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330話「終わりはいつか必ず来る④」
しおりを挟む結局、関の居場所を知ることができなかった二人は、当初の目的地である生徒会室へと歩みを進めていた。
牛寅「......!」
猪山「大丈夫か、灯?」
牛寅「大丈夫じゃありません、モヤモヤします。すごくイライラします。あのクソやろう...今度会ったら一発ぶん殴る...!」
猪山「少し落ち着け。あいつらも、別に悪気があってやったわけではない。許してやれとは言わんがーーー」
牛寅「では、あのクソみたいな遊びは一体どういう経緯で行われていたのでしょうか...!?私には、私をバカにする以外の理由が見当たりません...!どんな理由であれ、私は絶対にやつを許しません。絶対に。どんなことがあっても。やつを一発分殴るまではーーー」
木江「会長、灯先輩、三年間お疲れ様でした!」
鹿野兎「お疲れ様でした!」
馬鳥「お疲れ様でした~!」
卯ノ森「お疲れ様ですわ!」
牛寅「......へ?」
苛立ちを隠さぬまま生徒会室の扉を開けた牛寅ーーー視界に映り込むのは、にこやかに二人を出迎える後輩の姿。小綺麗に飾り付けされた、居心地のいい室内。
牛寅「...え?なに、これ...?」
猪山「やはりな。こんなことだろうと思った。」
馬鳥「あはは~!やっぱ会長にはバレてましたか~!」
卯ノ森「ちょっと、どういうことですの!?バレてたのなら、サプライズが台無しではないですか!?」
鹿野兎「わかりやすい足止めだったから、バレてても仕方ないかも。」
卯ノ森「でしたら、もっとわかりにくいものにすれば良かったのでは!?」
鹿野兎「わ、私に言われても...!」
猪山「別に、生徒会室でなくてもよかっただろう。」
木江「色々と準備は大変でしたけど、せっかくなら思い出がたくさんある生徒会室でやりたいと思いまして。」
牛寅「......。」
馬鳥「あれ?あかりん先輩、どうしました~?」
卯ノ森「やっぱり、あれですわ!お疲れ様でした会なのに、地味すぎて言葉を失っているのですわ! 私が出した案にしていれば、こんなことにはならなかったのに!」
鹿野兎「いやいや、沙月ちゃんが出した案にしてたら、違う意味で言葉失っちゃうから...。」
馬鳥「板前さんやらシェフやら呼ぶのは、流石にね~。」
卯ノ森「一体それのどこがいけないのよ!?」
木江「学生がやるお疲れ様会のレベルを超えてるってことだよ...。」
鹿野兎「私たちは、まず沙月ちゃんの金銭感覚をどうにかしないといけないね...。」
馬鳥「このまま放っておいたら、問題ばっかり起こしそうだしね~。あははは~。」
卯ノ森「失礼ですわよ!この私が、問題なんて起こすはずがないじゃないの!」
木江「本人に自覚症状がないのが、さらに辛い...。」
鹿野兎「私、この先やっていけるかな...?」
馬鳥「あははは~二人とも、暗すぎでしょ~!もっと明るくいこうよ~!」
猪山「やはり、任せるとなるとまだ少し不安が残るな。」
牛寅「......。」
猪山「...灯?」
牛寅「あ、は、はい!なんですか!?」
猪山「...お前、泣いているのか?」
牛寅「え!?な、な、何言ってるんですか!?私は、別にーーー」
馬鳥「会長の言う通り、あかりん先輩泣いてるじゃん~。泣くほど気に入ってもらえたようで、俺たち一安心ですよ~!ね、たっつー?」
牛寅「だ、だから、私は泣いてなんかーーー」
鹿野兎「う、うぅ...!あ、灯先輩...!本当に...本当にお世話になりました...!私、灯先輩がいなかったら、今頃...うぅ...!」
牛寅「ちょっ、凛ちゃん!?なんで泣いてるの!?泣かないでよ!」
卯ノ森「そうですわよ、凛先輩!二人の泣き顔なんて見たら、私も...わ、わだぐじも......!う、うぅぅ...!!」
牛寅「なんであんたたちが泣くのよ!?マジでやめてよ!私まで泣いちゃうじゃん!」
馬鳥「いやいや、もう泣いてますって。あかりん先輩~!」
牛寅「だから、泣いてないっての!」
馬鳥「こういうところは、素直になってもいいと思うんだけどな~。会長は、どう思いますか~?」
鹿野兎「か、会長...!私、会長にもたくさんお世話になって...!本当に、感謝してもしたりないくらい...それくらい、会長にはーーー」
猪山「お前たち、俺はもう会長ではないぞ。会長は、お前たちの後ろにいる男だ。間違えてやるな。」
鹿野兎「え?...あ。」
馬鳥「そういや、そうだった。ごめんね、たっつ~。」
木江「いや、別に気にしてないからいいよ。それに、僕もまだ全然慣れてないし実感もないし。」
馬鳥「ってことで、今日から会長じゃなくてひかりん先輩って呼ばせてもらうので、よろしくお願いします~ひかりん先輩~!」
木江「陽太...お前、すごいな...。」
馬鳥「ん~?なにが~?」
鹿野兎「ひかりん先輩...。」
卯ノ森「ぷっ...!全然似合いませんわ...!ぷぷぷっ...!」
鹿野兎「ちょっ、沙月ちゃん失礼だって!」
猪山「別に呼び方はなんでも構わん。好きなように呼べ。お前もな、灯。」
牛寅「え?あ、はい!?」
猪山「さっき言った通り、俺はもう会長ではない。だから、会長と呼ばれても返事はしないからな。覚えておけよ。」
牛寅「あ、は、はい! え、えっと...じゃあ、なんと呼べばーーー」
馬鳥「あかりん先輩、名前で呼び合うチャンスですよ~!やりましたね~!」
牛寅「は、はぁぁ!?な、何言ってーーー」
鹿野兎「灯先輩、おめでとうございます...!」
牛寅「なにが!?何がおめでとうなの、凛ちゃん!?」
卯ノ森「今日は、二人にとって特別な日になること間違いなしですわ! じぃ、急いで録画の準備よ!」
じぃ「かしこまりました、お嬢様。」
牛寅「なにしようとしてんのよ、あんたは!?というか、いつからいたんですか、あなたは!? ちょっ、ビデオカメラ構えないでください!こっち見んな!!」
牛寅「ちょっと、生徒会長!なにボーッと見てんのよ!?この状況、なんとかしなさいよ!早く!」
木江「え!?ぼ、僕ですか!?というか、これ会長の仕事なんですか!?」
牛寅「あたり前でしょ!あなたは、会長の何を見て来たの!?ほら、早速仕事よ!早く早く!」
木江「いや、早くって言われても...!」
馬鳥「あははは~!頑張れ、新会長~!」
木江「いや、何をどう頑張れと!?」
猪山「......。」
猪山(今日で俺は生徒会の人間ではなくなる。それが、これほどまでに寂しく思う日が来るなんてな。自分が思っていた以上に、生徒会という場所に居心地の良さを感じていた。)
牛寅「ほーら、早く!」
木江「え、えっと...き、君たち、そのーーー」
馬鳥「いやいや、君たちって...どうしたのさ、会長~?なんかいつもと違いますよ~?」
木江「う、うるさいな!というか、会長って呼ばないで!まだ慣れてないから!」
馬鳥「慣れてないならどんどん呼ばないと、永遠に慣れないよ~会長!」
木江「そ、そうかもだけどさ...!」
鹿野兎「ふふふ...!あんな辰巳くん、なかなか見ないかも。」
卯ノ森「そうですわね!いつもは、なんだかんだしっかりしてますし!」
鹿野兎「なんだかんだって...。」
卯ノ森「しっかりしなさい、会長!あなたは、会長なんですわよ!」
鹿野兎「頑張れ、会長!」
木江「ふ、二人まで...! お、思い出せ...こんな時、会長はどうやって乗り切ってた...?思い出せ思い出せ...!」
猪山(...良さを感じていたのは、きっとこのメンバーだったからだろうな。毎度毎度うるさいメンバーだったが、今思うと、それも良さの一つだったな。)
猪山「俺の真似事をしても、お前にはきっと合わんぞ。だから、やめておけ。」
木江「は、はい...。」
猪山「わからないのなら、周りに聞け。会長だからと、なにも一人で全部背負い込まなくてもいい。わかったな、会長?」
木江「は、はい!ありがとうございます、会長!」
馬鳥「あははは~!会長が会長って呼んでたら、もうわけわかんなくなるじゃん~!しっかりしてよ、会長~!」
木江「あ、そ、そうだった...。じゃあ、なんて呼べば...?」
馬鳥「だから、ひかりん先輩でいいじゃん~。」
木江「いや、さすがにそれは...。」
卯ノ森「呼び方はなんでもいいって言ってたんだから、ひかりん先輩でいいんですわ!ひかりん先輩...ぷっ、ふふふ...!」
猪山「卯ノ森、お前はその呼び方禁止だ。わかったな?」
卯ノ森「えぇ!?どうして私だけ!?なんでなの!?」
牛寅「そんなの、言わなくてもわかるでしょ。はぁ...後で説教だからね。」
卯ノ森「こんな時まで!?そんなの、絶対に嫌ですわ! 凛先輩、助けてください!」
鹿野兎「えぇ!?わ、私!? あ、え、えっと...そういうのは、会長に...。」
木江「何でもかんでも僕に振るのやめてくれないかな!?」
馬鳥「あっははは~!この先やっていけるか、不安でいっぱいだよ~!あははは~!」
木江「笑ってる暇あるなら、助けてくれないかな!?」
馬鳥「は~い会長、お任せくださ~い。」
お疲れ様でした会は一向に始まる気配はなく、いつもと変わらぬまま騒ぐ生徒会メンバー。その様子を、扉の隙間からひっそりと見つめる探偵部の三人。
三人は、楽しそうな会話のやり取りから視線を外し微笑み合うと、静かに静かに扉を閉めて、部室へと帰っていった。
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普通にめっちゃおもろい
そう言ってもらえてすごく嬉しいです!ありがとうございます!!
これからもちょこちょこと更新していくので、またお時間ありましたら読んでくださると嬉しいです!😊
おもしろい!
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感想ありがとうございます!