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1章《赦されざる者たち》
19話 裁きの刻印
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広場の様子が鏡の中で流れていく。
塔で味わった、あの飢えと渇き。
孤独の中で、ただ死を待つしかなかった、あの絶望――
今、同じ苦しみが、この国の民達の身に降りかかっている。
「……これが、断罪……」セレナは呟いた。
精霊の声が、私の頭の中でこだまする。
『罪は消えぬ。贖いも、言い訳も、ここには通じない。
お前が味わった絶望を、彼らも知るがいい』
赦しが訪れぬ限り、彼らは生きながらにして、飢えと渇きに苛まれ続ける。
それは誰にも消せぬ「罪の証」。
苦しみも、悔いも、もはや言葉で贖えぬ裁き。
「私は……命令に従っただけ……」
「貴族の意向には逆らえなかった……」
「私には何もできなかった……」
言い訳だけを繰り返す者はそのたびに、心の臓が細く鋭い刃物で突き刺されるような痛みに襲われる。
おのれの欲に溺れ、セレナを辱めようと企んだ者たちは太く長い灼熱の矢で心の臓を抉られるような痛みにのたうち回った。
誰もが、逃れられない「断罪」を感じていた。
私は、精霊の姿なき断罪をじっと見つめていた。
断罪される人々の恐怖や絶望、時に開き直りや逆恨みの感情が、私の心に重くのしかかる。
それでも、精霊の声は揺るがない。
「善悪は明白。曖昧さはさらなる罪を生む」
叫び、泣き崩れる人々。
赦しを求めても届かぬ者。
手を差し伸べる者が、もういないと知った者。
冷たい風が頬を過ぎた。
断罪の精霊の揺るぎない絶対的な正義。
セレナは自分自身の心も凍りついていくような錯覚を覚えた。
天は稲妻がはしり地は揺れた。
断罪はなお終わらない。
広場に静寂が戻ったとき、皇帝の胸元にも、リリスの胸元にも、他の誰とも違う深い刻印が浮かび上がった。
まず皇帝が膝をついた。
その顔は蒼白で、額には冷や汗がにじんでいる。
「……これは……」
皇帝は胸元を押さえ、苦しげに息をついた。
その瞬間、彼の視界に塔の暗闇が広がる。
冷たい石壁、窓のない部屋、飢えと渇き、孤独と絶望――
あの塔でセレナが味わった全ての感覚が、皇帝の心と身体を満たしていく。
「やめてくれ……私は……私は……」
皇帝の声は震えていた。
周囲の民衆はその姿を見つめ、誰も声をかけることができない。
精霊の声が、皇帝の心に直接響く。
『お前は、王としての責務を放棄し、言葉の重みを忘れた。
見て見ぬふりをし、命じた罪からも逃げた。
その弱さも、ずるさも、全てここに裁かれる。
お前は、国の痛みを自らの身で味わえ。』
皇帝は胸元を押さえたまま、地面に崩れ落ちた。
その目には、セレナの苦しみと同じ絶望が浮かんでいた。
次に、リリスの胸元にも刻印が浮かび、淡い光を放った。
リリスはその場に立ち尽くし、涙をこぼす。
「お姉様……私……私は……」
リリスの心に、幼い日の思い出が蘇る。
姉の手を離した日、周囲の言葉に流され、真実から目を背けた日々。
セレナが塔で凍えていた時、自分は何も知ろうとはせずに温かな部屋で過ごしていた――
その記憶が、胸の奥に鋭く突き刺さる。
精霊の声が、リリスの心にも響く。
『お前は、愛する者の苦しみから目を背けた。
耳障りの良い言葉に逃げ、真実を知ろうとしなかった。
その怠惰も、恐れも、ここに裁かれる。
お前は、姉の孤独と絶望を、夢の中で繰り返し味わえ。』
リリスは膝をつき、静かに泣き崩れた。
私は鏡越しにその光景を見ていた。
断罪の精霊は、誰にも容赦しない。
皇帝も、リリスも、私の苦しみを――
今、ようやく知るのだ。
人間の醜さを改めて気づかされる。そして断罪の精霊の大いなる力と迷いなき断罪。
はたして、呼び起こしてよかったのか………
セレナもまた弱さと狡さを持つ人間なのだ。(私も醜く浅ましい……)
セレナの胸にいい知れぬ不安がよぎった。
塔で味わった、あの飢えと渇き。
孤独の中で、ただ死を待つしかなかった、あの絶望――
今、同じ苦しみが、この国の民達の身に降りかかっている。
「……これが、断罪……」セレナは呟いた。
精霊の声が、私の頭の中でこだまする。
『罪は消えぬ。贖いも、言い訳も、ここには通じない。
お前が味わった絶望を、彼らも知るがいい』
赦しが訪れぬ限り、彼らは生きながらにして、飢えと渇きに苛まれ続ける。
それは誰にも消せぬ「罪の証」。
苦しみも、悔いも、もはや言葉で贖えぬ裁き。
「私は……命令に従っただけ……」
「貴族の意向には逆らえなかった……」
「私には何もできなかった……」
言い訳だけを繰り返す者はそのたびに、心の臓が細く鋭い刃物で突き刺されるような痛みに襲われる。
おのれの欲に溺れ、セレナを辱めようと企んだ者たちは太く長い灼熱の矢で心の臓を抉られるような痛みにのたうち回った。
誰もが、逃れられない「断罪」を感じていた。
私は、精霊の姿なき断罪をじっと見つめていた。
断罪される人々の恐怖や絶望、時に開き直りや逆恨みの感情が、私の心に重くのしかかる。
それでも、精霊の声は揺るがない。
「善悪は明白。曖昧さはさらなる罪を生む」
叫び、泣き崩れる人々。
赦しを求めても届かぬ者。
手を差し伸べる者が、もういないと知った者。
冷たい風が頬を過ぎた。
断罪の精霊の揺るぎない絶対的な正義。
セレナは自分自身の心も凍りついていくような錯覚を覚えた。
天は稲妻がはしり地は揺れた。
断罪はなお終わらない。
広場に静寂が戻ったとき、皇帝の胸元にも、リリスの胸元にも、他の誰とも違う深い刻印が浮かび上がった。
まず皇帝が膝をついた。
その顔は蒼白で、額には冷や汗がにじんでいる。
「……これは……」
皇帝は胸元を押さえ、苦しげに息をついた。
その瞬間、彼の視界に塔の暗闇が広がる。
冷たい石壁、窓のない部屋、飢えと渇き、孤独と絶望――
あの塔でセレナが味わった全ての感覚が、皇帝の心と身体を満たしていく。
「やめてくれ……私は……私は……」
皇帝の声は震えていた。
周囲の民衆はその姿を見つめ、誰も声をかけることができない。
精霊の声が、皇帝の心に直接響く。
『お前は、王としての責務を放棄し、言葉の重みを忘れた。
見て見ぬふりをし、命じた罪からも逃げた。
その弱さも、ずるさも、全てここに裁かれる。
お前は、国の痛みを自らの身で味わえ。』
皇帝は胸元を押さえたまま、地面に崩れ落ちた。
その目には、セレナの苦しみと同じ絶望が浮かんでいた。
次に、リリスの胸元にも刻印が浮かび、淡い光を放った。
リリスはその場に立ち尽くし、涙をこぼす。
「お姉様……私……私は……」
リリスの心に、幼い日の思い出が蘇る。
姉の手を離した日、周囲の言葉に流され、真実から目を背けた日々。
セレナが塔で凍えていた時、自分は何も知ろうとはせずに温かな部屋で過ごしていた――
その記憶が、胸の奥に鋭く突き刺さる。
精霊の声が、リリスの心にも響く。
『お前は、愛する者の苦しみから目を背けた。
耳障りの良い言葉に逃げ、真実を知ろうとしなかった。
その怠惰も、恐れも、ここに裁かれる。
お前は、姉の孤独と絶望を、夢の中で繰り返し味わえ。』
リリスは膝をつき、静かに泣き崩れた。
私は鏡越しにその光景を見ていた。
断罪の精霊は、誰にも容赦しない。
皇帝も、リリスも、私の苦しみを――
今、ようやく知るのだ。
人間の醜さを改めて気づかされる。そして断罪の精霊の大いなる力と迷いなき断罪。
はたして、呼び起こしてよかったのか………
セレナもまた弱さと狡さを持つ人間なのだ。(私も醜く浅ましい……)
セレナの胸にいい知れぬ不安がよぎった。
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