愛されない王女は世界を壊す

夢花音

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1章《赦されざる者たち》

1話 双子の王女

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エルディア王国に、ふたりの王女が生まれた。
ひとりは花の王女リリス。もうひとりは雪の王女セレナ。
同じ日に、同じ母のもとに生まれながら、ふたりの運命は最初から違っていた。

リリスは、春の陽だまりのように明るく、誰からも愛される存在だった。
金色の髪は花びらのようにふわりと揺れ、微笑めば人々は自然と心を和ませた。
無邪気で、優しく、純粋で、リリスを嫌う者など宮廷には存在しなかった。

一方で、セレナは違った。
透き通るような銀髪に、凍てつくような青い瞳。
美しいはずのその姿は、人々には「冷たすぎる」と映った。
感情をあまり表に出さないセレナは、次第に「愛されない王女」として扱われていく。

幼い頃、彼女は何度も試みた。
リリスのように笑おうとした。優しい言葉をかけようとした。
だが、どれだけ努力しても、振り向くのはリリスに向けられる愛だけだった。

家族でさえ、セレナに向ける視線は冷たかった。
居場所を求めた小さな少女は、やがて静かに心を閉ざす。
愛されることを諦め、期待することすらやめてしまった。

雪が静かに降り積もるように。
セレナの孤独は、音もなく深く、心の奥に降り積もっていった。



 政略結婚と身代わり

王国に訪れたのは、一通の書状だった。
隣国ザイレル帝国より――「皇帝の后として、エルディア王国の花の王女を迎えたい」と。

ザイレル帝国は一年中冬の国。広大な領土と圧倒的な軍事力を誇るその国は、王国にとって無視できない存在だった。
王たちは考えた。この縁談を断れば、帝国の怒りを買うだろう。しかし、王たちは花の王女を差し出すことに、心を痛めた。
天真爛漫で天使のような花の王女に冷たい帝国の地で、皇帝の妻として生きることは、あまりに過酷で哀れだと嘆き悲しんだ。

そして、誰かが囁いたのだ。
「花の王女ではなく、雪の王女を送ればいい」と。

冷たい国に、冷たい姫。
ふさわしいではないか。
誰にも愛されず、目立たぬ存在。たとえ何かあったとしても、王国には痛手にならない。

密やかに、決定は下された。
リリスの代わりに、セレナを帝国へ送ると。

セレナは何も知らぬまま、決して戻れぬ旅へと送り出された。
王国の誰もが、彼女がどうなるかなど、気にも留めなかった。

それが、すべての悲劇の始まりだった。



――偽物だ。

嫁がされてきたセレナを一目見て皇帝レオンハルトは自分が求めた花の王女ではないとわかった。
皇帝レオンハルトの声は、氷の刃のように冷たかった。

「送り返せ。リリスを嫁がせよ。それができぬなら、お前たちの国を滅ぼすまで。」

玉座の間に響き渡ったその宣告に、母国からの使者は蒼白になった。急ぎ母国に帰還し国王に伝えると慌てた母国は釈明を試みる。

「セレナは勝手に向かったのでございます。母国は関与しておりません。リリスの輿入れの準備は整っております。セレナにつきましては返されても困るのでお好きに処分して頂きたい」

情けない弁明に、レオンハルトは吐き捨てるように言った。

「塔に閉じ込めて静かにさせろ。お前たちに任せる。私を煩わせるな。」

それだけ言い残すと、彼はセレナの存在すら忘れたかのように背を向けた



塔の中で、セレナは日々を数えることさえ忘れていた。

窓の外には、ただ白い雪が降り続く。
食事も、飲み水も、これまで一度も出されることはなかった。毛布1枚で震えながら
声をかけてくれる者も誰もいない部屋を悲しげに見つめた。
塔の扉の向こうには、冷たい沈黙だけが広がっていた。

なぜこんな仕打ちを受けるのか――
セレナは考えた。そして、結論に辿り着いた。

「皇帝が命じたのだ」

静かに暮らす、というのは、
生きながら朽ちること。
誰にも知られず、誰にも愛されず、
ただ一人、死を待つこと。

それが、この地に送り込まれた自分への「処分」なのだと。
彼女はそう信じた。

かつて、家族にも疎まれていた。
今また、異国で同じように拒絶された。
生きる価値のない存在なのだと、深く深く、心に刻み込まれた。

誰も自分を愛さない。
誰も自分を救わない。

ならば――死も、仕方のないことだろう。

心も身体も、冷たく凍りついていった。
小さな灯火だった希望さえ、セレナの中から消えようとしていた。

そして、とうとう力尽き、石の床に崩れ落ちたそのとき。

彼女の中で、微かな何かが――目を覚ました。











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