息子を訪ねて何万光年?

夢花音

文字の大きさ
4 / 9
1章

3話

しおりを挟む
眩い白光の中で、美月の意識は途切れた。
次に目を開けたとき、そこは見知らぬ白い部屋だった。壁も天井も淡く光を放ち、どこから音がしているのかも分からない。
ベッドに横たわる身体は軽く、痛みもない。
死ななかった?何かがぶつかって、強い衝撃と痛みがあった。死んだのかと思ったけど……。美月はゆっくりと周りを見回した。

傍らには、見知らぬ白衣を着た少女が立っていた。ナミは何かを操作しながら、安堵の息をついた。
「…成功した。よかったわ。もう大丈夫ね」
言葉が通じず、美月は混乱して身を起こす。
周囲に並ぶ奇妙な機械、光る装置、聞き取れない言語。しかしナミが首元の端末をタップすると、柔らかな声が響いた。

「翻訳機を起動しました。会話が可能です」

少しずつ言葉が理解できるようになり、程なく会話もスムーズになっていった。美月の呼吸が落ち着いていく。
ナミは淡々と説明した。この時代――人はもう老いることも、死ぬこともない。
内臓も血液も骨も人工的に培養でき、望む姿、望む年齢、望む性別を自由に選べる。
家族という概念は消え、気に入った者とだけ共に暮らす。人口は制御され、誰一人として余ることも欠けることもない。
この世界の言葉は一つだけになり、日本語も英語もフランス語も、もう存在しない。
だが古い記録を解析するため、翻訳機だけは残されている――と。

美月はようやく、自分の状況を理解し始めた。自分は死んだ。そして未来へ連れて来られ、蘇生させられた。その身体はかつてのものではなく、強靭な筋肉と反射速度を持ち、あらゆる病原菌やウィルスに耐性を備えている。さらに、学習能力も飛躍的に高められていた。衝撃的な事実なのに美月はなぜか"他人事"のような気がしていた。ナミが新しく作った精神には並行する知能とパニックを起こさない制御が施されているからだと思う説明してくれた。
ナミの言う未来は、科学が極限まで進歩した世界だった。人々は仕事を「個人の義務」として保持しており、すべてをAIに任せることは禁じられていた。
 
百年前、AIに依存し過ぎた人類は衰弱し、
歩くことすらできなくなったのだという。
その反省から、政府は自動運転を禁止し、空中に転送歩道を張り巡らせ、人々が一定の距離を歩くよう管理している。

病院は存在しない。代わりに個々の医療カプセルがあり、そこへ入れば病気も怪我も、数時間で完治する。

――そして、美月はこれからこの世界に留まり、新しい身体と記憶を安定させるための生活を始めることになった。研究所でナミの手伝いをしながら、美月の生体データを提供し、学び、記録していく。

けれど、心の奥底で美月は決して忘れていなかった。あの日、光に包まれて消えた――渉。その行方を探す。

何度もナミから謝罪を受けた。研究室の代表だと言う女性のエレオナからも謝罪を受けた。美月を、殺してしまったこと、仕方が無かったとはいえ許可なく身体を作ったことなどを何度も何度も謝罪されたが、機械になったわけでも無いし、まぁ、美月からしたら人間離れ?してるけどでも生きている。美月は何かお詫びをと言う2人に、渉の召喚話しをして異世界に行きたいから研究させて欲しいと頼んだ。2人は異世界召喚に大変興味を持ち快く快諾してくれた。
「ねえ、美月。あなたの話だと渉くんだけではなく他にも召喚されたんだよね?その子たちは……」
美月はナミに頷くと
「もちろん、一緒に連れて帰るわよ」
と力強く言った。あの子たちにも家族がいて美月と同じように悲しんでいた。

美月は異世界へ行く手段を求めて、研究を始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【完結】異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり
ファンタジー
望んで異世界へと来たわけではない。 望んで召喚などしたわけでもない。 ただ、落ちただけ。 異世界から落ちて来た落ち人。 それは人知を超えた神力を体内に宿し、神からの「贈り人」とされる。 望まれていないけれど、偶々手に入る力を国は欲する。 だからこそ、より強い力を持つ者に聖女という称号を渡すわけだけれど…… 中に男が混じっている!? 帰りたいと、それだけを望む者も居る。 護衛騎士という名の監視もつけられて……  でも、私はもう大切な人は作らない。  どうせ、無くしてしまうのだから。 異世界に落ちた五人。 五人が五人共、色々な思わくもあり…… だけれど、私はただ流れに流され…… ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...