息子を訪ねて何万光年?

夢花音

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1章

4話

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ナミの研究室に、静かな電子音が満ちていた。大型モニターには、街中の監視カメラや報道映像を再構成した“光の輪”の解析映像が映し出されている。
ナミが未来政府のデータベースから、事件当日の全記録を取り寄せたのだ。

「これが、渉くんが消えた直後の映像です。」
ナミの声に、美月は唇を噛んだ。
画面の中で、床の一点が突然発光し、渉くんがその中心で振り向いた瞬間、映像は飽和した光に包まれる。一秒にも満たない閃光。だがナミは、その一瞬を何千ものフレームに分解して解析していた。

「やっぱり普通のエネルギー反応じゃない……。この波形、時間の流れが途中で“ねじれてる”。」
ナミが指先で数値を拡大する。
「時間軸の乱れと同時に、空間の座標データにもズレが生じてる。つまり、どこか別の層に貫通する力が働いたみたいです。」

「別の層……?」
「ええ。あなたの時代の物理では説明できないわ。でも、この記録を解析していくと、現場にはまだ何かが残っている可能性が高いのよ。」

美月は画面を見つめながら、ふと違和感を覚えた。
映像の床に描かれた模様のような光のくねり――それは偶然にできた光の反射や模様ではなく、秩序ある図形に見えたのだ。
幾何学的な線と円が幾重にも重なり、まるで“意味を持つ図式”のように。

「……これ、光じゃないわ。描かれていたの。あの時も。床に……円が、記号みたいな線がうっすら見えたの。え?見た事ある?……ゲームで!まさか魔法陣?うそ……」
美月が低く呟く。
ナミが目を瞬かせ、データを拡大する。
「確かに……線の軌跡が繰り返し同じ座標を通過してる。自然光では説明できませんね。魔法陣ですか……興味深いですね。」
彼女の声に、科学者としての興奮と警戒が混じっていた。

「映像だけでは限界があります。あの場所に残った“痕跡”を、直接観測するしかありません。」
「……現場に行くってこと?魔法陣なんて本当にあるの?」
「そうです。あの“魔法陣”が発生した床の位置に。」
「でも……」と美月はナミに戸惑いながら聞いた。
「なんで、私たちの世界のゲーム投稿同じ魔法陣が?」
ナミは首を振って
「それはわからない。もっと研究してみなければ。しかしあの時のあの場所に行くしかないわ」
そのための装置が、実験室の中央に待機していた。
名称:第二試作機《クォンタム・エコーセンサー(QES)》搭載型時空観測バイク。
乗員数:二人乗り(前後式)。
美月は長すぎるので"タイムマシーンバイク"と呼んでいる。

元々は研究用に設計されており、操縦者(ナミ)と観測者(助手・データ記録者)が同乗する仕様。
前回の観測実験で美月を事故死させてしまったことを重く受け、以降は単独運転を禁止。安全基準の改訂により、必ず監視者またはサポート要員の同乗が義務づけられた。
運転席には生命体感知センサーを設置し、操縦者が生体反応を失った場合、即座に緊急停止。
後部座席には「感知機能スペシャル」を搭載。監視者が危険を察知した瞬間に作動可能な緊急ストッパーが、時空駆動を一瞬で遮断する。
外装シールド《ジルド》は二名分を包み込む形で展開し、衝撃・圧力・時空歪曲に対する防御性能を向上する。

美月はしばらく黙って装置を見つめた。
再び、あの場所へ行く。
胸の奥で、渉の名が静かに響く。
「……行きましょう。そこに、まだ渉くんの痕跡があるなら。」
美月が頷き、それを合図にバイクのコアが淡い青光を放った。
次の瞬間、二人は時空の境界を超えていく。
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