お友達」なんでしょう。だから、私には恋心は抱かないと思いますよ。」

関「彼女の恋愛対象は、たぶん「歳上で自分のこと支えてくれる人」だと思います。両親が県外で仕事していて、姉も仕事で家に一人でいる時間が多かったと思いますし...だからこそ、傑くんのように一歩引いて自分のことを支えてくれるタイプにドキッとくるし、友達以上のなにかを求めるのではないですか?」

狗山「おぉ...なんかすごく納得できるっす...!」

関「新沼くんは、そうですね...私たちが二人を尾行した日があったじゃないですか?」

狗山「あぁ、そういやそんなことあったっすね。」

関「あの時、新沼くんが男に絡まれたそうで。」

狗山「え!? そうなんすか!?」

関「私も話聞いて驚きましたよ。その後、傑くんがなんとかしたみたいで...その時からじゃないですか? あとは、綾小路くんを遠ざけるためとはいえ恋人のフリをしてイチャイチャベタベタしてましたし。」

狗山「確かに...そんな近い距離にいて、さらにはカッコいいところ見せられてとかしたら、誰だって惚れそうっすね。」

関「優しくされて、少し意識し始めて...ドキンッ♡って感じだと思います。」

狗山「なるほどっす...めちゃくちゃ納得っす...!」

関「言っておきますが、どちらも私の推測なので、間違ってる可能性もありますからね?」

狗山「了解っす! でも、なんかどっちの話も納得できるっす! やっぱ幸先輩はすごいっす!」

関「羽和くんといると、心が綺麗に洗われていくよ...! こんなにも素直に褒めてくれるなんて...! どっかの傑くんに見せつけてやりたい。」

狗山「間宮の傑さん、そんな冷たいんすか?」

関「冷たいどころの騒ぎじゃないですよ! 極寒! 寒すぎて凍るレベルです!」

狗山「幸先輩がこう言うんだから、相当冷たいんすね...。」

関「まぁ、前と比べたらハッキリと物事を言ってくれるようになったし、強い子に育ってくれたんでいいんですけどね。」

狗山「間宮先輩、前は違ったんすか?」

関「全然違いますよ~。ずっとビクビクオドオドしてるし、何でもかんでもお任せしますお任せしますで自分の意見ハッキリ言わない...さらには、ちょっとしたことですぐ涙目になるし、スーパーネガティブだから言葉にはすごく気をつけなきゃいけないし...。」

狗山「なんか思ってた以上に出てくるっすね...。」

関「おやおや、失礼しました。奥底に溜まってたものが溢れてきました。別に嫌いというわけではありませんので、ご心配なさらず。」

関「ただ、そういうタイプの人間と長いこと一緒にいるという経験がなかったので、最初はすごく大変でしたよ。」

狗山「そうだったんすね。幸先輩も、色々苦労してるんすね。」

関「苦労してないように見えます、私?」

狗山「うーん...なんというか、そういうのを感じさせないというか? 幸先輩が色々なんでもできるから、勝手にこっちがそう感じてるだけかもしんないんすけど...というか、なんかあっても隠してそうっす。」

関「ミステリアスな男の方がモテるって、おばあちゃん言ってましたから。」

狗山「なんか、聞き覚えのあるセリフっす。別に隠し事があるのは悪いことじゃないと思うし、幸先輩の場合は心配させたくないとかそういう思いで隠すと思うっすけど...溜め込みすぎはよくないっすよ?」

狗山「俺、幸先輩には色々と世話になってるっすから。もしなんかしらあったら、俺を頼ってくれると嬉しいっす! 俺、なんでも全力で取り組むっすよ!」

関「羽和くん...! いい子すぎて、私泣きそう...! 人の優しさって、こんなにも温かいんですね...!」

狗山「間宮先輩に言った方がいいっすか...もう少し優しくしてあげてって...?」

関「半分冗談なんで、本気にしなくても大丈夫ですよ。」

狗山「半分は本当なんすか...。」

関「まぁ、仲がいいからこそですよ。君と新沼くんのとこみたいな感じです。」

関「話がだいぶ逸れてしまいましたね。戻しましょうか。仲直り大作戦に関して、なにか他に質問等はありますか?」

狗山「......。」

関「どうぞ、遠慮なく言ってください。」

狗山「...俺、どっちを応援すればいいんすかね...?」

狗山「俺にとって、新沼も彩香も大切な友達っす...。だから、二人には幸せになってほしいっす...。」

関「一夫多妻制でない限り、どっちもは多分無理ですよ。」

狗山「そうっすよね...。でも、どちらか片方を応援ってのは...なんというか...片方を裏切ってるというか...心が痛くなるっす...。」

関「羽和くんは、本当に心優しい子ですね。」

関「...では、こうしましょう。」

関「羽和くん。」

狗山「は、はいっす。」

関「私は、張間くんを応援します。私としては、新沼くんよりも張間くんと関わりが深いですから、張間くんに頑張ってほしいと思います。」

関「これで、羽和くんも張間くんを応援することになったら、新沼くんが一人ぼっちで可哀想なことになります。だから、あなたは新沼くんを応援してあげてください。」

関「羽和くん、私のワガママを聞いてくれるかい?」

狗山「...幸先輩も、すごく優しい人っすね。」

関「優しさなんかじゃありませんよ。羽和くんまでこちら側に引き込んでしまったら、後で新沼くんに何をされるかわかったもんじゃないですから。自分のためです。」

狗山「...そういうところが、優しいんすよ。幸先輩。」

狗山「わかったっす! 俺は、新沼を全力で応援するっす!」

関「そうしてください。私は、全力で張間くんを応援するっす!」

狗山「ま、真似しないでくださいっす!」

関「あははは~! いいじゃないかいいじゃないか!」

狗山「うぅ...! じゃ、じゃあ俺は、幸先輩の真似するっす!」

関「いいですよ~。それでは今から、口調の交換しましょう。羽和くんは~っす!禁止ですよ。」

狗山「余裕っす、そんなの!」

関「はい、言った~。羽和くんの負け~。」

狗山「え!? あっ、今のは違うっす...じゃなくて、違う! まだ始まってないっ...な、ない!」

関「今のでよくわかりました。君には無理っすね。」

狗山「む、無理じゃないっす! じゃ、じゃない!!」

関「もう諦めなさい、羽和くん。頑固な油汚れと同じくらい染み付いてるっすよ。」

狗山「その言い方、やめてくださいっす! すごく汚いっす!!」

関「ところで、君はいつから~っす!って言ってるんすか?」

狗山「いつから? いつから...というか、幸先輩はいい加減真似やめてくださいっす! なんか恥ずかしいっす!」

関「あははは~すまないすまない。」

狗山「次真似したら、怒るっすよ!」

関「羽和くんに怒られるのは嫌ですから、もうしませんよ。で、いつからなんですか?」

狗山「うーん...いつからかは覚えてないっすけど、かずにぃ...兄貴の真似してたのは覚えてるっす。なんか面白くて、ずっと真似してたっす。」

関「なるほどなるほど。君の一人称が俺なのも、お兄さん譲りなんですね?」

狗山「よくわかったっすね。小さい頃からずっと兄貴にべったりだったんで、自然とそうなったっす。」

関「羽和くんは、お兄さんのこと大好きなんですね。」

狗山「まぁ、ずっと一緒に遊んでくれてたんで。バドミントン始めたのも、兄貴の影響なんすよ!」

関「ほうほう。すごく仲が良くて羨ましいですよ。」

狗山「幸先輩は、兄弟いるんすか?」

関「いえ、一人っ子です。ですから憧れますよ、兄弟ってものに。まぁ、いたらいたらで毎日喧嘩してそうですけどね。」

狗山「そうっすか? あ、でも幸先輩が弟で兄貴がいたら、喧嘩してそうっす!」

関「でしょでしょ?」

狗山「弟とか妹は、すごく可愛がってそうっす!」

関「私のイメージ、そんな感じなんですねぇ。」


狗山(M)幸先輩と、新沼たちのことでいっぱい話した。それ以外のことも、いっぱい話した。思ってた以上に話してた。


店員「こちら、レシートです。ありがとうございました。」

関「ごちそうさまでした。」

狗山「ご、ごちそうさまでした!」

関「さてさて、帰りましょうか。」

狗山「あ、あの!」

関「はい、なんですか?」

狗山「いや、あの、その...お、俺が相談したいって誘ったんす...。だからーーー」

関「口止め料ですよ。」

狗山「へ? 口止め?」

関「はい。なんか言わなくてもいいこともペラペラと話してしまった気がするので。特に、傑くんのこと。なんで、口止め料です。」

関「羽和くんは、こういうことしなくても言わないと思いますが、念には念をです。私、これ以上傑くんに冷たくされるのはごめんですからね!」

関「あと、私バイトしてますので、羽和くんよりはふところ潤ってると思います。ご安心ください。」

狗山「お、俺が色々言う前に言うの、やめてくださいっす!」

関「だって羽和くん、わかりやすいんだも~ん。」

狗山「うぅ...! なんかわかりやすいって言われるの、良い気分じゃないっすぅぅ!」


狗山(M)気にしないで。そう言っても、俺は気にしてしまう。だからこの人は、気にしないでとは言わない。ちゃんとした理由を、しっかり言ってくれる。俺が納得してしまう理由を。安心する理由を。

狗山(M)わかりやすいと言われるのは、正直あまり良い気分じゃない。なんか、単純って言われてるような気がするから...。でも、なんでだろ...?

狗山(M)幸先輩このひとには、別に言われてもいいやって、思える。なんでかわかんねぇっすけど。


狗山「幸先輩、今日はほんとありがとうございましたっす! 俺、めちゃくちゃ助かりました!」

関「いえいえ。こちらこそ、ありがとうございました。」

狗山「いやいや、俺はお礼を言われるようなこと何にもしてないっすよ!」

関「そんなことはありませんよ。私も、彼女たちの恋愛事情に少し頭を抱えてましたので、今回こうして吐き出せたことは私にとって非常に良いことでした。ですから、お礼を言わせてください。」

狗山「そ、そうなんすか。なら、よかったっす!」

関「えぇ。また何かしらあったら、相談させてください。」

狗山「はい! 俺でよければ、いつでも話聞くっすよ!」


狗山(M)なんでもできる人に、頼りになる人に、頼ってもらえる。なんか、すごくすごく嬉しかった。多分誰にも話してないであろう悩みを、俺に打ち明けてくれた。それが、すごくすごく嬉しかった。

狗山(M)幸先輩といると、なぜか嬉しいことがたくさんある。なんでかわかんないけど。そんで、すっげぇポカポカあったかい気持ちになる。なんでなのか、全然わかんねぇっすけど。

























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