6 / 30
1章《赦されざる者たち》
6話 裏切りの果て復讐の門
しおりを挟む
雪が深くなるにつれて、風の音も鋭さを増していた。
それでもセレナは立ち止まらない。むしろ、この極寒の孤独こそが心地よかった。
誰もいない。誰も、裏切らない。
(リリスは、助けてくれなかった。私がこの国に囚われている事はしっていたはずよ………)
思考が過るたび、胸の奥が焼けるように疼く。
あの血文字に込めた言葉は、絶望の中で振り絞った最後の声だった。
私の大事な妹、愛していた。信じていた。それが、愚かだった。
「もう、信じるものは必要ない」
口に出すことで、その感情に蓋をする。
今の彼女にあるのは、過去の清算。ただそれだけ。
――皇帝も、リリスも、民も。まとめて焼き尽くす力が必要だ。
そのためには、力が要る。常識に囚われた魔術師どもでは触れもしない“禁忌”の力。
人を呪い、世界を壊し、秩序を覆す“真なる魔”――。
(王家が恐れ、封じ、歴史から消し去った知識。それこそが、私の切り札になる)
感情に流されず、復讐のために最も合理的な手を選ぶ。
冷徹で、計算高く、だが確実に破滅へと手を伸ばしていく。
それが今のセレナだった。
視界の先、白銀に沈む山肌の中に、わずかに人工の影が見える。
――学院。
まだ崩れきっていない、封印された知の最後の砦。
そこに眠るものが、どれだけの力かは知らない。
だが、選択肢は最初からひとつしかなかった。
「私は……この世界に“呪い”を刻みに来たのよ」
かすかに口元が歪む。微笑とも、哀しみともつかぬその表情は、
人としての何かが、すでに壊れ始めている証だった。
雪に足を取られながら、彼女はただ、前へと進む。
誰にも知られず、誰にも止められず。
この世界の終わりを、その指先に刻むために――。
風雪を切り裂いて、セレナはついにたどり着いた。
雪に埋もれかけた石造りの門が、静かに彼女を迎えていた。
「……ここね」
扉は閉ざされていたが、周囲に微かに残る魔力の痕跡が導く。
かつて、ここに強大な魔術が行き交い、禁じられた学びが積み重ねられていたことを物語っていた。
セレナは手を翳し、術式を紡ぐ。
封印の魔力と共鳴するように、扉が低く唸りながら軋んで開いた。
その瞬間、冷気とは違う、圧倒的な“気配”が空間を支配する。
(これは……精霊の、気配?)
だがそれは、彼女が知るどの精霊とも違っていた。
まるで――怒りや憎しみ、あるいは怨嗟すら孕んだ“感情”が、直接セレナの胸に突き刺さってくるようだった。
「お前も、奪いに来たのか」
声ではない、“意識”が直接流れ込んでくる。
学院の奥深くに、長い間封じられ、存在すら忘れられていた精霊の主――
あるいは、かつて人に裏切られ、ここに縛られた存在か。
セレナは瞳を細め、ゆっくりと歩みを進める。
「違うわ。私は、奪いに来たんじゃない。真実を暴きに来ただけ」
氷の気配が、一瞬だけ揺れた。
「ならば、見せよ。その力と意志を」
そして、学院は再び沈黙に包まれた。だがその静けさの中には、確かに“目覚め”の兆しがあった。
それでもセレナは立ち止まらない。むしろ、この極寒の孤独こそが心地よかった。
誰もいない。誰も、裏切らない。
(リリスは、助けてくれなかった。私がこの国に囚われている事はしっていたはずよ………)
思考が過るたび、胸の奥が焼けるように疼く。
あの血文字に込めた言葉は、絶望の中で振り絞った最後の声だった。
私の大事な妹、愛していた。信じていた。それが、愚かだった。
「もう、信じるものは必要ない」
口に出すことで、その感情に蓋をする。
今の彼女にあるのは、過去の清算。ただそれだけ。
――皇帝も、リリスも、民も。まとめて焼き尽くす力が必要だ。
そのためには、力が要る。常識に囚われた魔術師どもでは触れもしない“禁忌”の力。
人を呪い、世界を壊し、秩序を覆す“真なる魔”――。
(王家が恐れ、封じ、歴史から消し去った知識。それこそが、私の切り札になる)
感情に流されず、復讐のために最も合理的な手を選ぶ。
冷徹で、計算高く、だが確実に破滅へと手を伸ばしていく。
それが今のセレナだった。
視界の先、白銀に沈む山肌の中に、わずかに人工の影が見える。
――学院。
まだ崩れきっていない、封印された知の最後の砦。
そこに眠るものが、どれだけの力かは知らない。
だが、選択肢は最初からひとつしかなかった。
「私は……この世界に“呪い”を刻みに来たのよ」
かすかに口元が歪む。微笑とも、哀しみともつかぬその表情は、
人としての何かが、すでに壊れ始めている証だった。
雪に足を取られながら、彼女はただ、前へと進む。
誰にも知られず、誰にも止められず。
この世界の終わりを、その指先に刻むために――。
風雪を切り裂いて、セレナはついにたどり着いた。
雪に埋もれかけた石造りの門が、静かに彼女を迎えていた。
「……ここね」
扉は閉ざされていたが、周囲に微かに残る魔力の痕跡が導く。
かつて、ここに強大な魔術が行き交い、禁じられた学びが積み重ねられていたことを物語っていた。
セレナは手を翳し、術式を紡ぐ。
封印の魔力と共鳴するように、扉が低く唸りながら軋んで開いた。
その瞬間、冷気とは違う、圧倒的な“気配”が空間を支配する。
(これは……精霊の、気配?)
だがそれは、彼女が知るどの精霊とも違っていた。
まるで――怒りや憎しみ、あるいは怨嗟すら孕んだ“感情”が、直接セレナの胸に突き刺さってくるようだった。
「お前も、奪いに来たのか」
声ではない、“意識”が直接流れ込んでくる。
学院の奥深くに、長い間封じられ、存在すら忘れられていた精霊の主――
あるいは、かつて人に裏切られ、ここに縛られた存在か。
セレナは瞳を細め、ゆっくりと歩みを進める。
「違うわ。私は、奪いに来たんじゃない。真実を暴きに来ただけ」
氷の気配が、一瞬だけ揺れた。
「ならば、見せよ。その力と意志を」
そして、学院は再び沈黙に包まれた。だがその静けさの中には、確かに“目覚め”の兆しがあった。
10
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
恋愛
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる