2 / 7
婚約破棄の宣言
しおりを挟む
春の柔らかな陽光が、リーデル侯爵家の応接間に差し込んでいた。
エリスはいつものように静かに椅子に腰かけ、窓の外に広がる庭園を眺めていた。
そんな折、侍女が控えめに扉をノックする。
「エリス様、グレンデル侯爵家のレオン様がお見えです」
エリスは小さく頷き、静かに「通して」とだけ告げた。
ほどなくして、レオンが姿を現す。彼の隣には、淡いピンクのドレスを纏った見慣れぬ令嬢――クラリス・バルトン男爵令嬢が控えていた。
「ごきげんよう、エリス」
レオンはどこか緊張した面持ちで挨拶し、エリスの向かいに腰を下ろす。クラリスは控えめに一礼し、レオンの隣に立ったままだ。
「今日は突然お邪魔してしまい、申し訳ない」
エリスは静かに首を振る。
「お気になさらず。ご用件をお聞かせください」
レオンは一度、深く息をつき、決意を固めるように言葉を紡いだ。
「エリス、僕は……君との婚約を破棄したい」
その言葉が、応接間の空気を一瞬で凍りつかせた。
エリスは、まるで何事もなかったかのような静けさでレオンを見つめる。
「理由を、お聞かせ願えますか」
レオンはエリスの反応に戸惑い、そして苛立ちを隠せない様子だったが、覚悟を決めて続ける。
「僕は……運命の人に出会ってしまったんだ。クラリス嬢が、その人だ」
クラリスは、恥じらうように俯きながらも、時折レオンを見上げる。その目には、勝ち誇った色が浮かんでいた。
「君はいつも静かで、何を考えているのかわからない。僕は、もっと心を通わせられる相手が欲しいんだ」
エリスは、静かにレオンの言葉を受け止めていた。その姿に、レオンはさらに苛立ちを募らせる。
「君は本当に冷たいよ。何を言っても、表情一つ変えない。まるで人形だ」
クラリスが小さく微笑む。
「レオン様、もうよろしいのでは? エリス様のような方、貴方にはふさわしくありませんわ」
エリスはゆっくりと立ち上がり、二人を見下ろす。その瞳は、氷のように冷たく澄んでいた。
「……なるほど。私の静けさが、お気に召さなかったのですね」
エリスの声は、これまでになく鋭さを帯びていた。
「ですが、静かであることと、感情がないことは違います。私は、あなた方のように自分の欲望のままに他人を傷つけることはできません。しかし、私にも誇りがあります。家の名誉を守るために、あなたの数々の不義を黙認してきましたが、今日をもってその必要もなくなりました」
レオンの顔色がみるみる青ざめていく。
「な、何を……」
「レオン様。あなたが昨年の舞踏会で他家の令嬢に無礼を働いたこと。クラリス様が裏で侍女を買収し、他人の噂を流していたこと。全て記録しております。証人もおります」
エリスは淡々と、しかし一切の容赦なく告げる。
「私が黙っていたのは、家のため、あなたのためでした。ですが、もう遠慮はしません。あなた方のような方々が社交界にいること自体、害ですから」
クラリスは顔を青ざめさせ、レオンは呆然とエリスを見つめた。
「ご安心ください。証拠はすでに各家に送付済みです。あなた方の行いが、どのような結末を迎えるか……ご自分でお確かめください」
エリスは二人に向き直り、静かに一礼した。
「本日はわざわざお越しいただき、ありがとうございました。どうぞお気をつけてお帰りくださいませ」
その言葉に、レオンとクラリスは顔を引きつらせたまま立ち上がる。エリスは扉の前まで歩み寄り、呼び鈴で侍女を呼ぶ。
「お客様を玄関までお送りして」
淡々とした口調でそう告げると、エリスは最敬礼で二人を見送った。
エリスはいつものように静かに椅子に腰かけ、窓の外に広がる庭園を眺めていた。
そんな折、侍女が控えめに扉をノックする。
「エリス様、グレンデル侯爵家のレオン様がお見えです」
エリスは小さく頷き、静かに「通して」とだけ告げた。
ほどなくして、レオンが姿を現す。彼の隣には、淡いピンクのドレスを纏った見慣れぬ令嬢――クラリス・バルトン男爵令嬢が控えていた。
「ごきげんよう、エリス」
レオンはどこか緊張した面持ちで挨拶し、エリスの向かいに腰を下ろす。クラリスは控えめに一礼し、レオンの隣に立ったままだ。
「今日は突然お邪魔してしまい、申し訳ない」
エリスは静かに首を振る。
「お気になさらず。ご用件をお聞かせください」
レオンは一度、深く息をつき、決意を固めるように言葉を紡いだ。
「エリス、僕は……君との婚約を破棄したい」
その言葉が、応接間の空気を一瞬で凍りつかせた。
エリスは、まるで何事もなかったかのような静けさでレオンを見つめる。
「理由を、お聞かせ願えますか」
レオンはエリスの反応に戸惑い、そして苛立ちを隠せない様子だったが、覚悟を決めて続ける。
「僕は……運命の人に出会ってしまったんだ。クラリス嬢が、その人だ」
クラリスは、恥じらうように俯きながらも、時折レオンを見上げる。その目には、勝ち誇った色が浮かんでいた。
「君はいつも静かで、何を考えているのかわからない。僕は、もっと心を通わせられる相手が欲しいんだ」
エリスは、静かにレオンの言葉を受け止めていた。その姿に、レオンはさらに苛立ちを募らせる。
「君は本当に冷たいよ。何を言っても、表情一つ変えない。まるで人形だ」
クラリスが小さく微笑む。
「レオン様、もうよろしいのでは? エリス様のような方、貴方にはふさわしくありませんわ」
エリスはゆっくりと立ち上がり、二人を見下ろす。その瞳は、氷のように冷たく澄んでいた。
「……なるほど。私の静けさが、お気に召さなかったのですね」
エリスの声は、これまでになく鋭さを帯びていた。
「ですが、静かであることと、感情がないことは違います。私は、あなた方のように自分の欲望のままに他人を傷つけることはできません。しかし、私にも誇りがあります。家の名誉を守るために、あなたの数々の不義を黙認してきましたが、今日をもってその必要もなくなりました」
レオンの顔色がみるみる青ざめていく。
「な、何を……」
「レオン様。あなたが昨年の舞踏会で他家の令嬢に無礼を働いたこと。クラリス様が裏で侍女を買収し、他人の噂を流していたこと。全て記録しております。証人もおります」
エリスは淡々と、しかし一切の容赦なく告げる。
「私が黙っていたのは、家のため、あなたのためでした。ですが、もう遠慮はしません。あなた方のような方々が社交界にいること自体、害ですから」
クラリスは顔を青ざめさせ、レオンは呆然とエリスを見つめた。
「ご安心ください。証拠はすでに各家に送付済みです。あなた方の行いが、どのような結末を迎えるか……ご自分でお確かめください」
エリスは二人に向き直り、静かに一礼した。
「本日はわざわざお越しいただき、ありがとうございました。どうぞお気をつけてお帰りくださいませ」
その言葉に、レオンとクラリスは顔を引きつらせたまま立ち上がる。エリスは扉の前まで歩み寄り、呼び鈴で侍女を呼ぶ。
「お客様を玄関までお送りして」
淡々とした口調でそう告げると、エリスは最敬礼で二人を見送った。
3
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません
藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は
愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。
夫が愛人を持つことも、
その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。
けれど――
跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。
その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。
私は悟ったのだ。
この家では、息子を守れないと。
元々、実家との間には
「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。
ならば話は簡単だ。
役目を終えた私は、離縁を選ぶ。
息子と共に、この家を去るだけ。
後悔しているようですが――
もう、私の知るところではありません。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる