2 / 30
1章《赦されざる者たち》
2話 塔の幽閉
しおりを挟む
寒さと、ひもじさに力尽き、床にたおれたまま動けなくなり何日が過ぎたのか。
寒さも感じなくなり、肌は乾き、腹は痛み、指先も瞼さえ動かすことが出来なく、死の影が覆いかぶさる。
意識が遠のく中で、哀しみと憎しみだけが大きくなり広がっていった。
突然、セレナの脳裏に、鮮やかな光が走った。見慣れないだが確かに知っている景色が次つぎと流れてきた。
広大な空の下で魔法を操る自分。
星々をも味方にし、世界の理をねじ伏せた自分。
かつて、誰よりも強く、誇り高かった――偉大な魔導師の記憶。
『お前は……こんなところで終わる存在ではない』
内なる声が、かすかに囁く。
忘れていた。
失っていた。
けれど確かに、自分はかつて、恐るべき力を手にしていた。
セレナの胸に、微かな熱が宿った。
それは命の灯火ではなく、復讐への渇望だった。
「……まだ、終われない」
震える指先に、魔力が戻ってくる。
凍える空気を押しのけ、微かな氷のきらめきが舞った。
セレナはその力を掴み取る。
――絶対に、許さない。
私を見捨てた家族も、偽りの愛も、無関心の世界も。
今度は、自らの力で、すべてを終わらせるために。
塔の中に、冷たい風が吹き荒れた。
目覚めた魔法の中でも得意とした氷魔法がセレナの周囲に凍てつく光を降り注いだ。
そして、彼女は立ち上がった。
かつての王女ではない。
憐れな生贄でもない。
冷徹な魔導師――その誕生の瞬間だった。
目を閉じ自分の中の魔力を確認する。
(大丈夫ね。逃げる事は出来きるわ)
そう確信すると彼女は、血の滲む指先で、壁に言葉を刻んだ。
壁に滲む血の文字が、闇の中に浮かび上がる。
「リリスも助けてはくれなかった」
それを書き終えたセレナは、短く息を吐いた。
もう、誰も信じない。
たった一人で、生きていく。
赤い文字だけが、彼女がそこにいた証だった。
塔の扉は、厚く重たい木でできていて、固く鍵がかけられている。
セレナは最後の力を振り絞りそっと指先を錠前に向け、低く呟いた。
「――開け。」
魔力の糸が鍵穴に入り込み、内部の機構を静かに解きほぐす。
カチリ、とわずかな音。
それだけで扉は自然に開いた。
音を立てず、気配を消すように、セレナは外へと踏み出した。
外の空気はひんやりとしており、肌に触れる冷気が清々しい。
地面は湿り気を帯びており、夜の闇が周囲を包み込んでいる。
振り返ると、開いた扉が見える。
セレナは再び指先をかざし、もう一度魔法を使った。
カチャリ、と音を立て、扉の鍵が再びかかる。
塔の内部は無人のまま、静かに封じられた。
誰にも気づかれることはない。
彼女がここを出たということも。
セレナは、暗闇に包まれた世界へと足を踏み入れた。
――半年後。
皇帝の命によってあの塔を訪れた家臣によって、ようやく「王女が消えた」ことが知られることになる。
それまでの間、セレナの存在は誰にも気づかれないまま、静かに、闇に溶けていった。
嫁いできて半年後に、リリスの誕生日にパーティーを開くことになった。
双子の姉妹であるセレナとともに祝いたい——幼い頃から抱いていた純粋な願いを、リリスは皇帝に告げた。
「どんな願いも叶えてやろう」と言った皇帝は、一瞬だけ表情を凍りつかせた。
……セレナ。
半年前、怒りにまかせて塔に閉じ込めたあの娘。
何の罪もないことは、初めから分かっていた。だが今さら、どの顔でリリスに説明できるだろうか。
「……わかった」
皇帝は短く答えると、すぐさま家臣を呼びつけた。
「塔へ行け。セレナを城へ連れて戻れ」
命じられた家臣は急ぎ塔へ向かった。
だが——扉を開けた彼らが見たのは、もぬけの殻の部屋だった。
寒さも感じなくなり、肌は乾き、腹は痛み、指先も瞼さえ動かすことが出来なく、死の影が覆いかぶさる。
意識が遠のく中で、哀しみと憎しみだけが大きくなり広がっていった。
突然、セレナの脳裏に、鮮やかな光が走った。見慣れないだが確かに知っている景色が次つぎと流れてきた。
広大な空の下で魔法を操る自分。
星々をも味方にし、世界の理をねじ伏せた自分。
かつて、誰よりも強く、誇り高かった――偉大な魔導師の記憶。
『お前は……こんなところで終わる存在ではない』
内なる声が、かすかに囁く。
忘れていた。
失っていた。
けれど確かに、自分はかつて、恐るべき力を手にしていた。
セレナの胸に、微かな熱が宿った。
それは命の灯火ではなく、復讐への渇望だった。
「……まだ、終われない」
震える指先に、魔力が戻ってくる。
凍える空気を押しのけ、微かな氷のきらめきが舞った。
セレナはその力を掴み取る。
――絶対に、許さない。
私を見捨てた家族も、偽りの愛も、無関心の世界も。
今度は、自らの力で、すべてを終わらせるために。
塔の中に、冷たい風が吹き荒れた。
目覚めた魔法の中でも得意とした氷魔法がセレナの周囲に凍てつく光を降り注いだ。
そして、彼女は立ち上がった。
かつての王女ではない。
憐れな生贄でもない。
冷徹な魔導師――その誕生の瞬間だった。
目を閉じ自分の中の魔力を確認する。
(大丈夫ね。逃げる事は出来きるわ)
そう確信すると彼女は、血の滲む指先で、壁に言葉を刻んだ。
壁に滲む血の文字が、闇の中に浮かび上がる。
「リリスも助けてはくれなかった」
それを書き終えたセレナは、短く息を吐いた。
もう、誰も信じない。
たった一人で、生きていく。
赤い文字だけが、彼女がそこにいた証だった。
塔の扉は、厚く重たい木でできていて、固く鍵がかけられている。
セレナは最後の力を振り絞りそっと指先を錠前に向け、低く呟いた。
「――開け。」
魔力の糸が鍵穴に入り込み、内部の機構を静かに解きほぐす。
カチリ、とわずかな音。
それだけで扉は自然に開いた。
音を立てず、気配を消すように、セレナは外へと踏み出した。
外の空気はひんやりとしており、肌に触れる冷気が清々しい。
地面は湿り気を帯びており、夜の闇が周囲を包み込んでいる。
振り返ると、開いた扉が見える。
セレナは再び指先をかざし、もう一度魔法を使った。
カチャリ、と音を立て、扉の鍵が再びかかる。
塔の内部は無人のまま、静かに封じられた。
誰にも気づかれることはない。
彼女がここを出たということも。
セレナは、暗闇に包まれた世界へと足を踏み入れた。
――半年後。
皇帝の命によってあの塔を訪れた家臣によって、ようやく「王女が消えた」ことが知られることになる。
それまでの間、セレナの存在は誰にも気づかれないまま、静かに、闇に溶けていった。
嫁いできて半年後に、リリスの誕生日にパーティーを開くことになった。
双子の姉妹であるセレナとともに祝いたい——幼い頃から抱いていた純粋な願いを、リリスは皇帝に告げた。
「どんな願いも叶えてやろう」と言った皇帝は、一瞬だけ表情を凍りつかせた。
……セレナ。
半年前、怒りにまかせて塔に閉じ込めたあの娘。
何の罪もないことは、初めから分かっていた。だが今さら、どの顔でリリスに説明できるだろうか。
「……わかった」
皇帝は短く答えると、すぐさま家臣を呼びつけた。
「塔へ行け。セレナを城へ連れて戻れ」
命じられた家臣は急ぎ塔へ向かった。
だが——扉を開けた彼らが見たのは、もぬけの殻の部屋だった。
10
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
恋愛
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる